第13話 ビビるイキリ陽キャ
「うおわぁっ!?」
「おい、お前先輩の家の前で何やってんだよ」
秋雨が目の前に着地すると、内込は演技なんじゃないかと思うぐらい大袈裟にお驚いて電柱に背中からぶつかった。
まるで逃げ道を探すように周囲を見回す内込。
けれど、秋雨が黙って見つめ続けると、やがて観念したように大きく頭を下げた。
「すまん! 実はジャックにお前の居場所を教えたのオレなんだ!」
「? どういうことだ?」
わけがわからず尋ねると、内込はおそるおそる顔を上げて、怯えるように説明し始めた。
「実は昨日の放課後、アポリアのジャックに声かけられたんだよ。お前の居場所はどこだって。オレ、てっきり海外メディアの外人記者か何かだと思って、試験会場の場所教えちまったんだ」
――ジャックが俺を探していた? アポリアを倒せる戦力の奴を潰しに来たのか?
アポリアが想像以上に知恵が回ることに秋雨が驚いていると、内込は必死に言い訳をするようにまくしたててきた。
「だけどそしたらそいつが新聞やニュースに出ていてアポリアって、試験会場に出て、すげーたくさんの人が襲われてお前と生徒会長が殺されそうになったとか、あ、あれってオレのせいだよな? お前大丈夫なのか? それに、テレビじゃ死んだ人はいないって言っていたけど、本当か? お前、あの場にいたんだろ? 本当に死んだ人いないんだよな?」
青ざめた顔で涙目になる内込に、今までの偉ぶった態度はなかった。
それで秋雨は色々と察した。
内込は、巨悪などではなく、イキがっていただけなのだ。
まだ14歳の子供だが、もう14歳でもある。
打撃力を飛ばすという戦闘系能力が社会では役に立たない事は、彼も気づいているはずだ。
それが悔しくて、惨めだったに違いない。
だから、その鬱憤を自分にぶつけることで強者気分を味わい、自己顕示欲を満たしていたのだろう。
けれど彼の精神は一般人そのもの。
自身の軽率な行動で人が死んだかもしれないという重圧に耐えきれなかったのだろう。
「…………」
そう思うと、だんだん内込が可哀そうになってきた。
秋雨は、決して聖人君子様ではない。
だからと言って、復讐心に悦を感じる嗜虐心もない。
愛する草壁と仲良くできていることによる精神的余裕もあるだろう。
とにもかくにも、秋雨の胸には同情の念が湧いていた。
「心配すんなよ。確かにケガ人は出たけど、俺も含めてみんな回復系能力者の力で完治したぜ」
秋雨は自身の健在ぶりを見せつけるように肘を曲げて、力こぶを作るポーズを取ってあげた。
「そ、そっか、そりゃよかった。あと、よ……ジャックの奴、何かオレのこと、言っていなかったか?」
安堵したのも束の間、今度は何かを探るような口調に、秋雨はピンときた。
「何も言っていないぞ。ジャックは消滅したし、お前のせいで会場に現れたってことはバレないと思うぞ。お前が警察に捕まったりはしないって」
「本当か!? あ、いやそりゃそっちも心配だったけどそうじゃなくて、な」
大きく胸をなでおろしてから目を泳がせる内込。
どうやら、自分の責任問題になり警察に捕まることを心配していたらしい。
秋雨は彼を不憫に思った。
まさかジャックがアポリアだなんて思うはずもない。
ただ俺の居場所を聞かれたから答えただけ。
それが大事件に繋がれば、生きた心地がしないだろう。
それから2、3言葉を交わしてから、内込は安堵しながらも背中を丸めながら帰っていった。
その小さな背中に、秋雨は今までいじめられてきた恨みとか、嫌悪感などが縮むのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます