アリガトウ

なつめろ

第1話 伝えたいこと

 とある晴天の日。

 アルドは次なる目的地へ移動するために次元戦艦の甲板へ向かった。


 相変わらず合成鬼竜は爽快な速度で雲を突き抜けていく。風が冷たく頬をきっていくが、心地よさを感じる。


 アルドは甲板奥の合成鬼竜に会おうとしていたところ、意外な人物・・・いや魔物というべきか・・・と合成鬼竜が楽しげに会話をしているのを見かけた。


「ふふ、そうかそうか。実に興味深いものだ。」


 合成鬼竜と話すその魔物とは、もちょろけであった。

 このふたりが会話をしているところは初めて見たが、馬が合うのか・・・そもそも会話が成立するのか不思議ではあったが、もちょろけの様子が答えを出していた。


「おや、アルドではないか。」


 先に合成鬼竜から声をかけられ、それに気づいたもちょろけは振り返った。


「やぁ、合成鬼竜にもちょろけ!意外なふたりが話していてちょっと驚いたぞ。」


「あぁ、もちょろけから話しかけられてな。かれこれ2時間は経過した。」


「2時間もふたりで!?す、すごいな・・・。ふたりは相当仲が良いんだな!羨ましいぞ。」


 もちょろけも喜びながらぴょこぴょこと飛び跳ねる。アルドが見ていないだけで実は結構普段から仲が良かったりして。アルドもつられて自然と笑みがこぼれた。


「もしかしてお邪魔してたか?」


「いや、そうではないぞ。ちょうど話に一区切りついていたところだ。」


「それはよかった。もしよかったら・・・ふたりが普段どんな会話をしているか聞いてもいいか?俺も何かお話できないかなって。」


「あぁいいぞ。今日はもちょろけが幼いころの話を聞いていた。森の奥に咲く金色の花にしか寄り付かない蝶の話、もちょろけの好きな樹木の蜜の話・・・。」


「お、おぉ・・・。それは楽しそう・・・かなぁ。」


 もちょろけは恥ずかしいのか照れているのか、両手で顔を隠しクルクルとその場で回り始めた。


「それは恥ずかしいことだった!?」


「・・・あと、もちょろけからアルドに伝えたいことがあると言っていたぞ。」


「・・・伝えたいこと?」


 アルドはもちょろけの目線を合わせるために片膝をつき、どうしたんだいと尋ねた。

 もちょろけは隠していた両手を離し、少しアルドから距離をとった。そしてアルドと正面を向いたのだが、その表情は何かを決意した表情であった。


 もちょろけは右手を天に高く上げて、「マクマク!」と声と同時に地面に大きく右手を振り下ろした。・・・それは何かを割るような仕草である。


 次に、アルドの前で大きく両手を広げてみせ、最後に一呼吸おいてガッツポーズを決めた。もちょろけは自信満々に「やってやったぞ!」と言わんばかりの顔である。


 アルドは表情を変えずに立ち上がり、

「・・・ごめんもちょろけ・・・」


「さっぱりわからない・・・!!」


「マクーッ!?」


 もちょろけはプルプルと震え、アルドをポカポカと叩いた。そしてすぐさま合成鬼竜に泣きついた。アルドは困惑しごめん、ごめんと謝るがもちょろけは合成鬼竜に抱きついたまま離れない。


「な、なんて伝えたかったか分かるかい、合成鬼竜・・・。」


 アルドはうつむきながら合成鬼竜に答えを求める。合成鬼竜は少し笑いながら

「そうだな、俺は伝わっているし事の顛末は知っているが、アルドは覚えていないんだな。」と答えた。


「覚えていない・・・?」


「そうだ。やはりアルドは覚えていないようだぞ、もちょろけよ。さて、どうしたものか・・・。」


 もちょろけは悲し気にうつむいた。


「なぁ、合成鬼竜。どういうことか教えてくれないか?」


「うーむ。こればかりは俺の口から言うよりも、もちょろけ本人から聞くか、アルド自身が思い出す必要がある。俺が言っても構わんが、それだと意味がない。」


「・・・俺が忘れてしまっていること。それはもちょろけと俺にとって大切なこと。そうだな、もちょろけ?」


 もちょろけはアルドに向かって強く頷いた。


「マク、マクマク!」


 合成鬼竜に何かをお願いするもちょろけ。合成鬼竜はうんうんと頷き、何か納得したような表情を見せた。


「よし、いいぞ。作戦フェーズ2だな?・・・では行こうか。」


 アルドはきょとんとした顔で合成鬼竜に尋ねる。


「え?どこに向かうんだ?」


「アルド、少し時間をもらうぞ。」

 

「A.D1100年、ヌアル平原へ向かう!全速前進だ!」

「マクマクー!」

 もちょろけは大きく右手を天に掲げた。

「・・・えぇ!?ヌアル平原!?」

 アルドは困惑した表情でふたりを見つめた。


 アルドともちょろけを乗せた次元戦艦のスピードが徐々に加速し、そして、目的地へ向けて時空を越えていく。


 もちょろけが何を伝えたいのか、アルドにはその気持ちが伝わるのか・・・。

 そして、アルドが忘れてしまっていて、もちょろけが覚えていること。

 すべてはヌアル平原に答えがあるのかもしれない。

 アルドは期待と一抹の不安を抱えて到着を待つ。

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