第21話 姫と爺やと外交官
「喫茶 ニコライ」
西新宿のひっそりとした雑居ビルにあるこの店の主は、白い髭を沢山蓄えた、齢は70くらいであろうか、とても優しそうな雰囲気でリサを迎え入れた。しかも「姫さま」とリサを呼んでいる。
「なに?姫さまだと!?やっぱり本当だったんだな。こりゃ参ったね」
「すいません。きちんとお伝えしなくって」
「いや、そりゃまぁ、面食らったがそれも流れだ。仕方ない」
「爺や、すまない。こちらは外務省職員の武藤勇さん。私をここまで連れてきてくれた方。とてもいい方よ」
「いい方かどうかはわからんよ」
「私だって馬鹿じゃないですわ。人を見る目くらいはあります」
「そりゃ光栄です」
勇は右の掌を胸に当てて西洋の挨拶をした。
「面白い方ですね。日本人にしては」
「爺や」と呼ばれている店の主が勇を評した。
「そうかな?たまに言われるが」
「『面白い』というのはある意味『珍しい』という意味の誉め言葉ですぞ」
「ありがとう。なんかやたらと褒められるな。何も出ないぞ」
二人はくすっと笑った。
「何になさいますか?」
爺やは二人にオーダーを伺いに来た。
「私はクリームソーダ。貴方は何にする?大抵のものは出てくるわ」
「そう、なんか喉が渇いたからビール」
「かしこまりました」
爺やはカウンターの後ろに下がり、厨房へと消えていった。
「おい、俺にはまだ事態が分かってない部分が多い。詳しく話してくれないか?」
勇がひそひそとリサに耳打ちした。
「ひそひそ話しなくてもいいです。誰もいないんですから」
「あ、そうか」
「何からお話しましょうか」
「まずはお互いに自己紹介するか」
「あはは、今更ですか?」
「だって、俺はお前さんの本名も知らないぜ。ここまで来たのにだ」
「そうでしたね。ごめんなさい」
口元を隠しながら笑うリサの所作に勇は徐々に彼女に惹かれていく自分がわかっていた。
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