41話 帝都アルバニアⅠ
翌朝俺はギルドに来ていた。掲示板を見て帝都までの護衛依頼が無いか見てみたが、街を渡る護衛依頼はいくつかあったものの、どうも帝都行きが無い。どうしようかと考えたが、手元にゴレムスの魔力核があるのを思い出し、先に売ってしまおうという事で受付に行ってみる。
「あの、素材の買取をお願いしたいのですが」
「承ります。カードと品物をお願いします」
「これです」
俺は首から下げているギルドカードを鎖ごと渡し、布袋から魔力核を取り出す。アジェンテのカードも一緒になってしまうがギルドの受付なら問題ないだろう。
「あら? あなたが噂の最年少アジェンテさんですか。それにこれはゴレムスの魔力核ですよね。Fランクで倒せる相手ではないと思いますが流石です。この魔力核はギルドでは金貨2枚での買取になりますが、どうしますか?」
「ギルドではと仰いましたが、他に売れるアテはあるのですか?」
「そうですね、冒険者さんによっては懇意にしている商店や商会に直接売る方もいらっしゃいますね。需要によっては、そちらの方が高く買い取ってもらえることもあるそうです。ですが、その筋の紹介でもない限り、一元の方や付き合いの浅い方は安く買い叩かれる事もありますので、ギルドで売ってしまうのが手っ取り早いですし、安全だと思いますよ?」
一理どころか間違いないな。村のニットさんも俺達が狩った素材はギルドで売っていたらしいし、あの人は商売に甘くない。ギルドとの取引が一番効率的だったのだろう。そもそも冒険者ギルドは冒険者の為にある。冒険者の不利になるような取引はしないだろう。
「ではお願いします」
「承りました。金貨二枚です。お受け取り下さい」
受け取った金貨を金袋に入れ、ダメ元で依頼について聞いてみる。
「もう一つよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「帝都までの護衛や輸送の依頼が無いか先ほど見てみたのですが、無いようでして。張り出していないものがあったりしませんか?」
「そうですね。帝都からマイルズまでの街道は帝国一安全な街道なのです。途中でアルバニア騎士団と魔法師団が野外訓練を行っていて、訓練で魔物や魔獣は駆除されちゃうんですよ。野盗の類が出たという報告も聞いた事が無いですね。よほど重要な物の輸送や護衛でなければ、依頼が出る事はありませんね」
「なるほど。考えてみればそれもそうですね」
スルトからここまで来る時さえ何もなかったのだ。帝都が近いとなるとそれも納得である。
「わかりました。ご丁寧にどうもありがとうございました」
頭を下げ、もう一度掲示板に向かおうとすると、
「あ、そうだ! リカルドさんちょっと待ってて下さい!」
そういって受付の職員は後ろのドアから出ていき、そう待つ間もなく戻って来る。
「もうすぐギルドの定期便が帝都に向かうそうです! 一応冒険者さんのお手紙とかギルドの書類なんかの輸送になりますので、重要だったりします。こちらのマイルズ―帝都間の定期便護衛は報酬はありませんが、少ないですがポイントが付きます。荷物に紛れて馬車にも乗れますし、どうですか?」
願っても無い提案だ。馬車にも無料で乗れるし、到着も早くなる。
「是非お願いします!」
そういって即受諾。すぐに出そうとの事だったので、早速依頼開始となった。
マイルズには十日程の短い滞在だったが、非常に濃い日々だったと、早くも郷愁に駆られる気分になるが振り払って気持ちを切り替える。
―――さらばマイルズ。良い街だった。
◇ ◇ ◇ ◇
帝都までの三日間の旅路。一日目二日目と何もなく本当に暇だった。帝都までの街道はびっしりと石畳が敷かれ、”神獣の足跡”にも劣らない綺麗さ。馬車の揺れもほとんど無く、眠くなるばかりだった。
