第41話 びーとえもーしょん

「新入生も入学してきた…だが物足りない…入学式に必要なナニカが足りない、そんな気がしたのだ」

 生徒会室で魔王の椅子に腰かけた秋季は不満そうであった。

「まぁ、ご立派でしたわよ一ノ瀬先輩、さすが2度目だわと思いましたもの」

(悪意があるんだろうか…春奈先輩)

「私のスピーチではない、私のスピーチは完璧だったと自負している」

「一ノ瀬先輩の中で、じゃあ何が足りなかったんでしょう?」

「カレーパン‼」

 冬華が閃いたように叫ぶ。

「…ではないな…カレーの気分じゃなかった」

「華咲き誇る学び舎に~♪」

 廊下から歌声が聴こえる。

「育まれてい~く和平の心~♪」

 無駄に澄んだ歌声、ガラッ…

「グッモーニン、エヴィワン」

 無駄に発音が言い夏男である。

「………それだ‼」

 秋季の扇子がパンッと広げられる『ごめんネ、素直じゃなくて』の文字。

「はい?」

 小太郎が秋季を見る。

「校歌斉唱が足りなかったのだ」

「あぁ…ゾンビが合唱するんですか?」

「まぁ…猫にワンと鳴けと言うようなものですわ」

「ニャン‼」

 とりあえず鳴いてみる冬華。

「かわい~い、冬ちゃん可愛い」

 夏男がデレる。

「飲むヨーグルト‼」

 冬華が外をビシッと指さす。

「買ってきま~す」

(登校直後にパシリとは、チョロい人だな…)


「校歌だ」

「そうですか、じゃあ今度、機会があればということで」

「うむ…わが校の校歌…覚えているか?」

「いえ、まったく…歌う間もなく、この世の中でしたから」

「私も知らん」

「そうでしたか」

「あらっ、さっき二階堂さんが歌っていたのは校歌ではありませんの?」

「それすら確認する術を持たんのだ…」

「必要性の確認から疑問が湧いちゃいましたね」

「そもそも論ってヤツですわ」

「買ってきましたー‼」

 ンクッ…ンクッ…

 手渡された飲むヨーグルトを、いい音させて飲みだした。

 アゴでクイッと小太郎に金を渡しておけと促す冬華。

「はいはい…160円ね…バイバイマネー…」

 200円を夏男に手渡す。

「なんでオマエから?」

「聞きたいですか?」

「いや…なんとなく聞きたくない、勘なんだが、心が折れそうな予感がする」

「自分の物を夏男さんに渡すのが気持ち悪いそうです」

「くわっぱぁ~」

 変な声で泣き出した夏男。

「こんなもんいるか‼」

 200円を床に叩きつけて部屋を出ていく夏男。

「相変わらずの感受性だな」

「感受性?ですの」

「よし‼ その感性に期待しよう、校歌を作るのだ、私の名が学校史に永遠に刻まれるために‼」


(あぁ…自己顕示欲が駄々洩れてる)


「小太郎‼ 夏男を呼び戻せ‼」




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