第31話 魔力ゼロ男子「私は弱さを隠すために吼えるケダモノではない」
大和たちが一斉に振り返ると、不思議な雰囲気の青年が生垣をくぐり抜けて、こちらへ歩み寄ってくるところだった。
背は高く、一八〇センチはありそうだ。シーカーの制服である白ラン姿で、タグの色とエンブレムを見るに、大和たちと同じ生徒ようだが、佇まいは、高僧を思わせるほどに落ち着いている。
肩には、薙刀のように細長い布袋を背負っており、少し目を引いた。
「なんだ、お前?」
「彼と同じ浮雲真白クラスの
十五歳にしては異質な口調だが、彼の泰然自若とした存在感もあり、違和感は皆無だった。
「おい、獅子王勇雄ってこいつ、
SNSで勇雄のことを調べたのだろう。MR画面を操作する男子が素っ頓狂な声を上げた。
釣られて、他の男子たちも驚愕して口をあんぐりと開けた。
「はぁっ!?」
なのに、当事者は至って平静だ。
「いかにも、私は生まれつき魔力が無い。故に魔術はおろか、魔力を体に流して行う肉体強化も使えない。その代わりと言ってはなんだが、魔力戦闘以外の全てを修めている」
流石に何かの間違いかと思ったが、まさかの本人認定に、大和も驚愕した。
魔力を扱う人は、多かれ少なかれ、魔力で肉体を強化している。
だからこそ、常人なら即死の雷撃や爆撃を受けても生きていられる。
けれど、それができないということは、彼は肉体的にはまったくの一般人。雷撃どころか、家庭用の電圧でも感電死するような、脆弱な存在ということだ。
シーカーとアポリアの、あらゆる攻撃が、彼にとっては致命の一撃となる。
そもそも、シーカー=一流の魔術使いなので、シーカーになれる可能性はほぼゼロだ。
目が見えないのに弓道家になろうとするのに等しい。
――魔力が無いって、そんなの、魔術を一つしか使えないどころじゃないだろ……。
大和にとって、自分の無能ぶりは、コンプレックスであると同時に、自信でもあった。
自分程苦労している奴はいないだろう。自分は才能に恵まれた連中には負けない。雑草根性を見せてやる。
少なからず、そんな自負があった。
なのに居た。
魔術を一つしか使えない程の魔術音痴である大和すら天才に見えてしまう、そも、魔力自体持っていない人間が。
けれど、勇雄は胸を張り、凛とした佇まいで推薦組の男子たちと対峙した。
「悪いが、彼を害すると言うなら、私が相手になろう」
――ちょっ、お前何言ってんだよ……相手にって、魔力無いんだろ?
「おいおい、オレらを笑い殺す気かよ」
「魔力も無い欠陥品が俺らの相手になるかよ!」
「ニワトリどころか【ヒヨコ】じゃねぇか。それとも卵か?」
推薦組は今まで以上に馬鹿笑いを始めるも、勇雄は興味深そうな表情で彼らを観察しながら、自身のあごを一撫でした。
「……ふむ、口数と強さは反比例すると言うが、その手合いか?」
「はぁっんっ!?」
「悪いが、私は弱さを隠すために吠えるケダモノではない。人に遠吠えは効かぬものと知れ」
それが、彼らにとっての引き金だったらしい。
推薦組の男子五人は、額に青筋を浮かべるや否や、勇雄を取り囲むように、扇状に広がった。間髪を容れず、五人は大声で「ストレージオープン!」と叫んだ。
五人の手元がスパークすると、覆い布を取り去るようにして、銃火器や高周波ブレード、プラズマソードのグリップ部分が姿を現した。
ストレージとは、アポリアの異次元移動能力を研究し作られた、異次元収納機能だ。
とは言っても、開発には莫大なコストがかかるし、収納できる体積や質量は限られるため、警察や軍隊の装備には搭載されていない。
シーカーの武器に、それもテスト運用という名目で実装しているのが実情だ。
対する勇雄は、背中の布袋を下ろして、素早くヒモを解いて中身を開帳した。しかし、中から現れたのは、大和が予想しない得物だった。
――薙刀? いや、あれが
長巻とは、刀の柄を長くした、薙刀とは似て非なる武器だ。
――魔術が使えないのに、銃火器じゃないのか? いや、それよりも。
「おい待てよ、五人がかりは卑怯だろ!?」
勇雄の身を案じ、大和は口を挟むも、他ならぬ勇雄自身が手を掲げて制した。
「問題ない。実戦において、アポリアがタイマンを望むはずもない。さぁ、実戦を望むならば来るがいい」
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