好きを仕事と言われても 〜美容師やめたいコンプレックスいっぱいの私がちょっとキラキラするまでの奮闘記〜

石川こよみ

第1話 妥協と惰性の始まり

「おめでとうございます。ここにいる皆さんは、もう半分夢を叶えています。残りの半分は、当校におまかせください。好きなことを仕事にするために、頑張りましょう!」


 妙にテカテカした肌のツイードスーツの校長が誇らしげに挨拶を締めくくると、会場に集まっている赤や黄色、水色などの様々な髪色と洋服の新入生たちは、濃いメイクをした人でも微かにわかるようにちょっと嬉しそうにニヤッとしたり、頬を紅潮させたり、ソワソワと辺りを見回したりしている。


「みんな、美容師になりたくってここに来てるんだよね。」思わず千枝理ちえりは隣にいた青い髪にピンクのスーツの男の子に話しかけようとする。


 私だけ、私だけだ…。ちょっと呼吸が浅くなりそうな感覚がきて、千枝理はオレンジ色のグロスのついたくちびるをキュッと噛む。人生100年時代とかって言われてる。まだ17歳や18歳なんてほんの始まりでしかないのに、みんなやりたいことって決まってるの…?


 くちびるを噛み締めている千枝理を見て、隣の青い髪の男の子が小声ではなしかけてきた。「気合い充分じゃん、ガンバローね!」

千枝理は条件反射のように、やや曖昧な笑顔を返す。

本当は気合い充分なんかじゃないんだけど、そう見えるならそれでいい。


校長挨拶が終わって、美容学校の入学式はつつがなく終了した。オリエンテーションでは、教材の説明等があり、皆、嬉しそうにハサミやクランプ、ロットなどを見てワーキャー言っている。私も周りに合わせてそれなりに楽しそうな雰囲気を出しながら話を聞いていた。実際、この時はちょっとドキドキしたのも事実。


そう、ここから私の妥協と惰性の美容師への道が始まった。

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