日給10円で俺の彼女にならないか 〜『魔王』の異名を持つ学校一の美少女を彼女として雇ってしまった〜

エリザベス

第一章

第一話 最低の告白から始まった

「ね、ゲームしない?」


「負けたやつがさ、姫宮に告白するってのはどうだい?」


「あっ、でも告白するだけじゃおもんないかも」


「じゃ、最低のセリフで告白するのはどう?」


「なにそれ?」


「これでもかってくらいのクズセリフで告白するんだよ。例えば、俺の女になれやとか?」


「いいね! 面白そう」


「あっ、今俺が言ったやつはなしな。告白の内容は自分で考えるんだよ」


 はるととれんが俺に絡んできた。また悪だくみしてるな。


「なになに? 面白い話のにおいがする~」


 葵も面白そうに俺らに混ざってきた。どんな鼻してるんだろう。無駄に明るいせいか、こいつは男子とも女子とも気さくに話したり仲良くしている。俺からしたらただのうるさいやつだけどな。


「ああ、ゲームして負けたやつが姫宮に最低のセリフで告白をするって話だよ」


 れんが得意げに答えた。よほど自分のアイディアが気に入ったみたい。


「なにそれ、めっちゃ面白いじゃん! で、ゲームってなにするの?」


「ああ、それは考えてある。杏子のカップを当てるってのはどうだ?」


 はるともまた自信満々に女子に失礼極まりないことを言い出した。


「へえ」


 葵は少し考え込んで、邪悪な笑みを浮かべた。


「じゃ、私が審査員やるわ~」


「そんなら、俺とれんといつきの三人がプレイヤーね」


「ったく、分かったよ、参加すればいいでしょう」


 俺はやれやれとゲームに参加した。


 葵ははるととれんの耳でごにょごにょと何か話して、それから「じゃ、男子の諸君よ、当ててみるがいい」とラスボスみたいにゲームの開始を宣言した。


「「C!」」


「B!」


 えっ、C? そんなにないでしょう。こりゃ俺の勝ちだな。


「って、結果はどうやって分かるの?」


「私に任せな! クラス全員の女子のサイズ把握してるから」


 こいつほんとに女か? おじさんより変態だよ。


「では、敗者を発表しま~す」


 葵は手を挙げて、次の瞬間にそれを振り下ろして俺を指さした。


「いつきで~す!」


 はめられた……こいつ、はるととれんに杏子のカップこっそり教えやがったな!


「おい、ズルしただろう!」


「「なんのことでしょう~?」」


 三人は一斉に口笛を吹きだした。むかつくやつらだ。


 三人に見つめられて、引くに引けない状況になっている。くっ、こうなったらやけくそだ。





 姫宮は学校一の美少女で、透き通る白い肌に凛とした顔つき、つぶらな瞳は天使そのものを彷彿とさせる。翼を隠してるといわれても信じてしまうくらいの透明感あふれる美人だ。


 しかし、姫宮は男子とほとんど会話しない。今まで何人もの勇者が告白してきたが、全て辛辣な言葉で追い返されたらしい。そのせいか、姫宮は生徒の間では「魔王」と呼ばれている。


「好きです! 付き合ってください!」


「あなた名前は? まさか告白する時に名乗らないわけ? もしかしたら婚姻届出す時も名前の欄に名無しって書くつもりかしら? 告白とかする前にまずお母さんから自分の名前を教わったらどうかしら? それともほんとに親に名前を付けられていないのかな? かわいそうに」


 侮辱の言葉一つ使わずに、告白してくる男子達を罵倒していく。しかも屁理屈でも、一応理にかなってるから、誰も言い返せなかった。それで姫宮は美人だけど性格は超絶悪いって評判が立った。


 その「魔王」に俺はいまから最低のセリフで告白しなければならない。母ちゃん、俺の墓立てといてや……





 こうなったら俺なりの最低のセリフで告白をしてやろうじゃないか!


 俺は死地に赴く気持ちで姫宮の席まで歩いたら、姫宮はダイヤモンドのように輝いてる瞳で俺を見つめた。


 緊張で手汗がすごいことになってる。でも勇気を出すしかない。罰ゲームは罰ゲームだから。


「おい、姫宮! 日給10円で俺の彼女にならないか?」


 なんでこんなセリフが自然に口から出たのか俺にはわかる。


 それは中学校の出来事だった。俺はある女の子に告白した。彼女はオーケイしてくれた。それから、彼女は毎日俺に金をねだった。最初は100円だった。しかし、日に日に要求してくる額が増えていった。お小遣いで当然賄えるわけがなく、はるととれんが金を貸してくれた。彼女を繋ぐために、俺は毎日黙々と金を渡した。だが、それも限界がきて、そしたら俺は彼女に振られた。俺はただ金で彼女を雇っていたに過ぎなかった。


 だから、自嘲の意を込めて俺はこの最低セリフを口走った。


 はるととれんはきょとんと目を見開き、どうやら俺の口からこのセリフが出るとは思わなかったようだ。


 これでゴキブリを見るような目で罵倒されるに違いない。どうせ、ちゃんと告白しても一笑に付されて辛辣な言葉を浴びせられるに決まってる。母ちゃん、墓はできたかい?


