魔法妖精フェアリープリンセス

@jukaito

第1話 転校生は花の妖精!?

 妖精界。

 そこは優しい日の光が降り注ぎ、清らかな水が流れ、大地から草木は生い茂り、花びらは空へと舞い上がる。人間の目からみたら桃源郷といっていい場所でしょう。

 そんな妖精界の中央に立派なお城が建っていました。


「妖精の女王フェアリークイーン様、謁見を願います!」


 謁見の間に参上した三匹の妖精が進言します。

 玉座に座る私――妖精の女王フェアリークイーンは厳かながらも慈愛に満ちた微笑みで三匹の妖精を見つめます。


「花の妖精リリ」

「リリ!」


 花びらの形をした妖精リリはヒラッと身体を一回転しました。


「水の妖精ミミ」

「ミミ!」


 水たまの形をした妖精ミミはピタッと身体を跳ね上がりました。


「土の妖精ツツ」

「ツツ!」


 小石の形をした妖精ツツはカタッと身体を床につけました。


「三匹ともよくきました」


「「「「はは」」」」


 三匹はそれぞれなりの礼で応じてくれました。


「今日あなた達を呼んだのは、あなた達に頼みたいことがあるのです」

「フェアリークイーン様、頼みたいこととはリー?」

「妖精の王女フェアリープリンセスを選ぶ時がやってきました」

「なんとミー!?」

「そこであなた達に妖精の王女の候補フェアリーガールを見つけ出してきてほしいのです」

「おお、大役だツー!?」


 三匹は喜びと興奮を露にし、周囲を取り巻く妖精たちはザワザワとざわめきます。

 とてもいい盛り上がりでまるでお祭りのようです。妖精はお祭りが大好きです。


「どうか人間界から素敵なフェアリーガールを見つけ出してください」


「「「はい!」」」


 三匹は元気よく返事をします。

 とても気持ちのいい返事です。きっと期待に応えてくれるでしょう



 こうして三匹は妖精界から人間界へ渡りました。

 妖精の王女となる候補者フェアリーガールを見つけるために。


 花の妖精リリは空を飛び、花びらが舞い、鳥達が一緒に飛び立ちました。

 水の妖精ミミは川は波立ち、虹がかかって、魚達が跳び跳ねました。

 土の妖精ツツが草木がさわめき、虫達が鈴のように鳴きました。


 それはそれはとても素敵な旅立ちでした。

 きっと彼等ならば素晴らしいフェアリーガールを連れて来てくれるでしょう。

 そして、その中から私――フェアリークイーンの座を受け継ぐ妖精の王女フェアリープリンセスがきっと現れてくれるはずです。



******************



ピピピピピピ!!


 アラームが部屋中に響き渡ります。

 普通の子ならこのうるささにびっくりして起きてしまうところなんですが……


「もう三分、いいや五分……十分……」


 なんとも都合の良い寝言を言ってますね。

 そんなに寝ていたら遅刻してしまうのではないですか。


「愛花、遅刻しちゃうよー!!」


 ほら、お母さんが起こしにきました。


「遅刻……?」


 その単語を聞いて、愛花は目覚まし時計をとって時間を見ます。

 目がパッと開きました。


「えぇ~、もうこんな時間!?」


 かぶさっていた布団を吹っ飛ばして、飛び起きます。


「転校初日なのに、遅刻するわけにはいかないんだから!! 変な子だって思われちゃう!!」


 叫びながら、顔を洗って、朝ごはんのトーストを食べて、制服に着替えます。

 かばんをもったら、もう登校準備は完了です。


「いってきまーす!!」


 扉を開けて、勢いよく外へ走り出します。

 大変元気の良い子ですね。



******************



「今日からこのクラスの一員になった転校生の桃園ももぞの愛花あいかさんです。親の都合で引っ越してきたばかりだからわからないこともいっぱいあると思うので、みんなで助けてあげてくださいね」


