6話 招かれざる客Ⅱ
「何かってなんだ?」
「それが分からねぇから”何か”って言ってんだ」
「それもそうか…」
オプトの間抜けな質問に、あきれる暇も無いと言わんばかりに、エドガーは集中している。
「まだ
「わかった」
「おぅ」
次第にゴーッという音が響いてくる。
しばらくして、目への強化魔法で遠くを見ることが出来る三人が同時に叫ぶ。
「なんだあれは!」
「じょ、冗談じゃねぇ! デカすぎる!」
「こっちに来るぞ!」
幸い夜も遅く、家から出ているのは三人だけで村の騒ぎにはなってはいないが、全員を呼んで逃げる暇はない。遠くに青い炎を纏った巨大な鳥が一直線に近づいてくる。
避けられない危機を感じ、ロンは全身強化魔法をかけ、ありったけの声で村の危機を叫んだ。
「緊急事態だ! 巨大な魔物が来る! 全員家から絶対に出るな! 物陰に隠れて衝撃に備えろ!!」
「もう一度言う、緊急事態だ! 絶対に家から出るな!」
強化されたロンの声は村中に響き渡る。強力な魔物の襲来などの緊急時は、エドガーとオプトを含め、村の守り手の指示は、
外の異変に家の中から気づいた者たちも、ロンの叫び声で窓から離れ身を隠した。
「エドガー、オプト! オレはジェシカを守る。いいな!?」
「当然だろう! 早くいけ!」
「俺は村長のところへ!」
ロンはジェシカの元へ、オプトは村長の元へ駆ける。残って魔物を待ち受けるエドガー、流石は死線を潜り抜けてきた元冒険者というべきか、死を受け入れるのは早い。
「がっはっは! 頼むから俺の命だけで勘弁してくれよ! 化け物!」
愛用の
一方、家に戻ったロンは全身強化魔法をかけたまま剣と盾を持ち、ベッドに横たわるジェシカに駆け寄る。
「倒せそう?」
「…倒すさ」
「
「まだここを襲うと決まった訳じゃない。だが、あのサイズだと上を通り過ぎただけで、相当な衝撃が来るだろう」
「村の皆を守ってね」
「ああ…任せてくれ」
二人とも元冒険者である。最善と最悪を素早く想定できる二人の会話は、言葉の通りではない。
ジェシカはロンの様子からもう逃げられない事を察し、さらに勝てる見込みがない事は分かっていた。実際はロンだけでも今すぐ逃げて欲しいが、ロンがそうする訳が無い。ならば魔物に殺されずとも、遠からず病で死ぬ運命の自分ではなく、村の皆を守ってほしいという、ジェシカの精一杯の言葉である。
ロンも直感で、魔物がここに降り立つことは間違いないと思っているし、勝てる見込みも無い事は分かっている。自分一人で逃げる、という選択肢を絶対に取らない事は、ジェシカは分かっているだろう。
『
ロンに覚悟と祈りが入り混じる。
◇
「(アルバニア
「続けろ!」
「(監視員より、魔力反応がスルト村付近で停止したとの報告が入りました! 他に魔力反応は無いとの事です!)」
「了解だ。引き続き監視を」
「(はっ!)」
帝都アルバニアを出て暫く後、魔法師団長パルテールに、
「陛下、パルテールです。ご報告がございます」
「入れ」
はっ、と並走する団員に馬を任せ、馬車に飛び乗るパルテール。すぐさま乱れた装いを整え報告に入る。
「先ほど魔力反応がスルト付近で停止いたしました。神獣が降り立ったとみて間違いないでしょう」
「そうか。カーライルとマイルズ隊にも伝えてやれ。マイルズの連中は二日でスルトに到着すると言っているのだったな?」
「はい。騎士団長のボルツ殿がそう言う以上間違いございません。明後日にはスルトの
「通り過ぎてもらえなかった以上、何かしらの”事”が起こるのは間違いない。心してかかれ」
「はっ!」
パルテールは馬車を飛び降り、隊の先頭を行くカーライルに馬を寄せるのであった。
余談ではあるが魔法師団長パルテール。三つの魔法を同時に行使している。
一つは馬にかけている強化魔法、一つはアルバニアの
二つの魔法を同時発動出来るだけで、一流と呼んでも差し支えない。三つの魔法を同時発動できるパルテールは、非常に優れた魔法師といえる。
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