4.Hello

 惑星移住は、今日からちょうど2年前の2262年に始まった。

 始まりは、2090年頃に勃発した第三次世界大戦だ。核兵器をはじめとする科学は地球を大きく傷つけた。その後も長い間、戦争は続き味方も敵国も関係なく人々は死んでいった。生き残った人々は数える程だったが、戦争が終わった後も、その残骸ガラクタの上で、私たちは生活をし続けた。


 彼と出会ったのは、戦争が終結したあとだった。生き残りの人間は政府関係者やいわゆる上級国民が多い。しかし、そうでない私たちのような人間は、地域ごとに固められ、共同生活を強いられる。

 そんな生活が嫌いだった私たちは意気投合し、この機械ガラクタだらけの田舎に暮らし始めた。様々な電化製品を治しては、落ちていたレコードなどを拾い集め、楽しく生活をしていた。

 彼は、自分でパソコンを組み立てプログラミングの仕事をしては政府の人間と話していた。もちろん、旧世代に存在したというインターネットなどは使用できなかったが、彼は会話ツールを開発する技術を持っていた。

 惑星移住は「人類最後のプロジェクト」と騒がれていたが、乗客の9割以上は上級国民や元官僚であり、エンジニアや調理師など主要な職種以外は、権力でチケットを獲得した。彼らは、地球を見限って宇宙に旅に出たのだ。


 星が流れている。

 少し前に彼は言っていた。現代の科学だと宇宙船は完成しても、二年程度のエネルギー保管しか出来ないらしい。


 今日で彼と別れてから二年。

 彼と約束した日から二年だ。


 私はただ一人きりで、泣いていた。彼との思い出が走馬灯のように蘇り、私はふと空を見上げると、名前も知らない鳥が旋回していた。その後ろで織姫星ベガ彦星アルタイルが輝いている。「空を飛び交う凄まじいまでの流星群が、この地球にわを明るくしてくれる」というブルータスのいつかの台詞は、現代の心象風景そのものであった。


 自然と涙が溢れる。彼女は悟ったのだ、最終幕の舞台に自分は立っていることを。

 星が輝く夜空の下、私は呟いた……「Hello」と。


 その時、廃材となっていたモニターが光った。モニターは、文章列を示した。

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