【声劇台本】プリマの天使(1:1)

アダツ

プリマの天使

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注意書き

・《》内は場面説明です。文章は読まず、BGM・SE等の指標としてください。

・同様に、()内も演技の指標としてください。

・人物名+Nはナレーションです。


登場人物

・常陸屋 美琴(♀)ひたちや みこと:18歳。高校演劇部部長。暴力女。

・七瀬 健斗(♂)ななせ けんと:16歳。高校演劇部部員。振り回され男。


-----【コピペ用】-----

プリマの天使

作者:アダツ


常陸屋 美琴♀:

七瀬 健斗♂:

-------------------------


ここから本編↓

____________________________


美琴:私、ずっと、天使に憧れてたの。


(間)


健斗:えー……と、ついに狂いました?


美琴:ちょっと、ついにって何。前々から怪しかったみたいな言い方しないでよ。


健斗:そう言ってるんですが――痛ってぇ!?(美琴みことがローキックを喰らわす) なにするんですか!


美琴:ふんっ。


健斗:この暴力女……。


美琴:劇のこと言ってるのよ、演劇。小学校の頃の話なんだけどね。


健斗:いまする話ですか。


美琴:いいから聞きなさい。小学校の頃、学芸発表会が楽しみで、すっごい練習もして。……でも、体調不良で出られなかったんだあ。天使の役、だったんだけどね。


健斗:意外です。美琴みこと先輩、てっきりそういう場合は悪魔役かと――あ痛ァ!(美琴が肩パンを喰らわす)


美琴:健斗けんと、アンタ最近また調子に乗るようになってきたわね。


健斗:いやあさすがに一年くらい続けてると慣れてきたというか。これも努力の賜物です。


美琴:何の努力なのよ……まいいや。それで中学でも天使が出る演劇があったんだけど、選ばれなくてね……。


健斗:そこで、悪魔の役に選ばれたってわけですねー! ……っく!(身構える健斗) …………ん?


美琴:……はぁ(ため息)。


健斗:あ、あれ? 当たっちゃい……ましたかね? あはは。


美琴:だから、私、ここで天使の役をやってみたかったのよ。昔からの願いなの。


健斗:そうだったんですね……。でも……。


美琴:うん。自治体じちたい主催で予定されていたクリスマス会は中止。この体育館で演じるはずだった劇も……。


健斗:先輩……。


美琴:ま、もう決まったこと! ちゃっちゃと次のイベントに気持ち切り替えないとねー。さあ、それで最後の荷物でしょ? 行くわよ。(そそくさと体育館から出ていく)


健斗:次って……ちょっと先輩! ……ったく。


(間)


健斗:……俺が、なんとかしてみせますよ。




『プリマの天使』





   * * *



健斗N:常陸屋ひたちや美琴みこと先輩の傍若無人ぼうじゃくぶじんさは、校内でも有名だ。

   さらに、劇の幽霊に取りかれた劇中毒の人。あるときは学校の屋上でゲリラ的に、あるときは休み時間の他クラスへ飛び入りで劇をし始める。それを面白く思う人間もいれば、そうでない者も。教師生徒問わず、そういう変人としてこの学校では名が売れてしまっている。

   そんな彼女の起こす台風に巻き込まれてしまったのが俺、七瀬ななせ健斗けんとだ。


(間)


健斗:先輩、何してるんです?


美琴:見て分かんないー?


健斗:わかりませんよ、先輩の考えてることなんて。もしかして新しい衣装です?


美琴:わかってくれてるぅ~! これはね、今度中庭で披露するやつ! もちろん突発でね!


健斗:中庭って……この寒い時期にですか。そんな薄い衣装いしょう着たら凍え死にますし、人も集まんないでしょう。


美琴:そ・こ・で! あなたの役目よ、交渉人・健斗。放送部のひとたちを買収して、広報的な音源を流して欲しいのよ。


健斗:こんなことばっか……。最近俺、なんて言われてるか知ってます? 交渉人なんてキザな二つ名じゃねえっすよ。『疫病神やくびょうがみ』っすよ、『疫病神』!!


美琴:神様なんて、大袈裟ねぇ。


健斗:いやいやいやいや! 変なもん持ち込んでくるって、あいつに関わるとロクなことないって。それって全部、先輩のパシリでやってるヤツですよ!


美琴:そのわりには、ちゃんとこなしてくれるじゃん。そこまで信用を下げてなお、ね。さっすが交渉人~。


健斗:はぁー……。


美琴:これ、音源ね。最低2回は流すよーに。よろぴく!


健斗:……先輩。


美琴:ん?


健斗:こんな音源でアピールしなくても、先輩の演技力なら、人集まりますよ。知名度も。


美琴:何よ、さっきと言ってること真反対じゃん。


健斗:ええ、さっきは嘘つきました。どうにかやめさせて、ついでに俺もサボれるように。


美琴:(笑って)正直者ね。


健斗:ええ、なので、正直に言います。せっかくあれだけの芝居ができるのに、こんな……ふざけたことばかり……。


美琴:ふざけてなんかないわよ。みんなも楽しんでくれてるじゃん?


