男子高校生の日常(仮)タイトルは後ほど
翡翠
新学期
入学式
俺は、今日から高校生。これから青春を満喫して前代未聞の素晴らしい思い出を1ページずつ刻んでいこう…なんて思ってるやつなんているのだろうか。
そんな漫画みたいな主人公気取りの人なんているはずなんて無かろう。
そもそも、そんな人がいたらこの年になってまでいつまで頭の中がお花畑でいるのだろうか。
そんな人がいたら一度お目にかかりたいものだ。
しかし、そんな楽しそうなことがまっているなんて夢のまた夢だ。
これから通う高校は、知識や判断力、思考力、忍耐力を磨き上げ、あの熱き戦いに敗北してきた物が集る高校、いわゆる滑り止め校だ。
そんな人生の抜け殻になりかけそうな戦死者共の学校生活なんて、きっと楽しいはずもない。更に男子校だ。
これは偏見すぎるかもしれないが、むさ苦しい獣共で賑わった高校に違いない。俺は、考えるだけで頭が痛くなる。
だが、この敗北から挽回するために、これからは有名大学への進学を目指して頑張るのだ。
あのときの自分の番号がなかった日のことを思い出すだけで憂鬱だ。
まだ人生の折り返し地点にも立っていないが、初めて人生のレールから脱線した気分を味わった。
そんなことを心のなかでつぶやきながら、俺は、市営地下鉄の改札に定期を通した。俺の通学路は、家から徒歩12分ほど歩いて市営地下鉄に乗り、15分ほどで最寄り駅に到着し、更に12分ほど歩いたところで学校に到着する。
一般的には近い距離と言えるだろう。
しかし、俺の通っていた中学校は家の目の前にあったため、通学時間が30秒だったのだ。
それと比べてしまうと以前より一時間早く行動しなければならないので、朝起きるのも辛く、歩くのも汗をかいてしまい本当に辛い。
ワイシャツの首元の襟をパタパタとばたつかせ涼しい風を胸元に取り込みながらホームで電車をまった。
電車に乗ってからは単語帳とにらめっこして最寄り駅につくまで、暇をつぶした。
駅につくと同じ高校制服を着た学生たちが駅を出て信号をまっていた。
見慣れない風景に見慣れない制服を着た俺は、これからは、中学生ではなく高校生なんだということを実感させられ、なんだか不思議な気持ちがした。
肩身を狭くして通学路を歩いていると、俺の兄の友達が後ろから追いかけてきた。俺の兄の名は北上 翔太。双子で15分差だ。
一緒に熱き戦いから落ちてきた戦死者として同じ高校に入学することになった。そしてその友達は安倍 智彦くんというらしく、安倍くんと呼ばれている。
「おい、久しぶり。」
後ろから追いかけてきた安倍くんが翔太の頭を叩いて挨拶してきた。
「いった。だれだよ、あ、阿部か、おはよう。」
「お、お前が翔吾か、兄から色々聞いてるぜ、よろしくな。」
「よ、よろしく。」
どうやら、兄の友達の安倍くんも同じ学校に入学するらしい、気の強そうな喋り方に少し怯えてしまった。
「なあ、今日一緒に帰ろうぜ。」
「お、おう。」
兄の翔太は嫌そうな顔で、返事を返していた。もしかしたら、あまり仲は良くないのだろうか。
学校につくと、正門をくぐり抜けた先にクラスが書かれた、掲示板があった。俺は、8組で翔太が4組で安倍くんは5組だったらしい。
そして、この学校では校舎が八棟に別れている。俺は第6校舎で翔太と安倍くんは第4校舎だったためその場で挨拶を交わして、自分のクラスへ向かった。クラスに入ると、まるで、教室が凍りついてるかのように静かだった。
中学校の入学式の日を思い出してしまう。俺も人見知りなので、そんな凍りついた空気でしゃべる余裕もない。
すぐさま自分の席を確認し、荷物をおいて席についた。チャイムにより登校厳守時刻の八時三十五分であることを知らされた。
チャイムがなった数秒後に高身長でメガネを掛けたスーツ姿の人が教室に入ってきた。どうやら今年の担任になる先生らしい。
今日が初日で日直制度がないため先生の号令により朝の挨拶をした。腰を下ろすと、先生が話し始めた。
「昨年一年生の担任をしていて、今年も一年生の担任を持つことになりました。太川 洋彰といいます。よろしくお願いします。まあ、高校生活はですね、本当に短く感じられる三年間だと思うので、悔いのないように一年間過ごしてほしいと思います。
では、もうそろそろ始業式の時間になりますので、廊下で番号順で出席番号1番から順に並んで21番が一番うしろで折り返して一番の隣に二十二番が並んでその後ろの番号は二十二番の後ろに続いて並んでください。」
俺のクラスの人たちは、指示通りに静かに並んで体育館へ向かった。
入学式は、一クラスずつ先生が交代しながら、生徒一人ひとりの名前が呼ばれた。
その後に、職員の紹介が行われひとりひとり自己紹介をしていたが、そんなのを聞いている人なんているのだろうかと思いながら、ただただ呆然と照明を眺めていた。
その後に新入生代表と生徒会長からの言葉があり、最後に校長先生の話で、入学式の幕を閉じた。
教室に戻ると、これからの予定や授業の流れなどについて説明があり、残った時間に自己紹介の時間が設けられた。
まず出席番号1番で僕の隣の席に座っている青野 和泉くんが呼ばれ席を立ち自己紹介を始めた。
「えっと、青野和泉です。よろしくお願いします。出身は早間中学で、部活はバレー部に入ろうか迷ってるところです。よろしくお願いします。」
青野くんが頭を下げ、拍手の後に席に腰を下ろした。
「じゃあ、今みたいな感じで2番の安室から順に…」
太川先生の言葉に続いて、青野くんの後ろに座っていた人が席を立ち続けて自己紹介を始めた。
「はい、西岡中学校から来ました。安室 優です。よろしくお願いします。部活はまだ決めてません。はい、よろしくお願いします。」
そして、六番目に俺の番が来た。
俺は思考の邪魔をする胸の鼓動を抑えながら席を立った。
「ええ…と、東山中学校から来ました。 北上 翔吾です。…部活はプログラミングに入るつもりです。…えと、1年間よろしくお願いします。」
俺は、全く知らない見たことも無い人の前で無事話すことが出来た。
もともと中学校の時に生徒会役員の図書委員長として図書委員会をまとめてきた経験があり、話すことは得意のはずが、話すことができただけで満足していることに気づいた俺は、春休みの間で随分と思考力が落ちていると実感するのと同時に悔しい気持ちが込み上げてきた。
過ぎたことを悔やんでいる場合ではない。自己紹介が平凡すぎたので友達もしっかり作らなければならない。ただでさえ楽しくなさそうな学校生活が、本当に酷いものになってしまう。
それにしても、驚いたものだ。男子校というのは、もっと活気があってむさ苦しい獣共が集る動物園だと思っていたが、そうでも無いみたいだ。それに、この教室に居る半分は俺と同じオタクの匂いがする。
もしかすると、男子校とは自分が思っていたのと違うのかもしれない。という疑問に以前とはちがう不安と少しの安心感を覚えた。
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