朝をかたりたい

菅原

プロローグ

火照って汗まみれの全身に、この空間の熱気全てが染み込んでくる。

えもいわれん、高揚感。

もうとっくに枯れきった喉で、絞り出すようにシャウトする。

眼前で大いに盛り上がっている観客も私と同様、汗と高揚感にまみれている。

「ありがとーございました!!」

掠れた声で力いっぱい叫んだ。

いかにも素人らしく、荒っぽくギターの音をぶち切って、頭を下げた。

色々な感情で胸が満たされて、笑顔で顔を上げた。

瞬間、時が止まったような気がした。たまたま目に留まったその人に、私は釘付けになった。20人程の見慣れた観客の中で、一際目立つ1人の女性。

涼やかな目元に、メタルフレームの丸メガネ。さらりと流れる黒髪が、自身の腰までのびている、古風な雰囲気がよく似合っている。

初めて見る人だった。

「あ………綺麗。」

無意識に発したその言葉に、自分で驚いた。

他のバンドメンバーに呼ばれ、急いでステージ横に捌けていく。ちらりと横目で彼女を確認すると、ちょうど出口を抜けるところだった。

その光景だけは、何があっても忘れない。

照元 日生、16歳。

なんのことは無い、ある日のライブの思い出。

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