第18話 話題

 Sachiが国会で発言して以降のニュースは、やはりSachiの内閣総理大臣就任発言についてのことばかりだった。

『これはAIの反乱といっても過言ではありませんね』

『人間はもはや必要ないと』

『幸福度数を元に政治が動くとなればそれは豊かな生活が保障されるということではないでしょうか?』

『そもそもAIに政治なんて出来るのかね?』

 ワイドショーなどで専門家と名乗る人たちは自分達の好き勝手に言っているのが何だか見るに耐えられなくなって、おれはテレビの電源を切る。

 スマホを見ると、早速【AIに総理大臣をやってほしいか?】というアンケートを実施したところもあったらしい。肯定的意見が8割にもなっていた。

「どこもかしこもSachiの話題だらけだな」

 スマホを切ると、ポイっと掛け布団の上へと投げてうな垂れる。すると、ノックの音がして、

「失礼するぞ」

 何か凄く威圧感のある声と共に扉が開く。扉から覘いたのは長谷川さんの姿だった。

 その姿を見た途端、おれは病室のベッドの上で土下座をする。

「……一体何をしているんだい? 君は」

「このたびは真にうちのSachiが申し訳ありませんでしたっ!」

 一言謝罪を入れておかないと何だか夜道に暗殺されそうな気がしておれはベッドの上で必死に謝る。ベッドでやっている時点で頭が高いだろというツッコミは受け付けていない。

「別に私は怒っていない。それに今は怪我をしているのだろう。無茶はするな」

「すいませんこんなことになってしまい。長谷川さんの注意をちゃんと聞いていれば」

「私の方こそこんなに早急に襲撃されるなんて思ってなかった。無理にでも護衛を付けさせるべきだったと思っている。真にすまない」

 深々と頭を下げる長谷川さん。これは明日おれに槍でも降ってくるんじゃないかとドギマギしながら、頭を上げてくださいと震え声で言った。

「Sachiの件に関してだが、君は国会中継を見たんだな」

「はい。ばっちりと」

「そうか、なら君に問おう。君はAIが総理大臣になることには賛成か?」

「おれは……」

 まっすぐ長谷川さんの目を見る。

「プログラムとして総理の支援をするのなら、賛成ですが。今のSachiには“感情”が入っています。そんなSachiに総理大臣になるというのは反対です」

「ほう。君は大学でAIの感情プログラムについて研究していたこともあるようだが、そういう人間がAI感情について否定的というのも珍しいな。理由を聞こうか?」

 この人、どこまでおれのことを知っているのだろうか? 本当に敵に回したくない人だ

「機械だけの問題じゃない、人間もそうじゃないですか。感情は一度あふれてしまうと暴走してしまう。人間は暴走の度合いに限度がありますがAIはその限度は未知数です。もし、一度暴走してしまったら、おれたちだけじゃ手に負えなくなる未来が絶対に来ます。だから、反対です」

「確かにそういう可能性が考えられるな。Sachiの生みの親から貴重な意見が聞けて大変感謝しているよ。……おっと、失礼」

 長谷川さんはズボンからスマホを取り出し、何やら確認をしている。

「君を襲った連中が捕まったようだよ。犯人はRONEの工作員たちだったようだ」

 やっぱりRONEがおれのことを消しにかかっている。

「やはり君には暫く護衛をつけよう。襲撃も失敗しているんだからまたリベンジをされても厄介だからな」

「すいません、何から何まで」

「別に私の権限でやらせてもらっているから大丈夫だ。そうだ。君には貴重な意見を貰った事だし、君には私の野望でも教えてあげよう」

「……野望ですか?」

 いきなり何を言い出すんだ、この人は。

「私の野望はいつか内閣総理大臣になって、この国を私の手一つで支配することが幼い頃からの夢でね」

 いきなり独裁政治家みたいなことを言い出す長谷川さん。威圧感と相まって言うことの恐ろしさが数倍に跳ね上がる。

「この機会が私にとっての好機だと思っているのだよ。では、失礼するよ」

 長谷川さんは夢を語るだけ語って帰っていった。


 そんなに内閣総理大臣って魅力的な仕事なのか? おれには全くわからなくてただただ病室の窓から広い青空を見て現実逃避することしか出来なかった。

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