健斗:俺ら生徒にはそうかもしれませんが、たいていの先生方には不評です。面倒事を持ち込む問題児だって。先輩、そんなんでこの先大丈夫なんですか。


美琴:大丈夫ダイジョーブ。受験勉強もちゃんと毎日やってるしー。


健斗:将来、やりたいことあるんじゃないですか?


美琴:いま、やりたいことしてんのよ。


健斗:これがですか……。


美琴:健斗、やりたいことは人に決められるもんじゃないのよ?


健斗:……わかってますよ。もったいないなって勝手ながら思っただけです。もっと……もっと、正当に評価されるべきだって。


美琴:(笑って)買いかぶりすぎ。あのね、私はやりたいことをやってんだから、本人が満足してるんだからそれでいいでしょ?


健斗:じゃあ……じゃあ! なんでクリスマスの劇は諦めるんです!?


美琴:……っ。


健斗:俺、すごく楽しみにしてました。ちゃんとした手続きで、ちゃんとした舞台で、先輩の芝居をみんなに見てもらえるって。先輩も気合い入ってて、これはきっといい舞台になるって確信して……。


美琴:なにアンタ、みんなに私の自慢をしたいワケ? 私、そんなこと頼んだっけ。


健斗:い、いや……。(美琴の迫力に、物怖じする健斗)


美琴:ねちっこい男は嫌われるって相場は決まってんのよ。ハイハイ早く行った!


(間)


健斗N:そうして先輩は作業に戻ってしまった。

    俺は演劇部に所属していながら、劇はしない。部員は総員2名。俺と、先輩だけ。もはや部としての体裁ていさいさえ保っていない。

    だから、先輩が用意している衣装は自分の分、一着だけ。

    いままでも、これからも、彼女は孤独を背負っている。

    作業にいそしむその背中が、この日は一段と寂しさに溺れているように感じた。

    俺は……。


    俺はその背中が、助けを求めているように思えたんだ。



* * *



美琴N:演題は『ろうの天使』という、少しファンタジーチックな一人演劇だ。

    身体が蝋でできた天使の少女の話だ。彼女は神のお告げを村の人たちに伝えるも不幸ばかり与えてしまい、村人たちの信用を失ってしまう。ある日、村の危機を伝えようとするも、村人たちは彼女の言葉を信じようとせず、村は滅んでしまう――という、ありていに言えばオオカミ少年の天使バージョンだ。

    25日のクリスマスに催されるはずだったイベントで、私が演じる予定だった劇。それも、出資者絡みの関係で中止となり、劇はおじゃんになったはず。

    それがなぜ――


(間)


美琴:なに……やってんのよ。


健斗:あ、先輩。おはようございます。


美琴:こんなとこ呼び出して、何の準備をしてるのよ。


健斗:わかりません? 『ろうの天使』の準備ですよ。


美琴:それは、中止だって……。


健斗:ええ、なので自主開催です。運良くこの体育館も借りれたし、資機材も……。


美琴:……あの人たちは……?


健斗:あそこで音響と照明チェックしてる奴らですか。頼み込んだら快諾かいだくしてくれましたよ。こころよく……ね。


美琴:それに……。


健斗:ああ、先生方にも来てもらってます。学生だけだとココ貸し出してくれなくて。部活動のひとつということで。


美琴:よく許可貰えたわね……アンタよく、先生には私の劇は不評って言ってなかった?


健斗:いつも迷惑かけるやり方するからですよ(笑) 正式な活動であれば特には言われません。それでも気に入らない先生もいるので、多少俺が口の聞きやすい人を選んでますけどね。


美琴:……どうしてもアンタは、私に劇をやらせたいみたいね?


健斗:デートって騙して予定空けてもらって、すみません。


美琴:ちょっと! その言い方だと私が期待してたみたいになるでしょ!


健斗:違うんですか? その格好、とても綺麗ですよ。似合ってます。


美琴:うっ……茶化すな……!


健斗:これが終わったらデート、でどうですか? ……っよし、これでこの固定はオッケー。ふう……。


美琴:どうしてここまでするのよ……。


健斗:単純に観たいからですよ、劇を。美琴先輩のいちファンなんでね、俺は。


美琴:それでも……。


健斗:しつこいですよ(笑) 僕は、僕のやりたいことをやっています。悪いですか?


美琴:……ふふっ(吹き出す)

   悪いわよ。結局、劇をするのは私じゃない。すんごい押し付け。


健斗:なんとでも。逃しませんよ。


美琴:逃げるかって――のっ!(健斗の背中を叩く)


健斗:あいたァ!?


美琴:やってやろうじゃない。――衣装はどこ!


