第8話 小鬼暗殺
レイジさんと言う助っ人を連れて、僕はとある廃村に来ていた。
その廃村はゴブリンの住処となっており、今も、村の辺りにゴブリン達が歩いている。
そして僕達は村の近くにある木々の中に隠れていた。
「流石に一気に倒すのは無理だし、どうすれば……。」
「それなら任せろ。投擲のレアステータスを持ってる。」
「おぉ。そじゃあお願いします。」
「おう」と言った後、レイジさんは腰につけている小さなバッグから小さな針を取り出す。
静か木々の中。レイジさんは針を構え、五メートル程先にいる一体のゴブリンに狙いを定める。
「はっ」
『–––––グゲッ?』
目に見えない速さで針はゴブリンの首に刺さる。
ゴブリンは首に手を当て、針の正体に気づく。
針を捨て、飛んできた場所を探し始める。
やがて、木々の方から飛んできた事に気づきこっちに辿りついてくる。
「アレス。後ろから仕留めろ。」
「はい。」
ゆっくり歩いてくるゴブリン。たった一体だけだというのに、汗が止まらない。
もし、不意打ちが失敗したら?ゴブリンが叫んで、仲間を呼び、僕達はあっと言う間に囲まれて袋叩きだろう。
決めろ。一撃で。
木々の中に入ってきたゴブリンは辺りを見渡しながら歩き始める。僕もバレないように、足音を殺し、ゴブリンの後ろに回り込む。
「–––––うっ!」
『グァ!?』
声が漏れないように口を塞ぎながらナイフを首に刺しこむ。
首から、口から血が溢れていく。
手に、顔にゴブリンの血がつく。
ナイフを抜き、ゴブリンは灰になって消えていく。
「次の場所に行くぞ。」
そう言った後、レイジさんはしゃがみながらの移動を開始する。
「レイジさんは戦わないんですか?」
「今日はやめておく。アレスが狩りをしてるしな。」
「なら、なんで手伝ってくれるんですか?」
「投擲のステータスを上げるのに良いからだな。俺が投影で誘き出してアレスが倒す。二人得するだろ。」
………その作業はレイジさん一人でも出来る。きっとレイジさんは一人で戦う僕を心配して助けてくれているのだろう。
「ありがとうございます。」
「ん、何が?」
「いえ、なんでもないです。」
次の隠れ場所に到着する。レイジさんは首を傾げながらも、針を取り出し、歩いているゴブリンに狙いを定める。
「ふっ」
これもまた見えない速さで飛んでいき、ゴブリンの首に正確に刺さる。
『グゲッ!』
ゴブリンは針の存在に気がつき、払うように手を振る。
『グッ?』
そして、どこから飛んできたのか、周囲を見渡す。これもさっきゴブリンと同じ行動だな。
ゴブリンは僕達がいる木々を見つめ、こっちへ近づいてくる。
『グゲッ?』
「今だ。移動しろ。」
ゴブリンが木々の中に入ると同時に僕はゆっくり移動を始め、ゴブリンの背後に回る。
鞘からナイフを抜き、さっきと同じように口を抑えながら首に刺す。
『ッッ!?』
声を出す事すら出来ないまま、ゴブリンは絶命し、血を流しながら倒れ、やがて消滅。
「–––––もう一体来た。ここでやろう。」
「はい。」
レイジさんは針を構え、ゴブリンに飛ばす。が。
『グッ?』
「しまっ––––!」
「グゲッ!?グガガガアアァァァッ!!』
レイジさんは投擲は失敗に終わり、更にはゴブリンにも見つかってしまった。
ゴブリンは雄叫びを上げ、村にいる全てのゴブリンを呼び出す。
「すまない。ここからは表に出て戦うぞ。」
「はい!」
僕はナイフを構え、レイジさんは鞘から剣を抜く。
「なるべく早く倒そう。囲まれたら流石にやばい。」
「わかってます!」
木々から道へ移動し、ナイフを持ってゴブリンに接近する。
ちらっと建物の中を見る。そこには大慌てで戦闘準備をしているゴブリンの姿があった。
あの様子だと、まだ出てくる事はないだろう。
『グゲッ!』
ゴブリンも剣を構え、僕の前に立ちはだかる。
「はああぁぁぁあああ!!」
僕とゴブリンの刃がぶつかり合う。
さすが、ここのゴブリンは王都付近にいる者より
「アレス!蹴りを入れるんだ!!」
遅れてやって来たレイジさんは僕に向かって叫ぶ。
「ッッ!!」
横腹に蹴りを入れる。そうすると、ゴブリンは口を開け、苦しそうにもがき始める。
「うッ!!」
その隙を逃すまいと、僕はナイフをゴブリンの背中に突き刺す。
『グガァ………!』
ゴブリンが消滅するのを確認すると、体勢を立て直し、建物の中を再び見る。
………まだ手こずってるようだな。
ひとまず安心し、レイジさんのもとへ向かう。
「レイジさん!」
レイジさんは他にいた見張りのゴブリンと戦闘を行なっていた。だが、レイジさんの方が圧倒的に優勢。簡単にゴブリンの剣を跳ね飛ばし、体を両断していた。
「す、凄い……。」
僕も早くその領域に辿りつきたい。そんな事を思いながら、レイジさんと合流する。
「アレスも終わったか。」
「はい。中にいるゴブリン達は戦闘準備に時間がかかってるみたいなんで、ここで引きましょう。」
「おう。わかった。」
僕達は武器を鞘にしまい、駆け足でこの廃村から離れた。
***
「はぁ……はぁ…。今回はありがとうございました。」
廃村から王都の門の付近まで走った僕は、息を切らしながらレイジさんに礼を言う。
「気にするな。どうやら俺の投擲も少し上がったらしいしよ。」
レイジさんらにっと笑いながら僕の肩を叩く。
「俺はまだ野暮用があるから外にいるが、アレス。お前はどうするんだ?」
「………今日はもう帰ります。回復のポーションも買いたいんで。」
「–––––––。そうか。なら、俺は行く。またどこかで会おうな!」
「はい!今日はありがとうございました!!」
僕はお辞儀した後、レイジさんに手を振ってから、王都に入る。
僕は歩きながら、ステータスカードを見て、何か変わったか確認する。
「敏捷が上がってる……。あれだけ走ったからなぁ……。」
敏捷がE+の16から19まで上がっていた。
この三日間で敏捷が9も上がってる。以前までとは考えられない成長の速度。
『強くなってきてる証だよ。』
アシアさんの言葉を思い出し、その意味を実感する。
確かに、僕は強くなってる。ちょっとずつだけど、前に進み始めている。
「うわっと。」
考えながら歩いていると、男とぶつかってしまった。
「す、すいません!」
僕は急いで謝罪をすると、前にいた男は「あはは」と笑いながら、頭をかく。
「こっちこそごめんね。前を見ていなかったよー。」
けらけら笑いながら、男も謝罪する。
艶のある黒髪に、金色の目をした中性的な青年だった。
そして、その青年から、なんとも言えない違和感を覚える。何故か、嫌悪感も。
「それじゃあ、俺は行くねー。さっきはほんとごめんね。」
あははー。と笑いながら、男は去っていった。
「………僕も行くか。」
違和感を消し去り、僕はポーションを買いに店に向かった。
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