 女教師から紹介されて、愛花は一礼します。


「桃園愛花です。早くみんなと打ち解けて友達になりたいです! よろしくお願いします!!」


 とても元気で良い挨拶です。

 クラスの皆さんも良い印象を持ったと思います。

 愛花は教室で空いている隅っ子の席に座りました。


「よろしくね!」


 愛花は隣の席の男の子に声をかけます。


「うん……」


 男の子は曖昧に返事する。


「それでは今日も一時間目の準備をしてくださいね」


 そう言って、担任は教室を出て行きます。


「一時間目って何?」


 愛花は前の女生徒に訊く。


「理科だから理科室に移動するの」

「りかしつ? どこにあるの?」

「ついていけばわかるよ」

「それもそうね……」


 そう言いながら、愛花は近くにいた女生徒の手を掴みます。


「え……?」

「理科室まで案内して!」

「いいけど……」


 女生徒は驚くけど、愛花には笑顔でお願いしたので了承してくれます。


「助かった。ありがとうね」

「フフ、わからないことがあったら遠慮なく聞いてね」


 親切な子ですね。


「じゃあ、私と友達になってくれる?」

「え!?」


 愛花がいきなりそんなことを言うものですから、女生徒は驚きました。


「フ、フフフ、そんなこと言われたのは初めてよ」

「イヤだった?」

「そんなことないわ。私、青神あおがみ優水ゆみ。よろしくね、桃園さん」

「ええ! でも、愛花って呼んでほしいな」

「愛花……そうね、それじゃあ愛花さん、早く行きましょう」


 他の同級生はみんな理科室へ行ってしまいました。


「あ、ああ、そうね!」


 愛花は間が抜けてますね。



******************



「愛花さんは親の都合で引っ越してきたの」

「そうなの! お父さんの仕事って転勤が多いの! 転校もこれで五回目なの!」

「ご、五回目」

「そ、そう……五回目も、なんて大変ね……」

「全然大変じゃないよ!」

「え?」

「だって、友達がいるから!」


 愛花は屈託のない笑顔でそう言います。


「友達?」

「そう! 転校するたびに新しい友達ができるから楽しいよ!」

「そうなの……なんだかすごいわね」


 優水は素直に感心します。


「全然凄くないよ! それにもう新しい友達ができたし!」

「え、あ……?」


 優水は愛花が自分のことを言っていることに気づくのに時間がかかりました。


「そうね……」


 優水は愛花の積極的な態度に驚き、戸惑いました。

 でも、戸惑っているだけで悪い気はしていないように見えます。きっと、二人は良い友達になるでしょうね。


「それにしても…・・」


 愛花は窓から校庭を見ます。


「桜、キレイだね」

「ええ、ここからだとよく見えるわね」


 四月を半ば過ぎた頃なので桜の花びらがまだ校庭に舞っています。

 校舎の廊下を歩いていると窓からそれが見えます。


「この学校に転校できてよかった!」

「フフ、そう言ってくれると私も嬉しいわ」

「妖精さんが住んでいそうな素敵な桜だよ!」

「妖精さん、ね……」


 優水はキョトンとします。


「たしかにそうかもしれないわね」

「桜の花って、花びらがヒラヒラしてキレイだよね」

「そうね。――でも、ずっと見てたら授業に遅れるわよ」

「あ、そうだった!」


 もう十分に遅れています。二人はそれを意識して早足気味に理科室へ向かいました。

 愛花が見た桜が舞う校庭に偶然ですが、そこに本当に妖精がいました。

 妖精の国から人間界へ渡ってきた花の妖精リリです。



******************



 転校初日、愛花は早くもその個性を大いに発揮しました。

 数学では計算を間違え、国語では漢字を読み間違え、体育では準備運動で転んでしまいました。

 ……どうやったら、準備運動で転ぶのでしょうか?

