34話 冒険者ギルドⅠ

 騎士団宿舎を後にし、早速マイルズ冒険者ギルドに足を運ぶ。


 中に入ると大勢の人がいたが、建物自体が大きく、込み合っているという印象は受けない。目に入る限りでは俺と同年代らしき人物は見当たらない。入って左側に沢山の依頼書らしき紙が整然と張り出されており、その前に人だかりが出来ていた。皆紙を持って受付窓口に持って行っている。


 俺は空いている窓口に行き、冒険者登録をしたい旨を伝えた。


「ようこそマイルズ冒険者ギルドへ。ちょうど本日登録者説明会が行われます。あと一時間ほどで始まりますのでお待ちになりますか?」


「はい、待たせて頂きます」


「では階段を上がって右側一番奥の部屋でお待ちください」


「ありがとうございます」


 言われた通り二階の一番奥の部屋へ行き、待つことにする。大部屋だった。既に四人待っていたようだが、部屋の大きさからしてここからもっと増えるのかもしれない。始まるまでやる事が無いので、エドワードさんに頂いた貨幣や物価に関するメモを読み返す事にする。


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―――アルバ通貨―――

鉄貨

銅貨  鉄貨×2

中銅貨 銅貨×5

大銅貨 銅貨×10

銀貨  大銅貨×3

大銀貨 銀貨3+大銅貨1(大銅貨10枚)

金貨  大銀貨×5(大銅貨50枚)

大金貨 金貨×5(大銅貨250枚)

白金貨 大金貨×10(大銅貨2500枚)


 国により貨幣制度が違う。

 一般人はほぼ国を渡る事は無いので不自由はしないが、国を超えて商いをする商人や、国を跨ぐ冒険者は貨幣制度の問題にぶつかる。この問題を解決するために、商人は商業ギルド、冒険者は冒険者ギルドで両替をする。両ギルドは世界中に存在するので、商人や冒険者は登録必須ともいえる。


 貨幣価値は経済状況によって変化する。戦争で負けたり、大きな災害に見舞われるとその国の貨幣価値は下がる。また、新たなダンジョンの発見や、魔物大行進スタンピードの予兆が出ると、冒険者が集まると同時に経済が動く。これにより貨幣価値が上がる事がある。


マイルズ周辺の参考価格

宿屋 大銅貨一枚~

食事処 中銅貨一枚~

傷薬 大銅貨一枚

毒消し 銀貨一枚

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 一日で宿屋、食事処を二回利用すると最低でも大銅貨三枚が必要になる。あくまでマイルズ周辺の価格である事を考えると、地方に行けばこれ以下で済むと予想できるが、母上が全て持てと言った意味がようやく分かった。


 俺が言った銀貨十枚だったら十日分の路銀しかなかったという事になる。たまたま騎士団でお世話になったから良いものを、宿で今日まで過ごしていたら四日分の路銀しか残っていない事になる。危ないところだった。


 そう考えると、収納魔法の大金貨三〇枚という価値は二五〇〇日分の生活費、食事を自給するとしたら三七五〇日分。つまり無収入を前提に自給して質素な生活を続ければ、十年分の生活費という事になる。


 一概には言えぬが、確かにとんでもない金額だったという訳だ。


 一度冒険者の依頼を受けて、どの程度の報酬が得られるかを見てみなければなんとも言えないが、おそらくこれはだと思う。荷物を減らせる以上に、狩った魔獣を持ち歩けるのは途方もない価値がある。


 もちろん収納魔法にどれほどの物量が入るのかはまだ分からないが、それは聞いてみればわかる話だ。ボルツさん曰く、一部の上級ランクの冒険者は持っている者がいるらしいし、それは有用であるという証左しょうさでもある。


 とりあえず手に入れる方向で動いて行こう。それもこれも最初の『金』というハードルを越えられたからこそ。手に入れた暁には、母上にお礼の手紙を書かなければ。もういざという時が来てしまったようだ。


 あれこれ考えていると、部屋にギルド職員が入ってきて説明会が始まる。集中して気付かなかったが、部屋にはざっと二十名程が待機していた。何人か大人が混ざっているようだが、皆若い。


「ではこれより説明会を始めます。冒険者ギルドの規則や慣習など基本的な事を説明いたしますので、よくお聞きになって下さい。説明会終了後、小休憩を挟んで簡単なペーパーテスト、その後能力検査、ギルドカードの発行の流れになります」


 こうして説明会は始まった。


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【冒険者ギルドとは】

 冒険者ギルドとは、あらゆる国家や集合体とは完全に独立した組織であり、組成から二百年の歴史をもつ。冒険者ギルドはその土地の民から寄せられた依頼に対し、ギルドに登録された者を管理、派遣することにより依頼を完遂し、その土地の繁栄に寄与するものである。

