第16話 過去とはつまり全てを侵食する

博物館というのは何だか不思議な感じがする。

どういう不思議かといえば.....何か色々な.....何とも言えない思い出が詰まっている場所の様な気がするのだ。


まあそれを感じるのは俺だけかもしれないけど.....。

実際、俺としては.....そうだな。

この場所は.....俺の大切な女の子と一緒に来た記憶がある。

近所だったから来れたんだけど、だ。

赤髪を揺らしながら目を輝かせる山城を見つつ俺は化石を見上げる。


「ふあ.....でかいね。この化石」


「そうだな。これTレックスの模型だってよ」


「ふあ.....本当に?」


山城は目をパチパチしながら見上げたり目の前を見たりを繰り返す。

俺達の来ているこの博物館は50年ぐらい歴史がある。

近所でも評判の博物館だ。


県外からも客が来るそうだ。

そんなこの博物館だがこの間改装されてトイレとか猛烈に綺麗になったり今立っている館内が綺麗になった。

俺も昔から知っているがこれは山城と同じ驚愕だ。


「.....詳しいね。長谷川君」


「.....まあ目の前の説明表記を読んだりしたんだけどな。すまん」


「え?何で謝るの。良いじゃないそれならそれで」


「.....そうだな。確かにな」


そうしてクスクス笑っていると。

横から女子の声がしてきて更に声がした。

あ.....、と、だ。


俺は?を浮かべて横を見る。

そこには.....俺を見て目を輝かせる黒髪の長髪の四角い黒縁眼鏡の美少女が立っていて俺に手を振っている。

俺は.....眉を顰めて見つめる。

ってコイツ。


「.....お前?大石?」


「うん。久々だね。大石瑞稀(おおいしみずき)だよ。小学校以来だね」


「どうしたんだ。めっちゃ久々だな。こっちに帰って来たのか?」


「うん。帰って来たの.....ん?あ、デート中だった?」


かなり不愉快そうな顔をする山城。

そりゃそうだろうな。

俺は納得しながら直ぐに大石に告げる。

今すまないけどデート中なんだ、と、だ。


「.....あ、じゃあ久々に会ったし.....メッセージアドレス交換しよ。それだけお願い」


「え.....まあ良いけど。それだけなら。山城良いか」


「.....う、ん」


しかし何だ大石。

久々なのは良いけどいきなりメッセージアドレス交換とか。

俺は困惑しながらそのまま受ける。

そして大石とメッセージアドレスを交換した。


「じゃあね。邪魔しちゃ悪いから」


「.....ああ」


それから。

女子の群れに戻って行く大石。

俺は???を浮かべながらスマホを見る。

山城が俺の袖を掴んだ。

また女の子.....、と不安そうに、だ。


「大丈夫だ。山城。そんな関係性じゃない。アイツは姉御分だったんだ」


「.....そうなの.....いいなあ」


「.....え?何が?」


「.....昔から、小学校時代の長谷川君を知っている。それは.....とても羨ましい」


だからって言っても.....と声を、体を震わせる山城。

私と中島さん以外に振り向かないで、と。

俺の袖を強く握った。

そんな山城の頭をポンポンする。


「.....俺は.....そんな浮気性じゃない」


「.....でも不安」


「.....そうだな.....」


俺は山城の頭を撫でる。

それから.....不安なのは分かる。

でも俺は中島とお前以外は見てないから、と.....過去の過ちを思い出しながら前を見据える。

もう二度と失いたくないから。

余計な事はしない。


「.....?」


「.....あ、いや。何でもない。人間関係の.....最悪なのを思い出してしまって。御免な」


「.....大丈夫?」


心配げな泣きそうな顔をする山城。

俺は頷きながら笑顔を見せる。

発作が起きなくて良かった.....。

あの女の言葉を思い出したし。


『あの子が悪いじゃない』


「.....山根夏菜子。お前だけは死んでも忘れない」


俺をどん底に落とした女。

人生の中で1番の脅威だった。

まだ脅威は続くが。

山根の名前だけは忘れないだろうな。

すると山城が俺の袖を握ってきた。


「.....怖い顔してる」


「.....あ.....すまん。御免な」


「ううん。.....貴方にどんな悩みがあるかは分からないけど.....その痛みは共有したい。.....だからいつか話してね」


「.....」


山城との買い物中なのにな。

この事だけは忘れたくても忘れられない。

そうあの地獄の中学時代を、だ。

人の弱みを握って全てを破壊し尽くした女。

俺は.....ゆっくりと強迫観念を感じる。



俺の豊樹って名前は、豊かに樹が実れ、という意味で名付けられた。

その名前通り俺は.....豊かな樹の様に小学校時代を生活していて何一つとして嫌な事が無かった。


その、あの中学に入学するまでは、だ。

中学校は県立灘島中学。

俺は.....そこで一人の女の子に出会った。

彼女の名前は山島花梨(やましまかりん)。


中学1年から知り合っておりまるでその、引っ越した大石の代わりのお姉ちゃんの様な存在だったのだ。

俺はそんな山島の事を心から信頼していた。

だがそんなある日。

トイレの水に別の女子生徒の頭を突っ込んでいる山島を目撃した。


俺は衝撃を受け、ショックだった。

何故そんな事になっているのか.....後から分かった事だが。

実は山島は俺に惚れていた。

それで.....俺に近付いて来る邪魔な存在を打ち消していたのだ。


俺はその事に心からショックを受けて引き篭もったりした。

だけど勇気を出して学校に行くと.....山島は悪かった、と俺に謝り。

改めて俺は山島と一緒になる事になった。

だが今の世の中だ。

そんな簡単に上手くはいかなかった。


山島は山根という女に弱みを握られたのだ。

反省していたにも関わらず、だ。

そして山根は徹底的に山島を追い詰め。

それから山島は精神が崩壊した。

俺は引っ越して行った山島の件に山根を問い詰める。


だが得られた回答としては。

あの子が悪いんだから、だった。

確かにそうかもしれないが、と思ったが。

クラスに山島にやられた人ばかりで俺の意見は通らなかった。

その為、山根の正義は.....ドロドロになっていく。



山根は山島を徹底的に追い詰めた。

引っ越した先でも、だ。

そして山根は山島を自殺に追いやってしまった。

俺はそのニュースを読んで精神的に不調になってしまい。

学校に行けなくなった。


高校に行けたのは.....竜彦という友人が居たから、だ。

別の中学卒業の時に話す機会のあった山根に聞くと。

自殺に追いやった事を全く悔やまず、ただ笑いながら俺にこう告げた。


『あの子が悪いだけじゃない』


と、だ。

周りも同調する意見ばかりだった。

先生も、だ。

この世界はマジに狂っていると思ってしまった。


第三者委員会も勉学に追い詰められた故の自殺という結果になった。

この事に俺は青ざめる。

コイツは確実且つマジなサイコパスだと思ってこれ以上は絶対に関われないと中学をそのまま転学した。


それが.....俺の3つの悪夢の1だ。

今でも山島の遺影の元には行けない。

疫病神、近付くなと言われているから、だ。


俺は悪くないかもしれない。

だけどきっかけを作ったのは俺だ、と。

そう言われているから、だ。

山島に申し訳無かったと.....今でも反省している。

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