第17話 女子同士の戦いは醜くも美しい 5
一方トレアリィは、天河家のリビングの白い照明の下、暗く座っている銀河の方を見て、顔を曇らせていました。
(ご主人さまが本当に可哀想……。これじゃ、アキト様のなすがままだわ……。一刻も早く、お体をご主人さまにお返ししてあげたい……。そのためには、やれることをしてあげたいけれども…。通信手段も封じられたし、転送もできないし、一体何ができるのか……。
でも)
彼女の心のなかで、熱い何かがゆっくりと動き始めていました。感情のマグマです。
トレアリィはいつの間にか、握りこぶしを作っていました。
(何か、ご主人さまにできることを)
彼女は自然と立ち上がると、歩き出していました。その歩みは確かなものです。
そして銀河のそばへと寄るとひざまずき、彼の手を取りました。
その声は姫に対する忠臣のようでした。
「ご主人さま、そう、落ち込まずに。……ねえ、お部屋はどこですか?」
銀河はしばらく押し黙っていましたが、しばらくして、
「二階、だけど……」
とつぶやくように言いました。
トレアリィは、花が咲いたような笑顔を見せ、
「じゃあ、ちょっと見せていただけませんか。わたし、ご主人さまのお部屋が気になるの」
そう言うと、ちょっと強引な感じで銀河を立ち上がらせると、手をとったまま歩き出しました。地球の重力にはもう慣れた様子で、歩みはスムーズです。
トレアリィ達が、美也子のそばをすり抜けようとした時、それに気がついた彼女は、
「ちょっと、どこへ行くのよ!?」
大きな声で問いかけました。が、突然そばに来たディディに強く肩を叩かれ、
「ここは黙って見送るでやんす……」
と抑えられます。
「よろしくやってくるのよー」
ペリー王妃は、トレアリィに手を振って声援を送ります。
「でも……!」
それでも、美也子は抗議の声を上げますが、
「ああ美也子さん。ご飯ができたところなのでしょう? 稽古でお腹すいちゃったな。ご飯を食べたいですわ。……いい? いつも一緒に食べてるでしょ?」
いきなり、プリシアいや、綾音に声をかけられました。
その顔と声があまりにも威圧的で、いつもの綾音とは思えなかったので、美也子は、
「は、はい……」
思わずそう返すのが、精一杯でした。
彼女は、遠ざかる二人の背中を見ながら、
(銀河……)
そう心のなかでつぶやくことしか、できませんでした。
銀河の、心が、どんどん遠ざかっていく。
そんな風に、美也子には思えて仕方がないのでした……。
*
一方、月軌道上のグライス艦隊のステーションシップは、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていました。
「まだ<シャルンゼナウ>は見つからんのか!?」
「司令官、ステルスフィールドがあちこちで動いていて、そのどれが本命か判別中です……」
「ダミーをいくつも放ったか……」
前面に大きな、地球が映しだされたスクリーンが一つ。
その周辺に様々な情報が映しだされた小さなスクリーン群。
それらが壁に張り付いた円形の明るい指揮所で、司令官と呼ばれる黒い肌の男の周囲を、数十人の男女が、忙しく動きまわったり指示を送ったりしていました。
そこに、一人のオペレーターらしき男から報告が入りました。
「提督。たった今、ディディ三〇三からの送信データが入りました。お二方の生存は確認できております」
その言葉を聞き、黒い肌のたくましい顔と体つきの提督は、拳を握りしめました。
そして、前面のモニターに広がる、青い星をしっかりと見据えて言いました。
「……よし、救出艦隊を再編成。<シャルンゼナウ>を見つけ次第、お二方を保護するのだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます