【俺は英雄になれるのだろうか】 電撃文庫★僕らは英雄になれるのだろうか★前日譚!

鏡銀鉢

第1話 学校という歪んだ箱庭ボッチが出会った美少女生徒会長

 星歴2024年。

 某中学校。


 帰りのホームルームが終わると、浮雲秋雨うきぐもあきさめは開放感から息を吐いた。


 周囲が放課後の過ごし方や、昨夜の記録的な流星群について話し合っている。


 耳に入る情報によると、クラスメイト達は夜に集まり流星群を見ていたらしいが、秋雨は呼ばれていない。

けれど秋雨は無関心で、鞄を手に立ち上がり、素早く教室から出て行った。


 彼が向かったのは保健室だった。


 そこで、【回復魔術かいふくロゴス】をかけてもらい、校内から帰りの生徒が減ってから帰路についた。


 秋雨は学校が嫌いだった。

 勉強が嫌いなのではない。

 学校が嫌いなのだ。


 少年法と教師たちの隠蔽体質に守られた学校という名の箱庭は、【いじめ】というチープ感漂う名前で誤魔化された犯罪の温床であり、秋雨は被害の中心にいた。


 このような環境で健全な青少年を育成できると思っているのだから、文部科学省には世間知らずのお坊ちゃまかサディストしか在籍していないのだろうと、秋雨は常々思っている。


「おっ」


 人で賑わうアーケード街を歩く秋雨は、電機屋の前で足を止めた。


 店頭ディスプレイには、来期から始まるアニメのPVが流れている。


 人気ラノベ原作のその作品は典型的なバトル作品で、この日之和国にはびこる悪の魔術使いを、正義の魔術使いたちが倒す、という内容だ。


 ただでさえバトルモノが好きで、設定も【共感】できる秋雨イチオシの作品だ。

 つい、PVに見入ってしまう。



 この世界には、【魔術ロゴス】と呼ばれる技術が存在する。

 魔術とは、人の精神エネルギーである魔力パトスを別の物質やエネルギーに変換し、超自然現象を起こす技術だ。

 人が持つ知力、体力に続く、第三の身体機能とも言われている。



 一部の社会評論家は、この魔術がいじめ問題の元凶と主張しており、秋雨も同感だった。


 神話や戦国乱世において、数多くの英雄と呼ばれる魔術使いたちが活躍した。


 けれど近代、日之和国では明治以降、魔術は衰退の一途を辿っている。

 魔術には生まれ持った適性があり、起こせる超自然現象には個人差があるからだ。


 数万人を動員する体系化された近代戦争においては、特性の違う個人技によるスタンドプレーは役に立たない。


 同じ武装で規格統一された集団による一糸乱れるチームワークこそが最善であると、多くの戦場が証明した。


 まして、戦車、戦艦、戦闘機が開発されれば、戦闘系魔術使いはお払い箱だ。

 それに、治安維持の観点から見ても、個人が兵器クラスの戦力を持つことはリスクがあった。


 結果、魔術は一部の人がちょっと生活や仕事を便利にするライフハック程度の存在となり、活躍の場を奪われている。


 反面、小中学校など子供の世界は、戦闘系能力者が幅を利かせている。ここは、体育会系が偉そうなのと同じだろう。


 ――社会に出たらなんの役にも立たないくせに。


 今日、自分に暴力を振るってきた生徒たちの顔を思い浮かべながら、秋雨は心の中で嘲笑した。


 戦後79年間、平和な日之和ひのわ国では戦闘系の魔術は役に立たない。


 それがわかっているから、秋雨自身も自分の能力をひけらかすようなことはしない。

 秋雨にとって自分の能力は、計算機のある現代で十桁の暗算ができるようなものだと思っている。

 しかし、そうしたことが理解できたないチンパンジー並の倫理観しか持たない一部の生徒は、強いイコール偉いだと思い込んでいるから始末に負えない。


 バトル系作品に出てくる悪役はそのチンパンジー共であり、主人公たちは秋雨の思うあるべき本来の魔術使いそのものだった。


 ――ていうか戦闘系なら警察とか軍隊とかヒーロー系になればいいのに、なんであいつらはイジメとか悪党側に回っているんだ? 漫画の悪役が好きなのか?


 魔術が廃れたと言っても、能力によっては現場で役に立つ局面もある。


 実際、魔術で手錠を壊して逃げた犯罪者を、警察官が自分の拘束系魔術で再逮捕したという事例もある。


 凶悪事件なら、拳銃などの通常装備に加えて自分の魔術を活かせる場面もあるだろう。


 ――俺なら、どうせ魔術を活かすなら絶対に警察を選ぶのに。それで、困っている人たちを助けまくるんだ。


 ずっとイジメられてきたからだろう。

 誰よりも誰かに助けて欲しいと思ってきた秋雨は、いつのまにか自分が誰かを助けたいと思うようになっていた。


「キミもこの作品が好きなのかい?」

 

「へ?」


 涼やかな声に振り返ると、すぐ横に背の高い凛とした美少女が立っていた。


 男子である秋雨と同じ目線の高さからこちらに視線の合わせてきた女子の美貌に、秋雨は息を呑んだ。


 ――なん、で、この人が?


