縁側の光景

黒イ卵

柔らかな陽射し

 「おまえが死んだら、その眼を舐めようか。」


 縁側に転がるたまを撫でながら思う。

 ごろごろと喉を鳴らし、すっかり野生の面影は無い。

 油断し切った、甘えている姿である。


 拾った時は、全然懐かなかったのに、随分と変わったものだ。


 「ねぇ。さっき緑だったのに、今は陽が射して金色だよ。べっこう飴の味がするんじゃないかい?」


 腹を見せて丸まる毛むくじゃらは、返事なのか、福福しい尾を、一度大きく揺らした。

 ずっしりと身が詰まっている。


 あの日、普段通らない道の端っこで、がりがりに痩せていた体は、傷跡は、どこにいったやら。


 「猫は恩返しするのかどうか、わからないけれど。眼玉をすこうし、味わわせてくれても、いいじゃないかい。」


 毛並みは柔らかで、艶々として、随分と可愛がられている。

 これなら、安心だ。


 「まあ、残念だが、時間が来た。」


 今日までに寿命が来たら、眼玉をころころ堪能してから、一緒に連れて行ってやったのに。


 「ご近所さんは、おまえのこと、気に入ってくれてたからねえ。」


 最期に託せるお付き合いができて、それはよかったのだけれど。

 変な執着が残ったものだ。


 「じゃあ、またね。九つの命なんて持たないで、さっさと来ていいんだから。」


 半透明だった身体が、薄くなっていくのがわかる。

 陽射しに溶けるようにして、シャボン玉が割れるようにして。


 にい、と一度鳴き、目を細めたのが、見えた。


(了)

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縁側の光景 黒イ卵 @kuroitamago

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