 ともかく愛花がそうするたびに周囲では笑いが起きました。

 それはもう花がパッと咲いたみたいに。愛花は花のように笑顔を咲かせる子なのかもしれませんね。




「あいたたた……」


 学校が終わって帰宅した途端、体育ですりむいた足の傷をさすります。


「愛花、またドジしたの?」


 キッチンで夕食の準備をしている母が呆れたように言います。


「またとは何よ。そう、しょっちゅうドジなんてしないよ!」

「でも、今日はしたのね」


 母は足のすり傷という動かぬ証拠を見逃しません。


「これは、ちょっところんだだけでドジじゃないよ!」


 なんとも苦しい言い訳ですね


「そういうのをドジというのよ」


 母も私と同じ意見みたいですね。


「ん~~」


 愛花は不満そうにうなだれます。


「初日からそんなんじゃ心配だよ」


 母は一転して心配そうな顔をして言います。


「大丈夫だよ!」


 愛花は心配かけまいと元気に言います。


「新しい学校はステキだし、友達ももうできたんだよ!」

「そう、それなら安心だけど」


 そこへ、ピロンと携帯電話が鳴ります。


『今日転校一日目だったけど大丈夫だった?またドジとかしなかった?』


 前の学校の友達からみたいです。母と同じ心配をしてますね。

 愛花はムッとして返信します。


『ドジなんてしないよ。もう友達もできたし、大丈夫だよ!』


 愛花は文を打ちながら声に出してしまうみたいですね。


「それじゃ、その足の傷は何なの?」


 母が疑問を挟みます。


「だ・か・ら! これを転んだだけだって!」

「それをドジって言うんだよ」


 母は呆れて言います。



******************



「うわああ~ん、また遅刻しそう!!」


 昨日と同じようにまた寝坊してしまったみたいです。

 愛花は全力疾走で、通学路を走って学校に辿り着きます。

 二年二組の教室まであともう少しです。この分だと間に合いそうですね。


「おりゃああああああ!!」


 あら、反対方向から同じように全力で走ってくる女の子が!


「おおおおおお!!」

「ああああああ!!」


 二人とも前が見えてないみたいです。

 そのまま、走ったらぶつかってしまいますよ。


ポカーン!!


 あら、本当にぶつかってしまいました。それもものの見事に、です。


キンコーンカンコーン


 そして、始業のチャイムが鳴ってしまいます。


「大丈夫ですか?」


 そこへ担任の女教師が倒れている二人に声をかけます。


「私なら大丈夫です!」


 ぶつかってきた女の子は元気に言います。


「あいたたたた……」


 愛花の方も大丈夫みたいです。コブはできていそうですけど。


「大丈夫ならいいけど、念のため保健室に行ってください」

「はーい!」


 二人揃って保健室へ向かいました。




「つめたーい」


 保健室へ行って、愛花は氷水でコブを冷やします。

 そのせいで身体が冷えたみたいなのでブルブル震えます。


「ごめんなさい! 私がちゃんと前を見てなかったから」

「ううん、私の方も前を見てなかったからお互い様だよ。それより、あなたの方は大丈夫だった!」

「うん、大丈夫! 丈夫なのが取り柄だから!」


 女の子は元気に答えます。愛花と違ってコブもできていないみたいですし、愛花より大丈夫そうです。


「あ! あなた、昨日転校してきた娘ね。えっと、名前なんだったかな?」

「桃園愛花! あなたは?」

原地はらち黄唯きいです」

「それじゃ、黄唯ちゃんだね! いい名前!」

「そ、そう……? 名前を褒めれるなんて思わなかったわ……愛花ちゃんの方もいい名前だと思うんだけど」

「ありがとう! 私も大好きなの!」

 愛花は黄唯の手を握ります。

「わあ!?」

「友達になろう!」

「と、友達……?」

「うん、私色んな人と友達になりたいと思ってるの! 黄唯ちゃんとも!」

「黄唯ちゃん!?」

 黄唯は飛び跳ねるように驚きました。

「わ、私は……!? 友達になれない!?」

 そう言って本当に飛び跳ねて、保健室へ走り去っていきました。

「あ……」

 一人に取り残されて愛花は呆気に取られて呆然としてしまいました。あ、あと保健室の白衣の先生も目が点になっています。

「あ、愛花さん、大丈夫だった?」

 保健室の外から優水が覗き込んできます。

「うん、大丈夫だよ!」

「でも、足をすりむいてるじゃない」

 優水は絆創膏が張られた膝を指して言います。

「あ、これは昨日の体育でやっちゃった傷だよ」

「あ、そうだったわね!」

 優水は昨日の体育の出来事を思い出す。

「クス」

「そんなにおかしかった?」

「おかしいというか、準備運動で思いっきり転ぶ人なんて初めて見たから」

「む~~」

 愛花はふくれます。

「あ、ごめんなさい、怒らせるつもりはなかったのよ」

「え?」

 優水があまりにも真面目に謝ってきたので、愛花は驚きます。

「気にしなくていいよ。前の学校の友達なんて、もっと、こうお腹かかえて大笑いしてたこともあったんだから!」

 愛花はわざとらしいぐらい大げさにお腹を抱えて仰け反ってみせます。

「え、そんなに?」

「うん、そんなに!」

 優水はクスクスと笑います。

「すごい友達ね」

「うん、いい友達だよ!」

「……私はそんな友達になれないけど」

「ううん、優水ちゃんは優水ちゃんだから!」

「優水ちゃん?」

 優水はキョトンとします。

「愛花さんって……」

「何?」

 優水が何を言おうとしてやめました。でも、何を言おうとしたか、私にはわかりました。


 愛花は変わってますね。でも、悪い子じゃありません。むしろとてもとても良い子です。


「ううん、なんでもないわ。さ、教室に戻りましょう」

「あ、一時間目はもう終わってたんだ」


 愛花は時計を見て、言います。


「そうね、でも二時間目から出席すればいいわよ」

「二時間目ってなんだっけ?」

「数学よ」

「あ~」


 愛花は頭を抱えます。


「私、数式が苦手なの」

「昨日は漢字が苦手と言ってなかった?」

「両方苦手だよ!」


 愛花のあまりにも勢いのある苦手宣言に、優水はキョトンとします。


「それじゃ少しでも得意になるように授業を受けないとね」

「そうね」


 優水の正論に、愛花も頷くしかありません。素晴らしい返しですね。

 二人は保険医に挨拶をしてから、保健室を出ます。


ザワザワ


 保健室を出た瞬間、風で葉が揺れる音がやたら大きく響きました。


「優水ちゃん? 何か聞こえない?」

「何も聞こえないけど」


 愛花には声に聞こえたのでしょう。


「なんだか……助けて、って……」


 愛花は耳を澄まします。


「何も聞こえないけど……」


 そうしても、優水には聞こえません。

 やっぱり、愛花の気のせいでしょうか。


ザワザワ


