β023 私はベータ
綾織巫女とCMAβ巫女アイドルの見事な連携で、舞が美しく続く。
綾織志惟真さんの動きにCMAβが同調しているのか。
3D図鑑で見た、素晴らしき
エーデルワイスをかざして、太陽と月の力も手に入れているように見えるが。
きりっとした舞で太陽をさす。
母性のような舞で大地をさす。
凛とした舞で月をさす。
甘える子のような舞で抱かれたコロニーをさす。
沖悠飛くんもこの舞を止めてはいけないこと位分かっているようで、黙って見ている。
コロニー、エーデルワイスの大きな六角形のゲートに、白いエーデルワイスをかざすと、門扉から着信があった。
<こちらは、エーデルワイスのマザーコンピュータです。綾織志惟真、葛葉創、沖悠飛のゲストをお招きいたします。ただし、タイムリミットはエーデルワイス時刻の三時間です>
随分と賢いマザーコンピュータだな。
自動では開いてくれなかったので、僕一人で、とっても重たい門扉を開けた。
沖悠飛くんは、腰抜けかとちょおーっとだけ言いたかった。
さて、どんな街だろうか?
門扉の奥は、長い長い黒いチューブだ。
この道を僕、綾織さん、沖悠飛くんの順で歩む。
先程の暑いエレジーと違い、涼しいまでは行かないが、僕の国民服はともあれ、綾織さんのひらひらした服では寒そうだ。
僕は、汗を掻いたので、綾織さんに上着を貸したら嫌われるだろうな……。
いや、いい人だから、大丈夫かな?
独り言を友に僕と二人は歩んだ。
◇◇◇
ふああ……。
僕は、船をこいだ。
立ちながら眠くて仕方がない。
僕の記憶は走馬灯のように流れた。
――いつものトリップする音、とろとろとろと、耳に心地よいせせらぎのような音が流れ、僕の意識は、現実を見失う。
僕は、当たり前のように空中庭園国にいた。
勤め先の『マリッジ◎マリッジ』では、何の疑問もなく顧客のマッチング相手用ホログラム画像をそれなりによく見えるように、輝度を変えて肌艶をよくしたり、霜の降る髪にはカラーリングをして華やかにしたり、お好みで瞳にハートの輝きも入れたりした。
今、思えば、肌の色を区別以上に弄った方もいる。
生まれた時の色を捨てて、最高ランクと呼ばれるピンキーカラーにして欲しいとの強い要望にもお応えした。
その方は、最低ランクとも呼ばれるホワイトカラーのせいで自分はマッチングされないと嘆いていた。
僕からすれば、自分の生い立ちを表すのだから、肌のランクづけは馬鹿げているとは思っていたけれども。
それぞれに事情もある。
――この偽造に手を入れ過ぎていたことに、僕は、今まで甘くみていた『背徳』を覚える。
◇◇◇
僕の空中庭園国での自分について振り返る。
初めて出会ったCMAβは、熱気のあるライブにて、素敵な巫女装束のアイドルの歌あり舞ありだったので、僕の胸をわしづかみにされた。
そのさなかに、何故か僕を指名してくれた。
「葛葉創くん。さあ、ステージに上がって――」
忘れられない台詞だ。
それから、綾織さんから沖悠飛くんを探す電話があって、僕がマルクウへ行けば、CMA157から息子の悠飛くんを探して欲しい旨を聞いた。
だが、逞しいと思っていた沖悠飛くんは、結構、体力も精神力のないだけの方で、どうしても綾織さんにプロポーズしたいのは、神器の白いエーデルワイスが欲しかったのだろうか?
◇◇◇
僕が考える癖でぼーっとでもしていたのか。
質問が突然に飛んで来た。
綾織さんからだ。
「巫女装束は、どうして、ウェアラブルコンピュータになっていると思うの? クズハツクル様」
僕は、ちょいと考えただけで、つらつらと話ができた。
「綾織さん。つまりは、志惟真が巫女装束をまとうと、ホログラムのCMAβが現れる。その仕組みの為だ。綾織さんが舞うことで、白い服に赤がさして、まるで巫女装束のように見えた時が、ウェアラブルコンピュータのスイッチが入る時なのだろう」
CMAβについての仮説が一つある。
「何故、本体の綾織志惟真さんとホログラムのCMAβが必要なのか考えてみだのだが。それには、丸山喜一医師が関わっていると思う。丸山喜一とCMAβを関連付けて考えたことがあったな。CMAβは、
綾織さんは、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「はい。CMA達と丸山喜一は全て子と親の関係にあります」
あの闇医者、丸山喜一はやはり悪事を働いていたのか。
「分かった。βは。βは、試用版と言う意味のネーミングではないのかい? だって、ナンバーがないから」
綾織さんが、こくりとうなずく。
CMAβも同調している。
まるで、パペットのように。
形だけではない。
性格はちょっと違っても、心は繋がっている。
姉妹だと思えばいいのかな?
「でも、CMAβ。βが一番、私に近い。性格は少し違うけれども。そして、人にも近い。恵まれた人型AIだと思います」
綾織さんの言葉に、CMAβは俯いて、目頭を押さえる。
不思議なものだ。
AIに涙などないのに。
「ええ……。試用のβ版だから」
顔を上げて呟く。
「私は、ベータ」
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