 秋雨は彼女を知っている。

 否、学校で、彼女を知らない人はいないだろう。


「生徒会長?」

「うん、生徒会長だよ。けど学校の外では気軽に守里ちゃんと呼んでくれ。親戚の叔母さんはみんなそう呼ぶ」


 シャキッと背筋を伸ばして白い歯を光らせた。

 このイケメン女子の名は草壁守里くさかべまもり、秋雨の通う中学校の生徒会長の首席生徒だ。


 殴り合う不良生徒ですら彼女が姿を見せれば肩を組み合いながらニヤけるほどの人気者であり、先生たちからも尊敬される超人だ。


 そんな彼女が、陰キャでボッチの、古い言葉で言えばクラスカースト三軍の自分に話しかけているのが不思議で、秋雨は白昼夢でも見ているような気分だった。


「面白いよねぇ、この作品。ボクは風森ちゃんが好きだな」

「え、珍しいですね」


 風森とはヒロインの中でも地味で目立たない、あまり人気の無いキャラだ。


「チートキャラぞろいの中、彼女だけは最弱能力でありながら勇気と努力、それに能力の使い方でチート相手に互角の戦いをしている」


 丁度ディスプレイに風森が映って、草壁は慈しむように目を細めた。


「ハヤブサが飛ぶことは努力と呼ばない。努力とはニワトリが飛ぶ練習をして飛ぶことであり、勇気とは弱者が強者に立ち向かうことを言うのだ。ボクも彼女のようでありたいものだよ」


 全校集会では見せない優し気な表情に、秋雨はちょっと頬を熱くなった。


 ――生徒会長って、こんな顔するんだな。


 それに、天才よりも努力する人を好む彼女の在り方が、秋雨にはなんだか嬉しかった。


「それで、キミは誰が好きなんだい?」

「えっ!? あー、俺は主人公ですね。ヒーロー的で好きです」

「へぇ、キミも男の子だねぇ。まっ、ボクもヒーローは大好きだけどね。むしろヒーローに憧れない人の気持ちがわからないよ」


 快活に笑ってから、彼女は体ごとこちらに向き直った。


「その制服、うちの生徒だろ? 所属と名前は?」

「に、二年十組の、浮雲秋雨です」


 学園一のスターから気さくに声をかけられて、秋雨は気持ちが昂りながらテンパった。


 ――うわ、いま俺変な声出た。


 いかにも女子慣れしていない非モテ男子っぽくて、秋雨は頬を熱くなるほど恥ずかしかった。

 けれど、草壁はそのことを茶化すことなく、さわやかな笑みを向けてくれた。


「そうか、では連絡先を交換しよう。アニメが始まった感想を投稿してくれ」

「うぇ!? いいんですかそんなことして?」


 また、自分でも変だと思う声で驚く秋雨だが、草壁は不思議そうに首を傾げた。


「何かおかしいかい?」

「おかしいですよ」


 まばたきをする草壁に、秋雨は慌てながら、努めて冷静に説明した。


「初対面の男子にいきなり連絡先を聞くなんて普通しないでしょ。信用できる相手かもわからないのに」


 冷静になるつもりが、けっこう早口になってしまった。

 対する草壁は、なんだそんなことかと、ぴこんと人差し指を立てた。


「人との出会いは一期一会なんだぞ」


 無敵の笑顔に、秋雨は毒気を抜かれて何も言えなくなってしまった。

 そして、自分の中から恋に落ちる音が聞こえた。




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 主人公合格編


https://twitter.com/bunko_dengeki/status/1512023759531950089?cxt=HHwWkoDS7aTm5PspAAAA

 魔力出力測定編


英雄に憧れた全ての少年に贈る、師との絆が織り成す学園バトル!


人類を護る盾であり、特異な能力の使用を国家から許可されているシーカー。

その養成学校への入学を懸けて、草薙大和は幼なじみの天才少女、御雷蕾愛との入学試験決勝戦に臨んでいた。しかし結果は敗北。試験は不合格となってしまう。


そんな大和の前に、かつて大和の命を救ってくれたシーカーの息子、浮雲真白が現れる。傷心の大和に、大事なのは才能でも努力でもなく、熱意と環境であり、やる気だけ持って学園に来ないかと誘ってくれたのだった。念願叶って入学を果たした大和だが、真白のクラスは変人ばかり集められ、大和を入学させたのにも、何か目的があるのではと疑われ──。


ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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