 

【冒険者とは】

 冒険者とは冒険者ギルドに登録された者の総称であり、依頼を受け、報酬を得る者をいう。

 また同時に、世界各地に点在するダンジョンに入り、魔物の調査、討伐、または資源を持ち帰る役割を担う者をいう。

 

【依頼内容】

 討伐、採集、護衛、調査など多岐にわたる。

 依頼には難易度が設定されており、冒険者ランクおよびギルド職員の裁定により受託可否が決まる。

 

【冒険者ランク】

 ランクには個人ランクとパーティーランクがあり、双方の扱いは以下同文とする。

 G=初級ランク、F・E=下級ランク、D・C=中級ランク、B・A=上級ランク、S=最上級ランクと位置付ける。 

 なお、Sランクに関しては国家の大事を為した者へ、栄誉として与えられるものであり、下記ポイント制とは関連が無いものとする。

 Gランクの者は単独依頼は受けられず、中級ランク以上の個人を共にするか、もしくはパーティに入る事で依頼を受けることが出来る。したがって、単独依頼はFランク以上の者が受けることが出来る。


【ポイントとランク】

 依頼達成によるポイント加算によりランクは上昇、依頼失敗は規定の罰金と加算ポイントと同じ数の減算ペナルティが発生する。

 中級ランク以上の者が初級ランクの者を伴って依頼を達成した場合、特別加算ポイント及び依頼とは別にギルドから報奨金が付与される。

 この際、初級ランクの者のみを死亡させた場合、個人はギルド除名処分、パーティーは解散の上、パーティーメンバー全員がギルド除名処分となる。また、初級ランク者の怪我の度合いにより、ポイント減算処分および罰金処分となる。

 Sランクを除く中級ランク以上の者は、次のランクに上がる条件として一回以上初級ランクの者を伴って依頼を達成しなければ、たとえポイントが規定に達していてもランクが上がる事は無い。


 ◇


【拠点登録】

 世界各国に在する冒険者ギルドで拠点登録を行えば、その冒険者ギルドの依頼を優先的に受けることが出来るが、他の地域での依頼を受ける事は出来なくなる。また、その冒険者ギルドでの素材買取価格は一割増となる。一度拠点登録を行った場合、一年間登録解除は不可となる。

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 思ってたより、色々規定されているようだ。


 説明会を終え、小休憩に入っている。このあと簡単なペーパーテストがあると言うので、受講者は皆復習に余念がない。


 別段、規定にややこしいモノがあるわけではないし、ギルドが冒険者の育成に力を入れている事がよく分かった。基本的な事を覚え、冒険者ギルドが示す存在意義を鑑みれば、それに付随する規定などは一読しておくだけで十分だと思う。意義から考えれば、問題の答えはおのずと出てくる。当り前のことしか書かれていない。


 その後のペーパーテストは、ちゃんと聞いていたかどうかの本当に簡単なものだった。最低限字を読み書きできるかの試験だったのではと思えてくる。


 因みに俺はそのあたりは幼い頃から母上の指導があったので全く問題は無い。さっさと終わらせ、職員に提出すると次は能力検査だといい、別室に案内された。別室には職員が待機しており、検査の説明が始まる。


「能力検査では、魔法陣に込められた魔力を通じて能力を測ります。能力とは筋力量や俊敏性、魔力に関する事柄の基本的な数値をいい、これらを十段階で評価します。現時点で向いている職の参考にもなりますので、ぜひ今後ご活用ください。なお、数値は他人に漏れる事はありません」


 言われた通り魔法陣に触れると、何かが流れ込んでくる感覚がある。母上やアリアの治癒魔法ヒールとは違い、冷たい感触だった。それにしても魔力で能力を測定できるだなんて、もしかしたらギルドはそう言った分野では最も進んでいるのかもしれない。


 少しの間魔法陣に触れていると、机の上に置かれた紙に職員が小さな魔法陣を描き出す。結果が出たようだ。


「なっ!?」

(なんなのこの子!? 総合数値が既に上級ランクに近いなんて!)


 突然、職員が声を上げ俺の方を見ている。なにか異常でもあったのか?


「何か問題でもありましたか?」


「い、いえ! 問題ありません! こちらの紙を持って隣の部屋へお願いします」


「はい。ありがとうございました」


 渡された紙は何も書かれておらず、光にかざしても変わらない。不思議に思いながらも俺は言われた通り隣の部屋へ行く。 

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