7月2日


 昨日、生まれて初めてカノジョができた。

 今日は、そのカノジョと一緒に登校する約束をしている。



「やぁ、おはよう」


「おはよう。ずいぶんと早いのね」


「いや、キミが遅刻しているからね、待ち合わせの時間、五分過ぎているからね」


「沖縄の人は、約束の時間になってからお風呂に入ると聞くわ」


「ここ、東京だから」


「都会の人は忙しないのね」


「キミも東京生まれでしょ」


「おなかがすいたわ」


「会話のキャッチボールって知ってる?」


「とんかつが食べたいわ」


「……朝っぱらから?」


「固定観念を躊躇なく壊すことのできる者が、この世の勝者となれるのよ」


「壊れるのは胃腸だけだと思うけど」





「あら、猫がいるわ」


「ホントだ、かわいいね。……猫、好きなの?」


「いいえ、全然。猫は食べられないもの」


「……歩いてるのがブタだったら、捕って食べるの?」


「どうかしら、チャレンジはしてみるかもしれないわね」


「キミは牧場に行かない方がよさそうだね、一生」


「モーッ、なんてコト言うのよ」


「…………もしかして、牛に掛けたダジャレ?」


「…………私、今何か言ったかしら?」


「…………いや、何も言ってないね」





「あら、あそこのケーキ屋さん、半額セール中と書いてあるわ」


「ホントだ、ケーキ、好きなの?」


「いいえ、全然。ケーキは太ってしまうもの」


「……とんかつは、いいの?」


「とんかつは、おいしいから」


「なるほど、すごく納得したよ」


「おなかすいたわ」


「どんだけ」


「ケーキが食べたいわ」


「……ケーキ、好きじゃん」





「今日は天気がいいわね」


「ホントにね、もうちょっと涼しければサイコーなんだけどな」


「あなたは、夏が嫌いなの?」


「嫌いってワケじゃないけど、暑いのは苦手かな」


「私は、夏、好きよ。こう、めいっぱい汗をかきながら、太陽の光を浴びていると、なんだか、生きているって感じがするもの」


「……」


「あら、どうしたの黙って、私、変なこと言ったかしら?」


「どっちかっていうと、『いつも』が変かな」


「失礼ね……、そういうあなたは、どの季節が好きなのかしら?」


「いつだろう、冬は寒いし、春は花粉が飛んでるし、なんだかんだ、秋が一番好きかも」


「ずいぶんとマイナーな季節を選ぶのね」


「四季にメジャーもクソもないと思うけど……、秋、いいじゃない。さんま、栗、さつまいも、梨に柿――、おいしいものが、いっぱいだよ」


「あら、あなた、おいしいものがいっぱいあるから秋が好きなの? ずいぶんと食いしん坊なのね」


「全力で思ったコトが一つあるんだけど、いいかな?」


「なにかしら?」



「どの口が言うか」


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