第9話 王家の秘密 2

 


「なっ、どうして。なぜラグランジュ侯爵家を皆殺しにしたのですか、父上!?」

「それをそなたが聞くのか、ジェレミー。今のプロヴァリーを見よ。この豊かさを享受するためだ」

「でも……だからと言ってっ」

「ラグランジュ侯爵を生かして置いた場合、後から隣国でのわしの謀略を知られたらまずい。それに聖女の功績によって、他国の貴族が我が国で台頭する危険も冒すわけにはいかなかった。もっとも当時は、褒賞も領地も与える余裕はなかったが」


 聖女を得た後は、都合が悪いから、金がないから――。

 そんな理由で上王は、リリアーヌの両親らを殺した上、彼女を騙した。


「リリアーヌは何も知らずに、今までこの国のために尽くしていたのに……」


 その結果、王国が、自分たちが豊かさを得たことを知り、ジェレミーは強い衝撃を受けた。

 リリアーヌへの罪悪感や後悔、知らずに驕っていた自身への羞恥心、やるせなさ、様々な感情が波のように押し寄せてくる。

 

 

「あの娘がこの国に来た頃、そなた達は随分仲睦まじい様子だったが。まあ、愛人を持つなとは言わん。

 だが聖女には価値があり、せっかく手に入れたものを損なってはならぬ。

 災害と戦争によって疲弊していたこの国を、豊かにしたわしの労苦を水泡に帰すようなことは許さぬ。

 そなたもこの国の王ならば、何をなすべきなのかしっかりと考えよ」


 王という立場は、時に非情な決断をしなければならないことを知っている。

 だがジェレミーは、まだ純粋な少年だった時にリリアーヌと出会ったのだ。


 あの時は確かに、孤児となったリリアーヌを気の毒に思ったし、婚約者として良くしてやりたいと考えていたはず。


 国の資源を取り返すための浄化の旅へ、リリアーヌを強引に連れだしたのも、自分たちだけでなく彼女のためにもなると信じていた。

 

 プロヴァリー王国に来たリリアーヌの評判は、うなぎ登りだった。

 ジェレミーからすると、リリアーヌは生まれ持った聖女の力があるだけで人々の尊敬と崇拝を得られる存在だった。


 リリアーヌと結婚して王となり、新たな重責を担うようになると、国内外の累積する問題に対して無力な自分を思い知らされた。


 どれほど頑張っても、聖女と結婚できた幸運な王として、全ての功績はリリアーヌに帰すように感じられる。


 虚しさ、苛立ち、劣等感、嫉妬……次第に負の感情が生まれていく。

 やがて彼女から目を逸らし、逃げるようにエレオニーと関係を持ってしまった。


「わしがリリアーヌを王家に迎え、そなたと婚姻を結ばせたのは対外的な問題とは別に、王の後継に聖女の血を入れる目的もあった。そうすれば、ますます王家は栄え、この先もプロヴァリーは安泰だからな」


 王家の秘密を知ってしまった今、ジェレミーは――。


「父上……リリアーヌの両親を奪い、今もなお騙し続けている罪を、この僕も背負っていかなければならないのですね」

「その通りだ。原因を作ったわしが言うのもなんだが、あの娘にこの事を知られてはならない。あれを不幸にするな、分かったな?」



 話し終えた父子は、皆の待つ野外パーティの会場へ向かった。


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