 葉が揺れる音がまたします。


「やっぱり声がする!」


 気づいたら愛花は走り出していました。

 助けを求める妖精の声を聞き取ったみたいですね。

 これも何かの運命なのでしょう。



******************



 桜の舞う校庭に花びらのような妖精リリがいました。


「フェアリーガール……フェアリーガールを探さないとリリ」


 風に揺られて、空から降りたのがこの校庭でした。

 リリの目的は妖精の王女候補フェアリーガールを見つけることです。

 リリはキョロキョロ見回っています。とても張り切っていますね。


「あれが妖精ですよ」


 そんな妖精の姿を屋上で見下ろす影がありました。

 あれは――悪魔ですね


「見つけましたビビ」

「本当に来るとは思わなかったな」


 一人の男子高校生も一緒にいました。


「どうするんだ、アビ?」


 男子は悪魔のアビに訊きます。


「決まっていますビビ。フェアリーガールを見つられる前に妖精の国に追い返しますビビ!」


 アビは張り切って言います。

 男子はそれを無言です。アビはそれを肯定してると思ったでしょう。


「あれがちょうどいいビビ!」


 アビは桜の木を見つけます。

 一本だけ花びらが全部散ってしまった寂しい木です。


「デビルマジック!」


 アビの手から黒い光が出て木を包み込みます。

 すると、木から足が生えて一人でに動きます。

 草や木をモンスターに変えてしまう魔法ですね。恐ろしいです。


「お前はデビロッサムだビビ!」

「ワオオン!!」


 デビロッサムと命名された木のモンスターは鳴きます。犬みたいです。


「いけ、あの妖精をやっつけるんだッビ!」


 アビの命令を聞いてデビロッサムはリリに向かいます。

 リリが危ないですね。


ドスンドスン


 動き出したデビロッサムはリリを見つけて襲い掛かります。


「リリリリリリッ!?」


 リリはビックリして、逃げます。

 蔦をムチのようにしならせます。


パチンパチン!


 リリは衝撃でひっくり返ります。

 転がり回って、目まで回します。


「何が何だかリリ!? わからないリリ!?」


パチンパチン!!


 困惑していますが、とにかく逃げなければならないことだけはわかります。


「助けてリリ! 助けてリリ!」


 大声で叫んで逃げます。

 ですが、ここは人間の世界。普通の人間には妖精の姿は見えなくて声も聞こえません。そう、普通の人間には。


「助けてって言ってたのは、あなた!?」

「リリ!?」


 リリの目の前に現れたのは、愛花でした。


「人間、女の子……?」

「やっぱり言葉をしゃべってる!?」

「リリは妖精だから、喋れるリリ」

「リリっていうんだね?」

「花の妖精リリだリリ!」

「花の妖精? それじゃ本当に妖精さんなんだ!?」

「リリの声が聞こえたなら、もしかして君は……」


ドスン!


 リリの声は、デビロッサムの足音によってかき消されます。


「な、なにあれぇぇぇッ!?」


 愛花は飛び上がりそうな勢いで驚きます。


「悪魔だリリ!」

「あ、悪魔!? 妖精の次は悪魔!?」


 愛花はパニックになります。

 妖精と悪魔の相次ぐ登場で、頭がパンクしてしまったみたいです。

 そんな愛花に向けて手である蔦を振るいます。


「わわ!?」


 愛花はリリを抱えて逃げます。


ドスン!!


 ですが、先回りされて校舎に入れません。


「リリを置いて逃げるリリ!」

「そんなことできないよ! 悪魔ってどうしたらいいの?」

「魔法で倒すリリ!」

「え、倒す? 魔法で??」


 愛花は余計にパニックになりました。


「君ならできるリリ」

「私? 無理無理!私、魔法なんて知らないんだよ!!」


 手をブンブンと振ります。


「このブローチをつければ使えるリリ!」


 リリはピョンと飛んで、愛花の胸にブローチをつけます。桜の花びらのような桃色のブローチです。


「ブローチ?」

「このブローチには妖精の女王フェアリークイーンのチカラが宿っているリリ! そのチカラを借りて魔法を使えるリリ!」


ドスンドスン!!


 リリが頑張って説明しているところにデビロッサムが襲い掛かってきます!

「わわわ!?」

「リリリ!!!」

「ねえねえ、どうしたら魔法を使えるの!?」

「魔法の言葉を唱えるリ! フェアリーマジック!」

「ふぇ……ふぇありー?」

「もっとちゃんと唱えるリー!」

「フェアリーマジック!!」

 愛花は力強く唱えます。


ピカーン!