* * *


健斗N:事前に予定していた劇だったため、必要な道具はほぼ揃っていた。あとは当日に機材の設置や、音響、照明、舞台整理を行うスタッフのみだった。俺はそこを埋めただけ。協力してくれたみんなのおかげ。俺はたいしたことはしていない。


美琴N:たいしたことはしていない――なんて、つまらないことを思ってるんだろうね、あの後輩は。いつも、力をくれるのは健斗だった。いつもうだうだ文句を垂れながらも私に協力してくれて、何度も助けてくれた。


健斗N:助けてもらったのは俺の方だった。あの日、家庭内暴力と成績不振で俺は絶望の中にいた。たどり着いた学校の屋上で、劇の練習をしている先輩に出会って、本当に救われたんだ。


美琴N:あの日の私は、今思えばスランプだったんだと思う。自分を客観的にみれてなくて、何がしたいのかわからなくて。練習に巻き込んでしまって申し訳なかったけど、すごく助けられたんだ。


健斗N:俺が返せるのは”サポートこれ”くらいだけど。


美琴N:私が返せるのは”これ”くらいだけど。


健斗N:感謝の気持ちを。


美琴N:精一杯届けたい。



* * *



健斗N:館内すべての照明が落ち――1台のスポットライトが彼女を照らす。


美琴:『――神様、お告げをくださいませ』


健斗N:美琴先輩は毅然きぜんとして舞台の中央に立っていた。声色こわいろは優しく、すでに役に入っていた。

    観客は決して多くはないが、俺なりに学校中を駆け回って呼び込んだにしては上出来だと思う。


美琴:『この村に、幸あらんことを』


健斗N:村人の声は、事前に生徒の協力で収録してある録音を流す。あとは照明を当て方やBGMで、その場の雰囲気作りに尽力していく。


美琴:『そんなっ……、私は、私は! ただ神様のお告げをお伝えしているだけ!』


美琴:『信じてお願い! このままだと……この村に大きな危機が訪れてしまうの!』


美琴:『どうして……どうしてみんな、信じてくれないの……』


健斗N:物語は次第にクライマックスに近づいていく。俺は主に音響の指示を出し、先輩の演技をサポートする。次は――天使の翼が、引き千切れる音だ。


美琴:『やめて……みんな、あ、ああ…………あああああああ!!!!』


健斗N:村は滅び、生き残った村人たちが逆上して、彼女の蝋の翼をもぎ取ってしまう。天の世界へ帰る手段を失った彼女は、唯一力が倍増する降誕祭の日に天界へ通信を試みる。


美琴:『神様……私は、間違っていたのでしょうか』


健斗N:返答はあった。しかし、それは残酷なものだった。


美琴:『村のひとたちは……大罪人? 私は、その処罰のために……?』


健斗N:それはまるで悪魔の所業。神からのお告げは、村人たちにとって不幸をもたらすのは当然だった。


美琴:『私は……私は、もう……』


健斗N:神にも裏切られ、何を信じればいいのか。……しかし、彼女の心を支えたのは、彼女を責めたはずの村人たちの生きざまだった。


美琴:『そうだ……牛いのアンナだって言ってた。大切なのは、自分を信じることだって。教会の跡取りのジャンも、最後まで中立の立場でいてくれた……! 私は私のやってきたことが信用ならないけれど――でも信じたい』


健斗N:そうして立ち直った彼女は、村を救うために奔走することになる。

    その時、背中に本物の天使の翼が生えたという――のだが。


美琴:……?


健斗:……しまった……!


健斗N:最後の最後で俺はミスを犯した。当初の打ち合わせでは、ここで天使の翼が生えた衣装に着替える手筈だが……その衣装が見当たらない。


健斗:どこいった!? ……ちくしょう、こういうところで俺は……っ。


美琴:…………。


健斗N:先輩は、観客側には背を向け、裏方で慌てている俺に目くばせした。そして口の動きだけでこう言った――『大丈夫、翼なんかいらないよ』

    俺は、開いた口が塞がらなかった。


美琴:『――ひとはどこまで、他人を信じられるのでしょうか?』


美琴:『答えはわかりません。みんなきっとどこかで他人を疑っているし、行き過ぎた信仰は依存と同じだという人もいます』


美琴:『だから私は思うのです。大切なのは、互いに信じあうことなのだと。それは苦難の道ですが、きっと、ともに歩んでいけるひとが見つかるはずです』


健斗N:そのとき、紛れもなく、先輩が本物の天使のように見えたのだ。



* * *



健斗N:幕が閉じ、まばらな拍手が会場を包んだ。

    一旦舞台上から退いた先輩は、照れくさそうな表情を浮かべながら再度舞台上に姿を現す。


美琴:ご観劇の皆様、この寒いなか足を運んで観に来ていただきありがとうございます。協力してくれたスタッフのみんなもありがとう。少しでも楽しんでもらえたら、私は嬉しいです。


健斗:ああ……すごく楽しめたよ。


美琴:それと、後輩!


健斗:……うん。


美琴:ありがとう。最高のクリスマスだよ。


健斗:うん。メリークリスマス、先輩。








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【声劇台本】プリマの天使(1:1) アダツ @jitenten_1503

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