見習い料理人はテキトー料理で今日も人々を魅了する

葉柚

第1話

「ふわぁ~~~~。はぁ、いつまでオレは見習い料理人のままなんだろうか・・・。」


オレはリューニャ。

8歳の時に見習い料理人になって10年経つ。未だ見習い料理人のままだ。

8歳で見習い料理人だなんて早いって?

そんなことは言わないでくれ。

8歳くらいから見習いを始めなければ王宮の料理人にることは難しいのだ。

早い者は14か15で王宮料理人になれるというのに、オレときたらまったく王宮料理人になれる気配がない。せっかく元王宮料理人だった師匠の元で見習いをしているのにだ。

だけどなぁ。師匠の料理は面白くないのだ。

多分、オレが王宮料理人になれずに見習いのままなのはそこが原因なのだろう。

料理を作ることは面白い。面白いが師匠の言うとおりに料理を作るのは面倒だと思ってしまうのだ。


出汁を取れ。

裏ごしをしろ。

下処理は丁寧に。


そんな手順を踏まなくても、美味しい料理はいくらでも作れるのに。

時間ばかりがかかる料理の手順は実に面白くない。実に面白くないのだ。






「リューニャ、卵焼きを作ってくれないかい?」


「おう!まかせとけっ!!」


卵焼きは、卵と調味料を混ぜて焼くだけの簡単な料理だ。これに出汁をいれるとだし巻き卵になる。

今回は通常の卵焼きでいいか。

オレは師匠に言われて卵焼きを作りはじめた。もうかれこれ10年も師匠の元で修行をしているのだ。卵焼きを作るのだって慣れている。

手際よくパパーッと作って師匠の目の前にだす。


「うむ・・・。見た目は及第点だね。」


よしっ!


「味は・・・うまいな。文句なしだ。これで、リューニャが王宮料理人になれないなんてなぁ・・・。あいつら慣例にとらわれずぎだな。」


師匠はオレを気に入ってくれている。オレが作る料理だって美味しいと言ってくれているのだ。

元王宮料理人の師匠にそう言われているのに、なぜかオレは王宮料理人になれない。


「して、今日の卵には何を使用したんだ?」


「赤コカトリスの卵に、青バッファモーのミルクです。」


そう。オレが使用するのは普通の鶏が産む卵ではない。普通の鶏の卵ではここまで美味しい料理などできないのだ。それこそ下処理を丁寧にやってないと無理だ。


「ぶはっ・・・そうだよな。リューニャいろいろ端折ってるもんな。しかし、赤コカトリスに青バッファモーとは・・・。誰かに依頼したのか?」


師匠ってば口に含んで咀嚼していた卵焼きを吹き出した。

もったいねぇなぁ。


「いいえ。オレが取ってきました。」


「・・・リューニャ・・・また腕を上げたようだね。君、冒険者になったらどうだい?S級冒険者確実だよ?」


「いえ。オレは王宮料理人になりたいんです。」


「・・・そうか。」


オレがなりたいのは王宮料理人なんだ。決して冒険者になりたいわけではない。

そう告げると師匠は呆れたようにため息を一つついた。






☆☆☆





コカトリスの中でも色つきの個体がたまに出現する。

この色つきの個体は通常のコカトリスよりも強い個体なのだ。

赤色だと攻撃力に秀でていて、青色だと防御力に優れている。

だが、オレは別にコカトリスやバッファモーを倒しているわけではない。ちょっと気絶させて卵を拝借したり、ミルクを採らせてもらっているだけなのだ。だって、無駄な殺生はしたくないからな。


「リューニャが王宮料理人になれないのは、誰にも真似することができないからだろうな。」


「え?」


「普通、通常のコカトリスでされパーティーを組んで討伐するんだぞ。バッファモーだって危険度Aの魔物だ。」


「はあ・・・?」


師匠はそうは言うがあいつら結構動きに隙があるんだ。その隙に一撃で攻撃を打てば簡単に気絶する。

だから、結構簡単に卵やミルクを採集できるんだけど・・・。


「リューニャ。普通の卵とミルクで卵焼きを作ってみろ。」


「えーっ。」


普通の卵とミルクを使用しての卵焼きなどここ最近は全く作っていない。だって、コカトリスとバッファモーのミルクで作ったほうが簡単なんだもん。

でも、師匠の言葉だから無視することもできない。オレは仕方なく普通の卵とミルクで卵焼きを作り始めた。


「・・・不合格だな。」


オレが作った普通の卵とミルクの卵焼きは師匠から不合格と評価された。

たしかに、オレもそう思う。

卵焼きは黄身と白身が混ざりきっていないとまだら模様になってしまう。それだと駄目なのだ。

しっかりかき混ぜないといけないのだが、どうにもこのしっかりと混ぜるというのが面倒なのだ。

特に産みたての卵だと、卵の黄身も白身もしっかりしているためなかなか混ざらない。腕力にまかせてエイヤッと混ぜれば余計な空気が入ってしまい、すが空いてしまう。

オレはどうにも不器用で面倒くさがりだからエイヤッと混ぜてしまい、すが空いてしまう上に黄身と白身が混ざりきっていないのだ。


「でもさ、味はそんなに変わらないと思うんだよね。」


「料理は視覚で楽しみ、嗅覚で楽しみ、味覚で楽しむものだ。」


師匠からいつも言われている言葉。確かにそうなのだ。家庭料理ではないのだ。王様相手、もしくは王様の客人相手に振る舞われる料理なのだ。

ただ美味しいだけでは駄目なのはわかっている。


「ああ・・・うん。でもさぁ・・・。」


「だからリューニャは王宮料理人になれないんだ・・・。」


師匠はため息まじりにそう言った。


「わかってるんだけどさあ・・・。材料から持ち込んで料理させてくんないかなぁ。そうすれば実技試験は受かるはずなんだよね。」


そう。

自分で選んだ材料を持って行って調理すれば誰にも負けない美味しい料理が作れるのに。

良い素材はそれだけでとても美味しい料理になり、見た目も良くなるというのに。


「・・・どこの誰が赤コカトリスの卵と、青バッファモーのミルクを用意できるんだよ。それこそ不正になりかねないぞ。」


師匠はため息まじりにそうつぶやいた。


意外と簡単なんだけどなぁ。

コカトリスの卵もバッファモーのミルクを手に入れることも。








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