途中聞いた話では、ギルドの定期便は三日に一回のペースで出ており、御者はギルドの職員らしい。筆記作業ばかりでは無いのだなと思い聞いてみると、職員の仕事は本当に多岐に渡るようだ。事務作業は勿論、魔物や魔獣の情報収集や、最低限の戦闘訓練、冒険者を伴って未開の地域の探索もする事があるという。さらに、数年前から魔物が大量発生している事もあり、人員に余裕のあるギルドからその地方に人員が割かれ、逆に職員が減ったギルドは人手不足となっているようだ。この辺りはエドワードさんから聞いていたが、本当のようだった。
こう言った事情もあり、こうしてたまに回ってくる定期便の御者係は良い息抜きになるらしい。何か起こらないかと、少々期待していた俺は不謹慎だったのかもしれない。
三日目にはあまりにやる事が無く、御者台に乗せてもらい御者のコツを教わっていた。うむ、楽しい。初日からこうすればよかった。
「いやぁ助かるよ。のんびりできるのはいいけど、ずっと座ってるのは腰にくるんだよなぁ」
「私ももう少し早く言っておけばと後悔しております。いい勉強になります」
「変わった若者だなぁ。このルートで護衛付く事も珍しいけどさ、君はそれ以上に珍しい冒険者だね」
「そうなのですか?」
「そうともさ。Fランクだろ? 君。だったらFかEランク同士でパーティー組んでるのが普通だよ。下級者のソロじゃこなせる依頼も少ないからね」
「あの、私と同じぐらいの年で冒険者の方はいますか?」
「ん~、いない事は無いけどこの辺じゃ少ないんじゃないかな? もっと西か南のギルドに行けばそこそこいると思うよ。そっちの方は依頼も多いし、こう言っちゃなんだけど、この地方に比べるとあまり裕福では無いからね。冒険者になって早く稼ぎたいと思っている人は沢山いる」
「そうでしたか。色々教えて頂きありがとうございます。世情に疎いと色々判断が難しくて」
「構わないよ。一応ギルド職員だからね。こういうのも仕事の内さ」
こうして三日目の朝、馬車は帝都アルバニアに到着。
とうとう俺は帝国の都に足を踏み入れた。
「ふおぉぉぉぉ……」
帝都は想像をはるかに超える場所だった。マイルズより遥かに高い建物群に豪華な見た目。大きなガラスでできた壁の内側には、見たことの無い装飾や家具が置かれており、その裕福さを表していた。道の端には等間隔に街灯が立ち並び、施された装飾も見事な物だった。
道は全て石畳で車道と歩道に分かれており、腰ほどの高さの柵で仕切られている。柵自体も金属に塗装を施し、所々に細工が施されている。貧しい地域なら、柵を引っこ抜いて売りに出す輩も出るかもしれない程の質だ。
ちらほらと兵士の格好をした者が巡回をしている。いかなる犯罪も見逃すまいとその目を這わせているようで、警備の質も高い。彼らのお陰で帝都の治安が維持されているのだろう。
ギルド定期便で帝都入りした俺は、馬車の御者台に乗りながらその街並みに見惚れていた。今すぐ街を見て回りたい衝動に駆られるがまだ任務中。ギルドに着くまでが依頼だ。
「はははっ。流石に驚いてるね」
横にいる職員が俺の様子を見て笑っている。
「はい、とてもこの世とは思えません…」
「それは流石に言い過ぎじゃないかな~。まぁでも分かるよ。僕も始めて帝都に来たときは、自分が急に偉くなった気がしたもんさ。ま、現実はこれだけどね」
御者の職員が手綱を上げ笑っている。
「何を仰います。ギルドの職員も無くてはならない立派な仕事です」
「そう言ってもらえれば、慰められるよ。ほら、あそこがアルバニア冒険者ギルドだ。馬車は裏手に付けるから、君はここまででいい。報告に行っておいで。君の活躍を応援しているよ」
「はい! ありがとうございました!」
馬車を飛び降り職員に頭を下げ、アルバニア冒険者ギルドへ走る。
さっさと依頼を報告して街を見て回りたかった。
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