35話 冒険者ギルドⅡ
「失礼します」
ドアを開け中に入ると、また別の職員が三人いた。
「おや、ずいぶんと早いね。ペーパーテストは簡単だったかい?」
「難しくは無かったかと。あれは字の読み書きの度合いを見るためのモノだったのではと思っています」
「はっはっは! そうかそうか君にはそう思えるレベルだったか。ではそこに座ってさっき渡された紙をもらえるかな。カードの発行準備をしてる間に、簡単に君の事を教えてくれ」
言われた通り紙を渡し、椅子に座って自己紹介する。
「ジン・リカルドです。十五になりました。ジンで結構です」
「分かった、ジン君だね―――え!? 君凄い数値が出てるね!」
紙を見て職員が驚いている。
「そうなのですか。私には見えなかったので何とも」
「あ、ああ…そうだね。これは冒険者ギルドの固有魔法陣でね。魔法陣が描けないと視る事は出来ない仕組みなんだ。この魔法陣は機密だから教えられないけど、数値はもちろん教えられるよ。これが君の数値だ」
紙にペンで数値を書き出して渡してくれる。紙の数値をみても正直ピンとこなかった。
体力:4/10 筋力:5/10 魔力:6/10 敏捷性:6/10
「まぁこれを見たところで分からないだろう。参考までに普通の成人男性は1か2のどちらかが並ぶんだ。ランク中央のC、D辺りで平均が4と言ったところかな?」
「なるほど。ですがこの数値は自身の強さとはあまり関係がありませんね」
「その通り。経験、頭の回転速さ、決断力、器用さや属性の相性といったものは数値化できないからね。魔力に関しても三大資質の平均を表しているだけで、あくまで現時点で近接職か魔法職か、
一通り説明してくれると、職員は続けて言う。
「君の場合は何でもありだね。もう武器は決めていたりするのかい?」
「はい、一応。舶刀二本に弓と木
木
「へぇ、珍しい組み合わせだね。まぁ決まっているならいい。Gランクは中級以上のパーティーに入るのが規則なのは聞いたね? これがGランクにとって最初の壁になるんだ」
「誰も進んで初級ランクを入れたがらないという事ですね」
「察しがいいね。君の言う通り、いくらポイントや報奨金がもらえるからと言っても、中級者にとっては初級者を伴う事は受ける依頼によってはかなりリスクが大きいんだ」
「私も規則を伺った時に思いました。だから何かパーティーにとってメリット、あるいはデメリットが少ない事をアピールする必要があると感じました」
「うん、いいね。頭の回転も速い。…あ、ペーパーテストの結果が来たようだ…うん、満点だね。素晴らしいね。若いのにすごいよ」
「あの程度でお褒め頂いても困りますが…ありがとうございます」
「はっはっは! ごめんごめん。じゃあジン君。最初にパーティーに入れてもらうに当たって、何か君の得意分野やアピールポイントはあるかな? それを聞いて、Gランク、つまり初級者は最初はギルドの方で中級以上のパーティーに斡旋するのがしきたりなんだ」
「それはありがたいですね。そうですね…」
俺はこの周辺の魔獣と戦ったことが無い、ましては魔物とは会った事すらなかった。おそらく運よくパーティーに入れたとしても、俺が怪我をしたりするとパーティーにとってはこれ以上ない迷惑なので、一切手出し無用と言われるはずだ。ここは近接戦に参加せずとも、役に立てる事を言うべきだろう。
「私は弓を扱いますし、
「え?」
「な、何か問題が?」
「ジン君その年でそんな魔法使えるの?」
「ええ、一応」
「早く言ってくれよ! 斡旋どころか普通に欲しいパーティー沢山いるよ! やっぱり数値以上の力の持ち主だったね」
意外だった。ごく簡単な魔法で、無属性だから誰でも扱えると思うのだが…
「そうでしたか。ですが、この周辺での戦闘経験はありませんので、お手柔らかにお願いしたのですが」
「簡単さ。斡旋は任せてくれ。因みに君の様子から見ても言う必要のない事だとは思うけれど、規則だから一応言っておく。出来ると言って出来なかったら、その事は受け入れたパーティーからギルドに報告されてペナルティを受けるからね。その時はポイントが無い君の場合、即除名処分もありうる。覚えておいてくれ」
「承知いたしました。問題ありません」
「じゃあ、明日の朝またここに来てくれるかな? 受付で斡旋を受けている旨を言って、決まっていたらその場でパーティーメンバーと依頼開始になる」
「わかりました。よろしくお願いします」
席を立とうとした直前、エドワードさんからの手紙の件を思い出す。
「あ、すみません。マイルズ騎士団長のエドワード・ギムルさんから、こちらのギルドマスター様宛に手紙を預かっているのですが」
