星猫ジャックと炎と獅子の国(2章)

01 星猫ジャックと炎と金の砂

 川上から川下へ、川沿いを伝って、ジャックは旅をしていました。長い、長いこの川のように、長い、長い旅です。

 川には魚がいて、ジャックは魚を捕りながら、それを食べて暮らしていました。

 旅には色いろなことがあります。

 晴れの日もあれば、雨の日も。

 けれどもジャックの旅は、楽しいものでした。

 ある時ジャックは言いました。

「そろそろ一休みしよう」

ジャックはいつものように、魚を捕る準備を始めました。

 ジャックの魚捕りの方法は、少し変わっています。

 竿に結んだ糸の一番はじっこの針に、みみずなどのエサをつけて、竿を握って構えるところまでは一緒です。それを、タイミングよく川に向けて投げて、それからみみずが刺さった針が川の中に入ると、ジャックは息を吸って、片手をあげて、指球の先からちょんと爪を出します。

 そしてジャックがまた息をすぅと吸って、ほんの少し力を込めると、その爪が光るのです。

 そうすると不思議なことに、川をゆうゆうと泳いでいた魚たちはジャックの方に吸い寄せられて、そして針のみみずを食べた瞬間に、ジャックは釣り上げてしまうのです。

 この方法は、昼間でも使うことができるのですが、昼間は明るいので、ジャックの姿が目立ってしまいます。

 ジャックの毛並みは全身綺麗な闇の色。ジャックの姿は、夜の闇に隠れてしまいます。そうすると、魚は余計にゆだんして、ジャックの爪の光に吸い寄せられてしまうのです。

 ジャックの旅は、どんどん続きます。

 野を超え、森を超え、川沿いを伝って。

 ある時ジャックは、綺麗な草原を超え、その先で広大な砂漠に辿り着きました。

 黄金の美しい砂に囲まれた広くて美しいその砂漠は、美しい砂金のように、砂の黄金、空の青、空に輝く太陽を反射し、風が砂地を撫でる度に、キラキラと辺りがゆらめいて光りました。

「うわぁ、きれいだなぁ」

 ジャックはまるで絵のようなその景色に感動して、しばらく辺りを見ていました。

「よし、今日はここで休もう」

 ジャックは川沿いに小さなオアシスを見つけ、そこにキャンプを張ることにしました。

 ジャックは素早くテントを張り、たき火を起こし、砂虫を捕まえながら闇を待ちます。

 だんだんと日暮れになって、それからジャックの姿が闇に消えていきます。ジャックは用意した竿を持ち、砂虫に針を刺します。それからたき火に砂をかけ、火を消しました。

そうすると辺りは真っ暗になります。

それからジャックは、水に落ちないように注意深く湖に近づき、リズムよく針を川に投げ、爪を光らせました。

「ジャックか」

 聞き覚えのある声がしたので、ジャックは爪の光を声の方向に向けました。闇を明るく照らし、声の主を探します。どうやら、少し離れた木の下のところに、誰かがいるようです。それは、ジャックの伸長と同じくらいの小人の男の子でした。ジャックの目は闇の中でもよく見えますが、男の子はよく見えないようでした。

 ジャックは竿を置き、爪の光を自分に向けます。

「こんなところで会えるなんて」

「こんな砂漠で会えるなんてな」

 声の主は、見覚えのあるランタンを明るく照らし、周囲はだんだんと明るくなっていきました。

「やっぱりジャックだ」

 声の主は懐かしそうに笑いました。

「やぁ、君は何をしているんだいこんな砂漠で」

 声の主は美しく毛の長い猫のようなモチーフが刻まれたランタンを揺らしながら、ジャックに近づいてきました。

「仕事だよ、もちろん」

 ふぅ、と声の主がランタンに息を吹きかけると、炎のような赤い光が辺りを包みました。

「へぇ」

 ジャックは思わず、ため息をつきます。

「炎のようだね。すごく恰好いい」

 声の主の手に持ったランタンは、暖炉の中で激しく燃える炎のような、赤い、美しい光で燃えるように光っていました。

「ジャックはここまで来ていたんだな。元気そうだ」

「ジェイクも」

 ジャックが爪を光らせると、あたりを包む赤い光と混ざり、辺りは暖かい太陽のような色の光に包まれました。

「ついこの間のことなのに、何だか懐かしいな」

「本当だね」

 その太陽の色の光は不思議と懐かしく、砂漠の中に在るジャックとジェイクの心を奮わせるような気がするのでした。

「おっと、売り物なんだ」

「へぇ」

ジェイクは赤い光のランタンを消して、青い光の優しい光のランタンを灯しました。

「懐かしいだろ、ジャック」

 ジェイクはさっとポールを組み立て、先端にフックをかけると慣れた様子でランタンをフックに引っかけて、ポールを土に射して立てました。

「ジャック、夕飯は食っちまったか?うまい干し肉があるんだ。どうだい?」

「食べよう」

 たき火を起こし、二人で干し肉を炙り、チーズを溶かしました。

 途中でジャックが魚を釣って、それもたき火で焼いて二人でみんな食べてしまいました。

 二人はまるで昨日も一緒にいたように黙々と食事を味わいましたが、お腹が落ち着くと、二人はお互いについての最近のことを、お互いに色いろ質問し合いました。

 ジャックが変わらず長い旅をしていること、ジェイクの地元での鍛冶屋の仕事はかなりうまくいっていて、美しい砂漠のこの国に新しい商品を売り込みに来ていること。ジャックはジェイクのいる国を出てから、変わらず川沿いに旅をしていること。ジェイクはジャックが国を出てから、変わらず仕事と、学校のことは少しだけ励み、国のみんなも変わらずに元気でいること。そんなことがお互いにわかりました。

「ねぇ、ジェイク、僕はここまで時間をかけて川を下ってきたけれど、君は船できたのかい」

 いつの間に船が通ったのだろうとジャックは思っていました。

「あー……いや、船ではないぜ」

「近道があるのかい?」

 得意げに、ジェイクは微笑みました。

「なぁジャック、オイラのいるシリウスは、ここからどのくらい離れていると思う?」

「山100個くらいかな。かなり歩いたからね」

「そのとおり」

 ジェイクは、リュックの中から地図を取り出しました。

「近道なんてないさ。強いて言うなら、ジャックの辿ってきた道が近道。最短ルートなのさ」

「本当だ。じゃあどうやって?」

「ジャック、渡り鳥はどうやって山を越える?」

 ジャックの金色の目が、好奇心に満ちた光で輝きました。


 

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