一章 冒険始動編

第1話 再会

 目が覚め、時計を見ると六時三十分ちょうどだった。

 僕は体を起こし、ベッドから降りる。


 今日は外で朝食をとってから魔物を倒して経験値を積むか。


「っとその前に。」


 僕は本棚からとある本を取り出す。


『ベルドロイドの冒険譚』


 これは僕が英雄になりたいと思ったきっかけでもある英雄譚だ。とても有名な話で知らない人は多分いないだろう。


 魔物に支配された荒れ果てた世界。暗黒の時代でも未来を諦めない少年ベルドロイドは非力な人間の中でも特に弱く、ちっぽけな人間だった。

 それでもベルドロイドはこの世界を変える為に仲間を集めようとしていた。だが、人類は皆絶望し、未来を諦めていた。

 皆は無様に足掻こうとするベルドロイドを嘲笑い罵倒する。

 諦めず仲間を集めようとしていたベルドロイドの前に魔物が現れる。

 ピンチになったベルドロイドの前に一人の女性が現れた。


 この物語は上の『愚者の使命』と下の『英雄の凱旋』の二部構成で出来ている。


 上は出会いの物語。下は決戦の物語。


 ベルドロイドは非力ながらも最後まで諦める事なく足掻き続け、最終的には信頼できる仲間、圧倒的な力までも身に宿す事になった。


 まだ、英雄が存在しない時代とされていた為、彼は英雄の先駆者とも呼ばれており、英雄と言う言葉を作り出した者でもある。


 この英雄譚で僕は諦めない事の大切さと言う物を知った。そして、こんなかっこいい英雄になりたいと思った。


 悲しい事に、下の『英雄の凱旋』を王都に持ってくるのを忘れてしまった。この英雄譚は少し高く、今の僕には買う事が難しいのだ。


「はぁ……」


 かと言って、故郷の村は距離が遠く、簡単に行けるものではない。


 ………お金が余った時に、買うしかないか。


 僕は上の『愚者の使命』を軽く読んでから外に出る事にした。




 ***


 外で朝食をとった後、僕はさっそく王都を出て、草原にやって来ていた。


「何かドロップアイテムを落としてくれるといいんだけど……。」


 魔物は倒すと灰になって消滅する。だが、稀に体の一部が残ったまま、消滅することがある。その体の一部の事をみんなドロップアイテムと呼んでいる。

 そのドロップアイテムはベルに換金できる為、ぜひとも集めたいのだが。


 そんな淡い期待をしながら、魔物がいないか、周囲を見渡す。


「………後ろ!!」


 背後から気配を感じ、すぐさま振り向くと同時にバックステップで後ろに下がって距離を取る。


「やっぱりいた。」


 そこにいたのはゴブリン。昨日は苦戦を強いられたが、今の僕はレベル3。昨日みたいにやられるわけにはいかない!


「はああああああああぁぁぁぁっっー!!」

『グゲッ!?』


 僕は咆哮と同時にハンターナイフを構え、ゴブリンへ接近する。


 ゴブリンも慌てて戦闘態勢に入ったようでこっちへ向かって来る。


 ゴブリンとの距離が一メートルとなった時、僕は止まり、再びナイフを構える。

 ゴブリンは悪い予感がしたのか、止まろうとしていたが、勢いが落ちる事なく、そのまま僕のほうへ来る。


「せやぁっ!!」


 ゼロ距離まで接近した瞬間。僕はナイフを振り上げ、ゴブリンを斬り裂く事に成功した。


「凄い……」


 ゴブリンを無傷のまま倒す事に成功出来た。これは明らかに成長してる。


「これならもう少し先に行っても大丈夫なんじゃないかな?」


 つい、そんな事を考えてしまい、僕は王都から離れる。


 王都の周りは弱い魔物が多い。王都から北へ進むほど、魔物は強くなっていく。僕の故郷は東の方で、そっちは魔物がいなくて平和だ。


 始めて来る場所に少し興奮しながらも僕は警戒を解かず、辺りを探索していた。


「ん?」


 上空に何かがいるのを見つけた。遠くからでもわかる巨体で、こっちに近づいてきているのに気がついた。


「えっ、これってまずいじゃないの!?」


 僕は慌てて、来た道を戻る。だが、僕の足よりも、巨体の方が速いらしく、僕の目の前に着地する。


「ぶわぁっ!!?」


 着地した時に発生した風に僕は吹き飛ぶ。


 なんとか体を起こし、巨体の正体を確認する。


「ま、マンティコア!?」


 ここより100キロ以上離れた北の方に生息されるとする恐ろしい魔物だ。


 でも、見たところ、弱ってるようにも見えるけど、それでも僕なんか一撃で殺されてしまうだろうな。


 というか、なんで王都付近にマンティコアが!?


『グルルルルルッッ!!』

「ひっ!?」


 腰が抜けて、再び倒れてしまう。


『グガアアアアアアアアァァァッッッ!!』

「うあああああああぁぁぁっっっ!!!」


 逃げなきゃ!!じゃないと殺される!!


「あ、ああっ!」


 他に手を着き、後退りする。


 嫌だ。こんなところで死にたくない!!僕はまだ生きたい!!


 だが、マンティコアはそれを許さないらしく、僕に近づいて来る。



「––––––エンチャント、サンダー。」


 その時、どこからか女性の声が聞こえて来た。


 凛とした声。だけどどこか懐かしさを感じた。


 その瞬間。上空から何者かが現れ、目にも見えない早さでマンティコアを斬り刻む。


『グ、グガァッ!?グガガアアアァァッッ!』


 草原に怪物の断末魔が響き渡った。


 刻まれた部位から赤い噴水が吹き出す。


「大丈夫ですか」


 姿を表したのは金髪、赤目の美少女だった。


 僕は知っている。彼女の事を。


「え、エリスちゃん?」

「………もしかしてアレス?」


 幼馴染との再会は最悪な形で成し遂げてしまった。

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