1.Woman

 きしむベッドの上で身体を起こすと、鳥のさえずりが耳に届く。これが私の日常。朝食をとった後は、ひたすら機械ガラクタをいじって生きている。テレビ、洗濯機、レコードプレーヤー……10年前くらいの家電もあれば、遥か昔の遺物まで存在する。それらを修理して、文明を存続させるのが私の役割だ。

 いや、「文明の存続」は少し言いすぎたかもしれない。しかし、そう言いたくなるほど今の私は孤独なのだ。

 見晴らしの良い山の上に建つログハウス、仙人がひっそりと住んでいるような場所に私は住んでいる。

 元々、田舎だった場所に引っ越してきたから人はほとんど存在しなかった。ミュージカル映画のように、動物たちとポップな音楽を歌いながら生きていきたいものだが、現実はそう甘くない。人が少ないということは、一人で生きていかなければならないということ。


 私は暇つぶしとして、ゴミとして廃棄された機械の修理を始めたのだ。


 午前9時。彼は今頃、起きているのだろうか。思考に暇ができれば、彼のことを考えてしまう。もうしばらく会っていないのに、彼は私の日常のパーツになっている。

 私が、機械の修理を始めた理由も彼にあった。彼はなんでもできる人で、機械を集めては何かを作ったり、プログラムを自分で組み立ててはロボットを動かしたりしていた。昔から壊れたおもちゃを治すのが好きだったらしい。

 そんな姿を思い出したくて、私は修理を始めた。最初は、上手くいかなかったけど螺子ねじを他のパーツと入れ替えたり、ピッタリとはまる形を探すことに快感を覚えて今では日常になった。


 お昼過ぎ。栽培している野菜を綺麗に皿に盛り付ける。どうせ一人なんだから綺麗に並べる必要はない。着替える必要も、笑顔でいる理由もない。それでも、少しくらい自己陶酔したっていいじゃない。私は、最後まで劇的に生きていきたい。


今日で彼と別れてから二年。

彼と約束した日から二年だ。


「ごめんね」


モニターのフレームを螺子ねじで締めた彼女は、そっと空を見上げた。

悲しいほど青い空の下、彼女は夜を待った。

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