第2話

「おじさん、何歳?」

彼女が尋ねる。


その表情は、優しさと悲しさが、交わった表情だった。


「・・・28歳・・・」

「その若さで、人生投げ出すんだ。情けないね・・・」

悪戯っぽく笑う。


「じゃあ、おじさんは失礼だね。お兄ちゃん」

俺的には、どっちでもいいんだが・・・


「そういう君は、いくつなんだ?」

「私?17歳だよ」

「女子高生か・・・」

「それは昨日まで。今は違うかな・・・」

「今は?」

「うん。昨日退学したの」


何やら、訳ありだが訊かないのが吉だろう。

もう、死にゆく身だし・・・


「ちょっと待て」

「何?お兄ちゃん」

「君は、何の目的でここに来た?」

「お兄ちゃんと、一緒だよ」

「一緒?」


つまり・・・


「君の方が、まだ未来があるだろう?」

「確かにね」


何、やってんだ俺・・・


「私は、雫。お兄ちゃんは?」

「俺は・・・洋二・・・波田洋二」

「洋二くんだね」

「・・・くん?」

「お兄ちゃん、君付けで呼ばれそうだったから」


当たってる。

この歳になると、若い女の子に君付けで呼ばれる機会は、殆どない。


「ねえ、洋二くん」

「どうした?雫さん」

「雫でいいよ。洋二くん」

「じゃあ、雫。どうした?」


雫は微笑む。


「どうせ、死ぬんだったら、せめて、たくさん思い出だけは持っていこうよ」

「思い出?」

「うん。ふたりでね・・・」

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