「いいよ」


 ほらみろ、振られ……あれ、今なんて言った?


「では、前払いをお願いしてもいいかしら?」


「前払いってなに?」


「日給の10円」


 は? 頭大丈夫か姫宮。俺は罰ゲームで最低のセリフで告白をしてるんだぜ? なんでオーケイしたんだよ。お前の価値はたったの10円でいいのか……なるほど、分かった! これはきっと姫宮の陰謀だ! オーケイしたふりをして俺が滑稽に喜ぶところを見て面白がるに違いない!


 ふん! 乗ってやろうじゃないか! 俺は正面から姫宮の陰謀に立ち向かった。


 俺は財布を取りだし、で10円玉を渡した。これじゃ、笑われることはないだろう! 残念だね、姫宮、どうやら俺の勝ちだ! 母ちゃん、墓はもう大丈夫みたいだ……


「じゃ、今から私はいつきくんの彼女ね」


「えっ?」


「タイムイズマネーって聞いた事ないかしら?」


 俺だけじゃなく、はると、れんと葵にとっても青天の霹靂だった。無理もない、「魔王」との異名を持つ学校一の美少女が俺の彼女になるって宣言したのだから。 


 なるほど、長期戦に持ち込むつもりか? 恋人のふりしといて、俺が油断して心を許した時に辛辣な言葉で俺を振って、俺が泣き叫ぶところを見て高笑いするつもりなんだろう。性格が悪いにもほどがある。


「それでは一緒に帰ろうか」


「えっ、帰るってどこに?」


「いつきくんって面白いね、学校終わったから一緒に家に帰ろうって言ってるわ」


「いや、俺は芽依と一緒に帰るんだけど」


「いまは私が彼女だから、それは許せないわね」

 

 幼馴染の有栖芽依はこっちを見ている。まだ帰らないの? って思ってるみたい。


「すまん!」


 俺はそう言って芽依のところまで走って、彼女の手を引っ張って教室を抜け出した。


 姫宮の陰謀にまんまとハマってたまるか!





「こんなに急いで、姫宮さんとなにかあったの」


「ああ、ちょっと罰ゲームに負けてね」


「それで?」


「日給10円で俺の彼女にならないかって告白したんだけど、まさかオーケイもらっちゃって……」


「えっ!」


 芽依は俺を見つめてドン引きしている。


「いっき、頭大丈夫か? そんなこと言って、まだ中学校のこと引きずってるの?」


 グサッと芽依の言葉が俺の心に刺さり、激痛が走る。


「姫宮さんもそんな告白でほんとにオーケイするとは思えないよ。それに『魔王』って呼ばれてるし、何されるか分からないよ」


「俺も思った。姫宮は俺の恋人になったふりでなんか企んでいるんじゃないかな」


「明日ちゃんと謝って許してもらいなさいよ!」


「はい……」





 翌日、俺はホームルームの前に姫宮のところに寄った。


「姫宮、ほんとにごめんなさい、昨日のは罰ゲームで……」


「私に告白したのよね」


「そうだけど……」


「日給ももらったし、私はもういつきくんに彼女として雇われているんだよ?」


「解雇したいって言ったら?」


「いまさら遅いよ。それとも訴えられたいかしら? 慰謝料は何億にしようかな」


 姫宮は妖艶な笑みを浮かべて俺の反応をうかがった。てか、どこに訴えるんだよ。家庭裁判所か? 

 

 さすが魔王、どうやら俺に退路を与える気はないようだ。ここで強硬手段に出たら、俺はほんとに警察に連行されるかもしれない。母ちゃん、俺は無実だって信じてくれるかい?


「で、どうする?」


「……雇い続けるよ」


「じゃ、今日の給料もらっていいかしら?」

 

 俺はあきらめて財布から10円玉を取り出して、姫宮に渡そうとした瞬間、姫宮が俺の手を握った。

 

「今日からよろしくね?」


 姫宮は悪鬼のような顔つきで俺を見つめて微笑んだが、俺は震えが止まらなかった。


 どうやら、俺は本物の魔王を彼女として雇ってしまったみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る