第43話 風来坊と家出

 ゲストハウスを出た分けではないが、剛毛の村田と、ヘビースモーカーの仰木は、しばらく姿を消していた時期がある。村田はダーツが趣味だった。私は好きという訳ではないが、地元の愛媛は娯楽が少ないという理由もあり、割とダーツが盛んなので心得があった。それで二人でダーツバーに行ったことがある。腕前は同じようなものだったが、酒は私の方が熱心に飲んだので、その分雑になり、後半は続けて負けた。

 彼は三週間ほど治験に参加するために姿を消していた。解放された時は、一緒に治験に参加していたヤツらと、なによりもまず最初にタバコを吸ったそうだ。



 関東の田舎出身だった仰木は、「そういえば最近姿を見ないな」と思った矢先に、ひょっこりと姿を表した。高校は出ていたが、まだ若かった彼は、実は家出青年で、親がゲストハウスまでやって来て、実家に連れ戻されていたそうだ。そのまま実家に居た方がいくらかまともな生活が出来そうなものだが、

「つまらないんですよ」とだけ説明してくれた理由で再び家を飛び出して、こんな所へ戻ってきた。少し不良ぶってるくせに、

「子供の時からずっと野球をやっていたんで、年上のこと敬うっていうのがすり込まれてるんですよ」と言っていたり、どこか常に周りの顔を伺って気を使っているところから察するに、もしかしたら窮屈で厳しい家庭で育てられたのかも知れない。


 東京に居るといっても、遊ぶ金もなく、タバコを吸うぐらいしかやることがないので、楽しくは無いだろうと思うが、よく考えれば、私だって、東京にいたってなにかやるわけでもなく、田舎に居た方がまともな生活が出来る点では彼と同じだった。


 風来坊と家出というのは呼び方が違うだけで、やってることは同じ、息の詰まる日常からの逃避なのかも知れない。


 しばらくして、諦めた仰木の母親から衣類とかレトルトの食品が入ったダンボール箱が送られてきた。

「どうせ着ないから、なにか欲しい服あれば好きに持っていってください」と仰木に言ってもらったが、私が着るような服はなかった。それでも、せっかくなので、彼の名前が刺繍された、学校の運動着を選ぶと、仰木は少しだけ引いた顔をした。

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