俺は今日もハンカチを差し出す

俺は今日もハンカチを差し出す

ひくっ、ひっくっ……。


「なんでこんなことに……」


私はゆうに染まったホーム、その端っこのベンチで独り泣く。 


うつむいていると、


目の前で誰かが立ち止まった。


顔をあげると、その人は私にハンカチを差し出してきた。


「これ使ってください」


……えっ。


なんかみたことある展開だけど、 


「……ありがとうございます」


そして目元をぬぐう。


……なんか、はじめて見る素材でできてるな、このハンカチ。


そしてもう一度お礼を言ってから返した。


彼はカバンからこれまたはじめて見る形の容器を取り出し、そのハンカチを中に入れ、蓋を閉め。


そして去っていった……


□ □ □ □


……よし、今日のノルマクリアだ!


俺はさっそく博士ハカセに連絡することにした。


ぴぽどぱられぽど♪


「もしもし」


「あっハカセ! 今日のノルマクリアしました!」


「ご苦労。いつも通りウチの者に渡してくれ」


「了解です」


「ギャラの方もそのときに受け取ってくれ」


「はい」


「じゃあ、これからもたのむよ」


「これって……」


「おいおい、それは聞かない約束だろう? じゃあな」


そう言って電話は切れた。


……ホントに、これって何のためなんだろう?


俺はそう思いながらカバンから取り出した容器を眺める。


中身は先ほどの女性に貸したハンカチ。


まあいい、今どきこんなにギャラがもらえるバイトなんて、これか闇バイトくらいだろう。


……あれっこれって闇バイトか!?


でもただハンカチを貸して受け取るだけの仕事がだとはとても思えないけど。


それ以上考えるのはやめて、指定場所へと足を進めることにした。


□ □ □ □


もう少しだ……もう少しで完成するぞ……!


先ほど今日のノルマ達成の電話もきた。


『これからもたのむよ』


……「これから」はもう来ない。


と、ドアが開けられた。


「博士、開発は順調です、見に来られますか?」


やって来たのは助手の1人だ。


「ああ、完成直前だからな、最後に見ておくよ、今行く」


後ろ手にドアを閉めた。


「とうとう今日の一滴で完成するぞ!!」


「楽しみですね!!」


ああ、今日が人生最高の日だ間違いない。


□ □ □ □


数週間後。


俺はテレビを流してパンをかじりながら、就職情報誌をめくっていた。


あー、いいバイトないかな。


前までやっていたバイトは終わったし。


「んー……」


ピロリロリン!! ピロリロリン!!


臨時ニュースの音だ、と気づくより前に


「なんだっ!?」


と驚いた俺は思わず紙パックの野菜ジュースを握りつぶしてしまっていた。 


服とテーブル、そして床にまで被害がひろがっていく。


「うわぁ、臨時ニュースめ」


テイッシュでジュースを拭くことにする。




……やっと拭き終わった。


ふとさっき確認できなかった臨時ニュースが気になり、チャンネルをニュースに合わせる。


『先ほど発表されたばかりの速報です』


おっ、これかな。


『今日開かれた会見で、○○大学の○○博士が、不治の病といわれるナタバメ病の治療薬を開発したと発表しました』


あのナタバメ病の薬が開発されるなんて……!!


……母さんも喜んでるだろうなあ。


あと数年はやければもっとよかったけれど……。


ネットでの反響も見てみようと思った。


つぶやきアプリ「ツブッター」を開く。


「話題のつぶやき」を表示させると……。


『この薬は、女性の涙から抽出した成分が使われているらしい』


『でもどうやって集めるんだ?』


『バイトを雇って、ハンカチを使って集めさせるのさ。泣いてる女性に「これを使ってください」とか言ってな』


「……!!」


あまりの驚きに声が出ない。


「俺がやっていたバイトは……」


「闇」どころじゃない。








世界中の……


希望の「光」だ。









          〈終〉







 


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