第37話 ちぇり~ぶろっさむ

「秋季先輩、一応確認しておきたいのですが?」

 小太郎が生徒会室で『生徒会長専用椅子』に座る秋季に尋ねる。

「ん? この椅子か? 先日とあるセレクトショップでな即買い‼」

 魔王が座るような椅子でご満悦である。

「あっ、それでその恰好なんですか?」

「うむ、この漆黒のマント、裏地は赤だ」

「はい、気のせいか目に沁みます…その赤」

「ハハハ、魔力を帯びているわけじゃないぞ小太郎……えっ? まさか?」

 マントを真剣な眼差しで見つめる秋季。

「大丈夫ですよ、たぶん…いえ、聞きたいのはその椅子でもマントでもないんです」

「ほう、では…靴か? 尖っているだろ?」

「はい、何を目指しているか聞くまでもないくらいに…聞きたいのは卒業のことです」

「卒業……誰の?」

「先輩のです」

「えっ?」

「いや…このまま行くと吾輩10万18歳とか言い出しそうで怖いので」

「白塗りは勘弁だな、吾輩、素顔に欠点が見当たらないのでな」

(もう吾輩って言ってるじゃん、手遅れだったかもしれない)

「10万18歳のまま卒業しませんか?」

「何から? 中二病?」

(病の自覚はもってるんだ、治す気はないみたいだけど)


「あら? 一ノ瀬先輩は卒業なさるのですか?」

「うむ…そういう次期かもしれないな…世が世なら」

「そういうことなら、俺も考えないわけにはいかないな」

 夏男が棘付き皮ジャンで生徒会室の隅でベースを構えていた。

「ソッチはソッチで何してるんだ‼」

 その隣でチョコンとギターを抱えている冬華。

「バンドデビューってことか?」

 秋季が中央に立とうとする。

「まぁ…そうなりますと私は…」

 春奈がキーボードを弾く真似をする。

 4人の視線がジーッと小太郎へ注がれる。

 小さく夏男がアゴでドラム的な場所へ誘導している。

「やりませんよ…」

 小太郎が首を横に振る。

「じゃあ先生が」

 まさかの立花先生の参入である。

「先生どこから?」

「後ろのドアからよ、卒業がどうとか聞こえたので入ってきましたよ」

「…で? まさかのドラマーに?」

「それは冗談です、別の用で来ました。一ノ瀬 秋季 二階堂 夏男……留年です‼」

「留年?」

 秋季が怪訝そうな顔で聞き返す。

「そうです‼」

「ん? 俺もか?」

「もちろんです‼」


「これは驚いたことだ、まさかの留年とは、ハハハ」

「ハハハじゃないですよ、留年したんですよ」

「まぁまぁ小太郎、1学年差が縮んだだけだって」

「何、笑ってんだアンタ‼」

「私は同学年になりますの?」

「そうなるわね」

「これは…これは…はて…ん…新入生歓迎のパーティを主催しなければならないということだな」

 秋季がパンッと扇子を広げる。

『無駄無駄無駄無駄ー‼』真ん中に自信過剰な吸血鬼の顔。


(そう…何を言っても無駄なんだ…)

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