第27章 名家のお嬢様と朝まで?

「狭いけど入って」

勇がリサを促す。狭いと言っても流石に国家公務員なので収入は悪くない。間取りは6LDK。それほど物は置いておらずシンプルな部屋だ。

「お邪魔します」

リサは名家のお嬢様だけあって、礼儀作法はきっちりしている。

「あら、意外ときれいにしているのね」

「意外だけ余計だ」

「ごめんなさい」

「男の一人暮らしだからな。ゴミとか溜め出すと埋まってしまいそうだから、折を見て片付けては居る」

「食事は?」

辺りを見回しながら部屋のソファーに腰を下ろした。

「適当かな?たまに自分で作ったりもする。それよりおまえさんの大好物の」

「おまえさんはだめ。ナスチャって呼ぶことにしたでしょ?」

「ああ、そうだった。ごめん。何か照れくさいな」

「なるべくそうしてね。<おまえさん>はNG」

「わかった。ナスチャの大好物のおでんを食べよう。冷めてしまってはうまくない」

「そうね」

早速、コンビニで購入したおでんを食すふたり。

「日本には美味しいものが沢山あるのね。おでんは最高だわ!」

「おでんは他の国にも似たようなものが無い気がする。冬場は助かるね」

「ロシアにもあったらいいのに」

「名家ならお取り寄せできんじゃないか?」

「でも、日本で食べたいわ」

「そうか。風情もあるしな。また日本におでんを食べにくればいい。とは言うものの、黒服たちが現れる、か」

「参ったわ。あの黒服連中。どうしようかしら」

「うーん、俺が外務省の職員だからってしがない<いち公務員>だからな、所詮」

口の中に煮卵を頬張りながら返答する。

「詳しい事は後にしましょう。それより」

「それより、なに?」

「わたしを助けてくれて本当に感謝しています」

「な、なんだよ。急にかしこまって。人として当たり前の事をしただけだ」

「日本人は優しいってよく聞かされていたけど、本当だったわね」

「暇で、お人よしなだけだよ」

「わたし、日本に住みたい。でも、やつらが追ってくるし」

勇は数秒考えた。

「まぁ乗り掛かった舟だ。最後まで面倒は見るつもりだよ」

「ワオ!」

「おいおい、勘違いするなよ。そういう意味じゃ」

「そう意味でもいいわ」

「え?」

リサは徐に勇に口づけした。勇もそれに答えた。

<ん、待てよ。よく考えろ。もし、そうなったとして日本にふたりで居る限り、どこかのTV番組の黒服みたいに永遠に追いかけられ続けるのか?しかも殺される可能性も否定できない。ううむ、若くて絶世の美女で名家のお嬢様。この上ない条件。だが、殺されるリスクを永遠に負うのか?>

ほんの数秒で勇の頭の中はこんな思考に囚われた。と、同時にリサの唇を遠ざけた。

「どうしたの?」

「い、いや。ほら、少し休んで外に出るとやつらが来るだろ?その事を考えると、もう少し後でもいいんじゃないのか?」

当たり障りのない言い訳を並べた。

「わたしのこと嫌いですか?」

「そ、そんなわけないだろ」

「ワオ!うれしい」

「うーん」

勇は人生で一番の悩み事を抱えたようだ。

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