 するとブローチは光り輝きます。

 花びらが舞い散り、愛花を包み込みます。

 そうすることで妖精に生まれ変わります。

 妖精の王女フェアリープリンセスとなる妖精少女に。


「花の妖精フェアリーフラワー!!」




「どこに行っちゃったんだビビ?」

「見失ったか」

「妖精はちっちゃくてすばしっこいですビビ」

「ちっちゃいのはお前も同じだろ」


 男の子は突っ込みながら校庭にやってきます。


「面倒だから変身しておく」

「几帳面ですビビ」

「デビルマジック!!」


 男の子がそう唱えると、黒い光が包み込みました。


「黒の悪魔・オニキスデビル!」


 フォーマルスーツに身を包み、マントをなびかせる紳士が現れました。


「それで妖精は……」


ドスン! ドスン!


 デビロッサムのうるさい足音がします。


「あちらですか」


 その足音を聞いて、オニキスは優雅にステップで近づきます。


「桜の花びら……?」


 そこで眩く飛ぶ花びらが目に入りました。


「いえ、違いますね。これは魔法の花びらですね、誰が?」


 オニキスの疑問に答えるように声がします。


「花の妖精フェアリーフラワー!!」


 華やかな衣装に身を包んだ少女が姿を降り立ちます。


「フェアりーフラワー? あれが妖精なんでしょうか?」


 オニキスにはわかりませんでした。

 それもそのはずです。たった今誕生したばかりの妖精少女なのですから。


「わわ!? なにこれなにこれ!?」


 フェアリーフラワーは大いに戸惑います。


「これが魔法だリリ!」

「これが魔法なの!? すごーい!!」


 すぐ理解しました。飲み込みがいいですね。


ブウン!


 そこへデビロッサムが蔦を振るってきます。


「わわ!?」


 フラワーはジャンプしてかわします。


「……え?」


 大木を飛び越えてしまいました。まるで背中に羽が生えたみたいです。


「す、すごい……これが魔法……!?」


 フラワーは着地して、身体を振って今の身体の軽さを実感します。


「そうだよ。君が思い描いたとおりに魔法も出せる」

「魔法!」

「ほら、唱えてリリ! フェアリーマジック!」

「フェアリーマジック!!」


 フラワーは真似をして大きな声で唱えます。

 すると、舞い散った花びらが剣に変化する。


「フラワーソード!! って、剣になったああああ!?」


 フラワーは手に取って驚きます。


「君が戦う武器が欲しいと思ったんだリリ! だから、花びらが剣になったんだリリ!」

「なるほど! よおし!」


 フラワーは剣を勢いよく振ります。


バサ!!


 デビロッサムの蔦が切れます。


「すごーい!!」

「凄いリリ!!」


 フラワーとリリははしゃぎます。


ドスンドスンドスンドスン!!


 デビロッサムは大暴れします。


「わわ、暴れたら学校が滅茶苦茶になっちゃうよ!?」

「止めるリリ!!」

「よおし!!」


 フラワーは剣を振りかぶります。


「魔法はイメージリリ! 剣を振るって敵を倒す自分をイメージするリリ!!」

「フェアリーマジック!」


 フラワーは魔法の言葉を唱えます。

 その言葉通り、イメージのままに剣を振るいます。


「フラワリング・スラッシュ!!」


ザスン!!


 振りかぶられた剣の一撃がデビロッサムを一刀両断します。

 お見事です。


「ああ、デビロッサムがやられました!」


 ビビは悔しがります。


「美しいですね。あれが花の妖精、ですか」


 オニキスはフラワーを見つめます。


「一体何者なんでしょうね。悪魔の敵であることには間違いないでしょうが」


 そう言って、オニキスはビビと一緒に姿を消します。




 デビロッサムを倒したとわかると、フェアリーフラワーの変身が解けて桃園愛花に戻ります。


「わわ、戻った!?」

「見事な魔法だったリリ!」

「そ、そうかな?」

「君なら絶対にフェアリープリンセスになれるリリ!」

「フェアリープリンセス?」


 愛花には何のことだかわかりませんよ、リリ。

 ちゃんと説明してあげないとダメですよ。

 妖精のこと、悪魔のこと、フェアリーガールのことも教えてあげないといけませんよ。

 愛花はせっかく見つけたフェアリーガールなのですから。

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