42話 帝都アルバニアⅡ
冒険者ギルドに駆け込み、さっそく受付に依頼完了報告をする。
「依頼の達成承りました。あら? あなたがマイルズで認定された最年少アジェンテでしたか。ようこそアルバニア冒険者ギルドへ。こちらの依頼達成によりEランクへの昇格要件を満たしました。本日よりEランクとなります。おめでとうございます。つきましてはギルドカードの更新を行いますので、少々お時間頂きますが建物内でお待ちいただけますか?」
カードを見ればアジェンテである事は分かるだろうが、俺がマイルズで認定を受けた事も分かっているらしい。ギルドの情報網はすごいな。
「わかりました」
あんな楽な依頼で上がっていいものかと少々怖くなったが、上がるのは別に悪い事ではないし、今はさして興味も無い。とりあえず掲示板を覗いて時間を潰すとしよう。
す、少なっ…
張り出されている依頼は、明らかにマイルズの半分以下だった。周りにいた冒険者も同じような事を思っているようで、方々から文句が聞こえる。
「やっぱ帝都の依頼は大したもんねぇなぁ」
「美味しいやつはやっぱ早いもん勝ちかぁ…今日は出直すか」
「
やはりこの時間だと他の冒険者が一通り物色していった後のようだ。それに帝都周辺は騎士団の警戒が強いので、討伐依頼もそんなに無いのだろう。
まぁ、戦闘ばかりが冒険者の仕事ではない。何か受けられそうなものがあったらまた後で受けよう。とりあえず、ギルドカードの更新が終われば街に出たい。依頼はそれからだ。
しばらく依頼を眺めていると受付の職員に呼ばれ、新たなギルドカードを渡される。今度は緑のカードだ。Fの時と同じく、端に『E』と刻印されていた。
「リカルドさん。現在
「ああ、そういえばその事をすっかり忘れていました。何が登録できるのか知らないのですが、何があるのですか? あとジンで結構ですよ」
「そうでしたか。ふふっ、ジン君はいろいろ規格外ですね。今は
「えーっと、そんなに登録する事に意味があるのですか? 登録しなくても依頼は受けられますよね?」
「ええ。依頼は推奨ランクと職員の判断ですので、依頼を受けるのに職業は関係ありません。ですが、パーティー募集に応募したり、仕事の指名依頼やギルドの方でパーティーの斡旋をしたりする時は、職業が指定される場合が殆どですので、登録しておけば仕事が増えますよ」
「なるほど。ではお任せします」
「…え?」
「私は冒険者になったばかりで職業に関してはあまり詳しくありませんし、やれることをやるだけです。冒険者であればそれでいいので。仕事が頂けるように、詳しいギルドの方にお任せした方がいいと思いました」
「ふふっ、わかりました。では上位職の
「わ、わかりました。四つですね、四つ、四つか…グラ、ディ?…サーチ…アルクス、はオプトさんと同じで…ソーサ…はい! 覚えました!」
俺の様子がおかしかったのか、職員はクスクスと笑っている。とりあえず仕事の幅が増えるのなら問題ない。今日は宿を確保してから街を探索する。それが今の俺の任務なのだから。
「では、また明日こちらに伺います。ありがとうございました」
「はい。いってらっしゃい。お待ちしていますね」
◇
宿を確保して荷物を置いた。宿の代金が一泊朝食付で銀貨二枚だったのが気になったが、帝都なら多少高くても仕方がないと思い直す。
金袋だけ携えて俺は街を散策していた。かなり離れたとこに皇城がある。城付近はマイルズと同様に、貴族の別宅が並ぶ貴族街だろうから入れないが、それは別に構わない。
どうやらアルバニアは皇城を中心に周りに貴族街、そこから放射線状に街が形成されているようだ。マイルズの様に住宅区、商業区、工業区に分かれている訳ではなく、すべてが入り乱れて建物が立っているようだが、街の景観は綺麗に舗装された道路や街灯で統一感が醸し出されており、雑多な印象どころか、整然とした美しい街並みである。
とりあえず腹ごしらえにと食堂に入る。中は人でにぎわい、給仕がいそいそと動き回っていたが、待つことなく席に案内されて品書きを見る。すると表書きに大きな文字で『今日のおススメ。”超新鮮!海の幸の満足アクアパッツァ”』と書かれていた。銅貨二枚でお勧めなら食べない手は無い。
ただ、内陸にある帝都で本当に新鮮な海の幸なのか? と若干疑ったがそれはいい。アクアパッツァと言うのも何かわからない。何かの魔法かとも思ったがそれも置いておく。とにかく食う。文句はそれからだ。
「そうこそ猫又亭へ! ご注文はお決まりですか?」
「あの今日のおススメを頂けますか? それとパンと果実酒を」
「承りました! 少々お待ちくださいねっ!」
少し待つと、テーブルの上にドンと魚や貝をメインに野菜がちりばめられた大皿が出て来た。立ちのぼる湯気からは潮の香りが漂う。野菜も赤、緑、黄と色鮮やかで目でも味わえる。とても旨そうだ。アクアパッツァという名の由来は謎だが、美味けりゃどうでもいい。
一口食べると、新鮮な魚と貝のうま味が口の中に広がった。
うまいっ!
