第三十八話 幼馴染
芽依が俺のこと好きって言ったときは信じられなかった。俺にしてきたことはすべて幼馴染として家族みたいな感じでやったことだって思ってた。
だけど、芽依に好きって言われて、俺が抑えていたなにかが爆発した。そう、俺も芽依が好きだった。多分、小さい時から、芽依のことが好きだった。でも、芽依は俺のことを幼馴染としか見ていないのじゃないかという不安が恐怖となり、俺はこの気持ちを抑えつけた。
今なら訂正する必要があるかもしれない。俺の初恋は芽依だ。芽依に言った通り、俺は芽依が好きだ。異性として好きだ。
芽依から目を背けたから結月を好きになったわけじゃないが、芽依とちゃんと向き合っていたら、俺らの関係は変わっていたのかもしれない。
芽依は私のどこが好きなのかって聞いてきて、色々と浮かんだことがあった。小さいときに池に突き飛ばされて、芽依は申し訳なさそうに俺を助けるために池に入ろうとした。でも、俺は芽依まで濡れてほしくないから、急いで立ち上がって、芽依を止めた。
次の日に風邪ひいたら、芽依が幼稚園を休んで、ずっと俺の部屋にいた。幼稚園を休んでも、ちっちゃい芽依になにもできないけど、そばにいてくれただけでもうれしかった。
いつぞやの花火大会のあと、芽依がこけて、足をくじいたことがあった。俺はそんな歩けない芽依をおんぶしたら、なんか太ももやらパンツの感触が伝わってきて、ドキドキした。
ほかにもたくさん一緒にいた場所があって、水族館、山のロープウェイ、家族同行がほとんどだったけど、芽依がいるのがすごくうれしかった。
中学校の時はもちろん、最初姫宮を雇った時も、芽依はすごく心配してくれた。たまに、このまま芽依と結婚するのではないかと思ったときがある。でも、芽依がその気じゃなかったらと考えたら我に返って自分の妄想をかき消した。
あと、芽依はかわいくて、綺麗だ。両側の髪が耳に垂れてて、すごく愛らしかった。姫宮より少し背が低いけど、胸はすごく大きい……
「胸も大きくなったし」
思わず、これも芽依に言ってしまった。バカって言われたけど、俺にも言い分がある。
「だって、小学校までたまに一緒に風呂に入ってたじゃん。こんなに大きくなるとは思わなかったんだよ」
「ぐっ、いっきの変態、えっち、どこ見てんのだよ!」
「隅々まで」
芽依の反応が可愛すぎて、つい本音を全部ぶちまけてしまった。
「まさかあそこも……?」
「あそこも」
「もう、死にたいよ!」
「小学校までのことだから気にする必要ないじゃない?」
「いっき、ませすぎ!」
「いや、そんな目で見てたわけじゃないから」
「それでも、女の子の大事なところを……いやん!」
「芽依だって俺の見たじゃん。お相子だね」
「価値が違うんだよ!」
価値ってなに? それって男女差別だと思うんだが、違うの?
「もう結婚してよ!」
「えっ?」
「ほら、私の大事なところはいっきに見られたし、私も男のそれはいっきのしか見たことないし、だから責任とって結婚してよ!」
「小学校の話でしょう?」
「そうだけど、いっきのしか見たことないのは今でも同じだもん」
「ごめん、俺が悪かった。この話はやめようか」
芽依の気持ちが少し分かった気がする。こう何度もあそこの話をされると恥ずかしくてたまったもんじゃない。
「ううっ、自分から言い出したのに……」
「ごもっとも……」
「ねえ、いっき、それって私たちは両想いってこと?」
芽依は真っ赤になりながらも少し期待な目線を向けてくれる。
「ごめん、俺には姫宮がいるし……」
「それって罰ゲームじゃないの?」
「……」
「もう違ったの……?」
芽依はなんか勘ぐって、おびえた感じで尋ねてきた。
芽依になら、ほんとの気持ちを伝えるべきなんだろう。なんせ、芽依は彼女の気持ちを全部伝えてくれたから。
「姫宮のことが好きになった」
「……」
「姫宮は俺のことで遊んでるかもしれないけど、やはり頑張ってみたいと思う」
「……」
芽依の目から涙が溢れてきて、真っ赤になった頬を湿らせた。
「ごめん、芽依、姫宮のこと、本気で好きになったみたい」
「私だっていっきのことが本気だよ!」
「分かってる……」
「いっきは頑張るって言ったよな」
「うん」
「なら、私も頑張る!」
「えっ?」
「頑張っていっきと付き合うの!」
「それってつらくないの?」
「いっきだって姫宮さんとどうなるか分からないまま頑張ろうとしてるじゃん。なら私にもその権利があると思うよ」
俺には言い返せなかった。芽依の言う通りだ。俺だって頑張ったらうまくいく保障がないのに、頑張ってもうまくいかなかったらつらくないの? って芽依に聞いたのは野暮だったな。
「私は絶対いっきと結婚するんだから!」
「……」
「いっぱい子供が出来て、いっきに子育て手伝ってもらうんだから!」
「うん」
いつの間にか、芽依は笑っていた。そして、俺も笑っている。
「姫宮さんに振られたらすぐこっち来てよ!」
「うん?」
「いっきの大好きな私のおっぱい見せてあげるよ!」
「げっ、それを武器にしていいの?」
「
「そ、そうだね……」
芽依の衝撃発言に気圧されて、俺はどもった。にしても、芽依の胸を想像してしまうのは男の性なんだろうか。悲しい本能だ……
「私の変化ばかり見られるのも不公平だし、そのときはいっきがどれくらい大きくなったのかも確かめてやる!」
「芽依」
「なに?」
「へんなバイトしないでよね……」
「しないわ!」
ふと俺は股間に手を当てて、本能的に守ろうとしていた。
俺は芽依の強烈な宣戦布告を受けて、別の意味で芽依のことを心配するようになった。
「なあ、芽依、一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「芽依ってたくさんの男子に告られてるみたいだし、なんで俺に教えなかったの?」
「いっきに嫌な女だと思われたくないから」
「どういうこと?」
「告ってくることを言うと、自慢してるみたいで、いっきに嫌な女だと思われるんじゃないかって。私がモテるっていっきに知られたらなんか距離置かれそうで怖かった」
「そうなんだ」
芽依に告ってきた男子たちがさっきの芽依の爆弾発言を聞いたら幻滅しないかな。女の子って好きな男の子に対してこんなに積極的になれるのだな。
「覚悟しといてよね! いっき」
「はい」
「私はいっきをあきらめないから! やっと気持ちを伝えられたから!」
「俺も頑張るよ」
「勝負だね! 私がいっきを先に振り向かせるか、いっきが姫宮さんを先に振り向かせるかだね」
「うん」
「いっきとこんな話ができる日が来るなんて思わなかったわ」
「俺もだよ」
「じゃ、おやすみ!」
「おやすみ」
「ちょっと待って!」
「えっ?」
小石が俺の額と接触して、ジーンとした痛みが走った。
「幼馴染を泣かせた罰だ! ベーだ!」
芽依は舌を出して、そっと窓を閉じた。おやすみ、芽依。
絆創膏を使おうか……
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