奴隷とご令嬢

ネルシア

奴隷と令嬢

いつも綺麗な服を着た人達が私達檻に閉じ込められた奴隷の前を通り過ぎてゆく。


次は私の番なのか。


恐怖も消え去ってしまった。


元は路上生活。

出自も不明。

そして拾われて檻の中。


どっちの方がいいかと聞かれると


食事を与えられるが自由に出来ない。

それか、

自由だが食事は満足に食べられない。

の2択。


どっちでもいい。


そして1組の家族が私の前に来る。



「人手が不足してるからってわざわざ奴隷を買うなんて……我が家も落ちぶれたものだ。」


苛立ちを隠しきれない男性。

その後ろを歩く女の子がビクビクしながらついて行く。


「きちんと教育を施されたものを雇えれば良かったのだが……。

経費削減だのなんだの……全く……妻には抗えんな。」


「まぁまぁ旦那様、うちの所は比較的状態が綺麗な子達が多いもので。」


下卑た手つきで案内する奴隷管理人。


「臭いもひどいな……。」


「そればかりはどうしようも出来ませんぜ、えぇ。」


はぁと溜息をつき、自分では決心がつかないのか、娘に話しかける。


「どれがいいかい?愛しい娘よ。」


いかにも貴族らしいドレスを身にまとった女の子。

父親のスーツをぎゅっと掴みながら恐る恐る前に出る。


父親が娘の歩調に合わせ歩みを進める。


そして娘が1つの檻の前で止まる。

今までの奴隷には目もくれず、その奴隷の前で立ち止まる。


「これにするかい?」


「あー、それはやめておいた方がいいですぜ。」


困った声色で管理人が話してくる。


「どうも喋れないみたいなんでさぁ。

健康状態は悪くないんですけどね。」


「……他のにしないか?」


だが、娘はふるふると首を振る。


「この子がいい。」


父親が管理人を見ると肩をすくめる。


「何故これがいいんだい?」


父親が娘と視線を合わせるように体を低くする。


「分かんない……でも……この子がいい。」


少し俯き考え込む父親。

意を決したように話し始める。


「いいか、奴隷は人間じゃない。物だ。

この子って言うのやめなさい。」


「でも……。」


「言い訳は無しだ。他のを買ってもいいんだぞ?」


「……これにする。」


不満顔でこの子という表現を改める少女。


「へい、かしこまりました。」


管理人が檻から奴隷についてる首輪を引っ張り、外に連れ出す。

その手綱を少女に渡す。


「これで足りるか?」


「いやいや、これは多すぎですよ。」


「これくらいが相場だと聞いたんだが?」


「喋れないんでなぁ、オマケしときやすよ。」


「そうか、なら有難く支払いを少なくさせてもらおう。」


「へい、毎度。」


屋敷に戻り、奴隷はメイド達にシャワーや衣服を与えられ、形にはなった。


「よし、じゃぁ、仕事ができるように仕込んでくれ。

あぁ、人として接しなくて構わない。」


かしこまりましたと頭を下げるメイド一同。


少女は奴隷と話さずにただ見守るばかりの時間が過ぎていった。



半年が経ったある日、事件が起きる。


パリーンと壺が割れる音が屋敷に響き渡る。

駆けつける父親と少女。


そこに居たのは奴隷の子。

今では娘の強い要望でネレアと名を与えられている。


「ネレア、お前がやったのか?」


びくりと体を震わせる。

ミスをしたものがどうなるか想像に容易い。

お仕置、追放、放置。


「やめてよお父様!!」


ネレアの前に立ちはだかる少女。


「リエル、どきなさい。」


父親が1歩進むが退かない。


「嫌よ。もううんざりよ。ネレアも人よ?」


手をこめかみに当て、深いため息をつく父親。


「分かってないなぁ……。

奴隷は物だ。

我々は人だ。

いい加減にしろ。」


「ネレアは物じゃない!!!!!」


平行線。


「……仕方ない。2人とも揃って懲罰房に入れ。」


「喜んで。」


リエルが笑う。

それにイラついたのか、すぐに命令を出し、2人揃って懲罰房に入れられてしまう。


窓も明かりもなく、ただ狭い空間に2人。


「ネレア、貴女は悪くないわ。」


ぎゅっとネレアを抱きしめるリエル。


「あんなツボどうでもいいのよ。」


「……リエル。」


ネレアが言葉を発した。

その衝撃にリエルが離れる。


「あなた!!話せたの!!!」


「えっと……話す必要が……なかったから…… 。」


「……そう。」


「私、ずっとリエルが見てくれるの知ってた。」


「……そ、そんなの知らないわよ。」


「私がお仕置される度に父親と喧嘩してたのも知ってる。」


「…………。」


「ありがとうリエル。」


「謝ることじゃないわよ。当たり前よ。」


「だって……私は奴隷……だもん。」


「……あぁ!!もう!!ネレアは私の大切……な……なんでもない!!!」


「大切な、何?」


「1回しか言わないわよ。

大切な……好きな人だもの……。」


「嬉しい!!!」


ガバッと押し倒すネレア。


「ちょっと!?!?」


「こうされるの、嫌?」


「嫌じゃないわよ……バカ……。」


翌日。


「これで反省した……か……?」


父親が懲罰房を開けると服が乱れた2人が幸せそうに寝てましたとさ。

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奴隷とご令嬢 ネルシア @rurine

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