手に持つナイフとフォークが止まらない。次々と口に運び、時折パンを大皿に浸し、海鮮のエキスを吸わせ頬張る。パンも柔らかく、マイルズの騎士団宿舎で出て来たパンにも劣らない。最後に贅沢に果物を絞って作られたであろう果実酒をゴキュっと飲み干し、ごちそうさま。
さすが帝都に店を構えるだけの事はある。しばらくこの品でいいのではと思ったが、どうやらお勧めは毎日違うようなので、通うのも良いかも知れない。
「うまかった…すみませんお会計を」
「は~い。今日のおススメが銀貨二枚、パンが中銅貨一枚、果実酒が中銅貨一枚になりま~す」
――――な、なにっ!?
どうやら俺は銅貨と銀貨を見間違えていたらしい。
何という油断! 戦なら完全に致命傷を受ける程の失態ではないか! パンと果実酒もそれぞれでマイルズの宿の食事一食分だし、完全に帝都の物価を侮った! 帝都の食堂は皆こうなのか!?
あれだけ美味かったのだから文句を言うつもりは無いが、流石に一日二回通える金額ではない。そんな事をすればすぐに金が底をついてしまう。
俺はなるべく顔には出さぬよう銀貨二枚を差し出しながら、せめてもと、魚介が新鮮な理由を聞いてみた。
「あの、どうして内陸の帝都でこのような新鮮な魚介が手に入るのですか?」
「北部の港町シーモイから氷魔法で凍らせてここまで運ばれてくるからですよ。その代わり、お値段は見ての通りになっちゃいますけどね♪」
スルト村からさらに北東に行くと、シーモイと言う街があると聞いたことがある。母上が稀に魚介を食卓に出してくれていたが、こんなに高かったのか。申し訳…いや、ありがとうございます、母上。
「なるほど、勉強になりました。美味しかったです、ご馳走様でした。」
「いいえ~、またのご来店お待ちしておりまーす!」
氷魔法で凍らせて鮮度を維持する…か。輸送の時間を考えると、魔法陣を使っているのだろう。氷が溶けるごとに氷魔法を放つわけにはいか無いだろうし。そんな魔法の使い方もあるとは、いつか氷魔法を覚えておいても損は無いな。
少し軽くなった金袋を引っ提げ、再び街に繰り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
な、なにこの子超かわいぃ~! ヤバイよ! ほんとにアジェンテなの!?
アルバニア冒険者ギルド受付嬢のノーラは今年で二十歳になる。職として安定した冒険者ギルドに勤めて二年になる彼女は、目の前に突如として現れた黒髪の少年に興奮していた。
切れ長の目に黒い瞳。短く切られた黒髪は整えられておらず、逆に飾らない良さがある。それに立ち居振る舞いも冒険者らしからぬ雰囲気があり、言葉遣いも丁寧ときた。
普段どちらかと言えば粗暴な冒険者ばかりを相手に仕事をしているノーラにとって、それは荒野に突如として現れたオアシス。彼女がこの職場で初めて抱いた感情は、仕方の無い事なのかも知れない。
この適職(登録できる職業)の数…ぜったい上位ランカー並よねぇ。ポイントもDまで溜まってるし、Gランク研修でとんでもない評価を受けたのね…十五歳でこんなの見た事無い。かわいい上に強いだなんて反則だわっ! 少しでも長く
ジン君に職業を覚えてと言ったら、彼はなんだか悩み始めた。目を瞑って思案しているようだけど、ちょっと困っているように見える。よっぽど職に興味が無いのだろうか。冒険者なのに。素直に覚えようとしてるトコもこれがまたカワイイわね…
色々な規格外に、珍しさも相まってつい笑ってしまった。
また明日も来てくれるみたい。いつも言わないのに『いってらっしゃい』とか言っちゃったし。仕事の楽しみが増えたわぁ♪
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