「な!?…いやもう君には驚かないよ、内容は君の事なんだろうね。待っていてくれ。マスターに話を通してくる」
そういって職員は部屋を出ていき、その間にパーティーで行う依頼について考えてみる。
よく考えてみれば、初級者を伴ってわざわざリスク侵して狩りに出る必要はあるだろうか? 初級者を無傷で帰すならば戦う必要のない依頼を受ければいい。たとえば採集。ここまで来る道すがら、時折食事用の獣を森に入って狩ったりしていたが、薬や毒になる草や
それに護衛などの案件もあるらしいから、それも十分にありうるのではないか。そうなると、いつまでもお荷物でいる訳にはいかない。この研修ともいえるパーティー入りはさっさと終わらせる必要があるようだ。後でGからFに上がる要件を聞いておかなければならない。
しばらくすると職員が戻ってきて、ギルドマスターの執務室へ案内された。
「失礼します」
「ああ、そこに座ってくれ。今職員が茶を持ってくる」
「お気遣いなく。ジン・リカルドです」
「ギルドマスターのレイモンドだ。早速だがアジェンテの件だ」
レイモンドさんがエドワードさんからの手紙をひらひらさせながら、早々に本題に入る。
「エドワードさんに是非にと仰って頂いて、お受けした次第です」
「正直驚いている。エドワードが推薦してきたのもそうだが、これほど若く、しかもGランクと来たもんだ」
「そちらに関しては私からは何も言えません。可否はレイモンドさんにお委ね致します」
「ふむ。エドワードが初めて推薦した者だ。拒否する理由は無い。しかし、アジェンテは最低限の力が必要なる。能力に関しては先程職員から聞いたが、弱いと言う事は無いのだろう。そこでだ」
「はい」
「明日、この街唯一のAランクパーティーにお前さんをねじ込む。そいつらはダンジョン探索を主に活動をしていてな。その割にメンバーに
「願っても無い事です。ぜひお願いします。ですが、一つだけ。そのパーティーの皆さんへのペナルティを無くして頂きたいのです」
「ほう?」
「私が怪我をしたり死亡したりすると、そのパーティーに迷惑が掛かります。遠慮なく使って頂くためには、パーティーへのペナルティは私にとって足かせとなります」
「…いい覚悟だ。そもそもこの規則は自分たちが危険に遭遇した場合、初級者を囮にして自分達だけ助かろうとする
「わがままを言って申し訳ありません」
「気にするな、そういうのはわがままとは言わんよ。明日の朝またここに来い。受付で俺の名前を言えばここに通すよう伝えておく。何か質問はあるか」
「いえ、特に」
「ならまた明日だ」
「はい。よろしくお願いします」
◇
執務室を出た俺は、そのまま冒険者ギルドを出て伸びをした。
さて…ダンジョンと来たか。全くわからない。Aランクパーティーと組めると聞いて思わず即答してしまったが、大丈夫なのか? あれこれ考えても仕方が無いが、さすがに早計だったかと焦りが出て来たぞ。
「とりあえず宿を確保するかぁ…」
快適な騎士団宿舎はもう無いのだ。寝床は大切である。もう日も傾いて来てるし、満室だとか言われたら野宿になってしまう。
俺は適当に宿の看板が掛かった建物に入った。一階は食事処のようだ。
「いらっしゃい! 泊まりかい? 食事かい?」
「一泊で今日の夕食と明日の朝食は出来ますか?」
「大丈夫だよ。銀貨一枚と中銅貨一枚だよ」
銀貨二枚を差し出す。
「毎度あり! 部屋は二階の左三番目だよ。夕食は八時までに頼むよ。朝は九時までだ」
そう言って釣銭と鍵を受け取り、俺は部屋へ行きひとまず休憩する事にした。部屋は広くは無いが清潔なようだ。一人用のベッドに小さなテーブルとイス、荷物用の籠が置いてある質素なものだ。
「まぁ、十分だ」
ベッドに横になり今後の方針を考える。
とりあえず明日のダンジョンは決定事項。何日かかるかは分からないが、とりあえず彼らに色々教えてもらおう。上位ランクのパーティーだけに知っている事も多いはずだ。
そして研修をクリアし、Fランクに上がって単独で依頼を受けるようになる。そこで上がれなかったとしても、とりあえずこの街でランクを上げるのは必須だ。ランクが上がり次第帝都に向かい、魔法師団で
帝都は様々な国の物が集まる、帝国有数の商業地でもある。もしかすると刀も手に入るかもしれない。
「それ以降は成り行きだな。旅っぽくなってきたぞ」
そんな事を考えつつ、一階に下りて夕食にありついてから今日は眠る。
明日は万全で挑まなければならない。
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