第9話・茨木童子と座敷童子
千尋と夏休みを満喫して過ごしていたが、一つ気になる事があった、がしゃどくろと戦っている時から誰かにつけられている感じが消えないのだ、だが確信はないので放っておいた。視線を感じ振り向くと気配はなくなるし、千尋は気付いていないから気のせいだと言い聞かせていた。
依頼はまだ入っていないので、俺は暇を見てじいさんから譲り受けた道具を清めたり、式札を増やしたり護符を作ったりしていた。
最近は週に一度くらいの間隔で千尋とじいちゃんの家に行っている。実家にも何度か千尋と一緒に行って飯を食ったりしていた。
じいちゃんは僅かに霊感あり、はっきりとは見えないが霊がいれば感づく程度の能力だった、第六感はあるらしくそのおかげで神野グループが廃れないのだと言っていた。
俺はそれだけではないことは知っている。
黙っていたが、家に霊がいないか見てくれと頼まれた、屋敷の中を見て回る。
「悪い霊はいないけど座敷童子はいますね」
と言うとじいちゃんも千尋も驚いていた。千尋には見えてないらしい。
「さっちゃんが千尋と遊びたがってる」
と言うと。
「なんで名前を知ってるの? 私が幼い頃付けた名前よ、幸子と名前を付けたんだけど、私が中学に入る頃には見えなくなったわ」
「見せてやろうか?」
「お願い会わせて」
と言うので俺は簡単な術をかけてやった。見えたのか座敷童子の前に座り、泣きながら話をしている。じいちゃんが言う。
「わしには見えないが、千尋が幼い頃によく一緒に遊んでいた」
「この家が繁栄してるのはじいちゃんの第六感だけではなく座敷童子が今でも住み着いてて幸をもたらしてるからですよ」
「そうか、座敷童子が退屈しないようにするにはどうすればいいんだ?」
「縁側に鞠やけん玉それから飴などを並べてあげて下さい」
「わかった、千尋も喜んでいるようだしありがとう」
と頭を下げた。
「頭を上げて下さいよ、俺は大した事はしてませんよ。じいちゃんにも見えるようにしましょうか?
「いや、見えんでもいい。間違って他の化け物を見てしまったら怖いからのう」
「わかりました」
「君は以前霊能力は千尋と互角と言っておったが、優斗の方が数段格上のようじゃな。がしゃどくろの件も聞いておるぞ」
「筒抜けですね」
「君は君の力で鬼とか餓鬼とかいろんな式神も使えるそうじゃな」
「よく知ってますね」
「わしのところにはこの街のいろんな情報が入ってくるからのう」
俺は座敷童子のとこへ行った。
「座敷童子よ、お前はどうして出ていかなかったんだ?」
「この家も千尋も好きだから」
「そうか、また千尋と一緒に来るからな」
「お兄ちゃんありがとう、お兄ちゃんは陰陽師なの?」
「気にするな、困ったことがあれば何でも聞いてやるぞ。それと俺は正式な陰陽師じゃない、はぐれ陰陽師だ、俺のじいさんに習ったんだ」
「ふーん、でも凄い力があるのがわかる」
千尋が立ち上がり。
「優斗ありがとう。またさっちゃんに会えるとは思ってもなかったわ」
「お前も気にするな」
座敷童子が見上げてくる。
「お兄ちゃんと千尋は結婚するの?」
「ああ、まだ先だが子供が産まれたら一緒に遊んでやってくれ」
「わかった待ってる」
「じいちゃん達を守ってやってくれ」
「うん、わかった」
「じゃあまたな、千尋今日はそろそろおいとましよう」
「わかったわ、さっちゃん何か欲しいものある? 今度持ってきてあげる」
「絵本がいい」
「わかったわ、またね」
俺たちがじいちゃんの方へ行こうとしたら座敷童子にズボンを引っ張られた。
「どうした?」
「お兄ちゃんをつけてる人がいるの、気付いてるの?」
「ああ、知ってるよ」
「人間じゃないから気をつけて」
「ありがとう、大丈夫だ」
俺と千尋は帰り支度をした。
「また来ます」
と言ってマンションに帰った。部屋に入る前にマンションに結界を張った。
アイスコーヒーを二人で飲む。
「帰り際さっちゃんと何を話してたの?」
黙っておく必要はないので話す。
「がしゃどくろと戦ってる時から気付いていたが、それ以降誰かに尾行されてる」
「気付かなかったわ、人間? 妖怪?」
「鬼の眷属みたいだ」
「大丈夫なの?」
「ああ、強そうだが悪意は全くないみたいだからな、このマンションには結界を張ってある、入ってきたらすぐわかる」
「私達に何か用事があるのかしら」
「千尋は大丈夫、目的は俺みたいだ。それにつけてるってよりも監視してるみたいだ、そのうち顔を見せるだろう」
「優斗は肝が座ってるのか呑気なのかわからない時があるわ」
「俺自身もわからないよ。それより座敷童子に持っていく絵本は買いに行かなくていいのか?」
「まだ時間あるし本屋に行きましょ」
近くの本屋まで歩いて行った。俺は千尋が絵本を選んでいる間に陰陽師に関する本を読んで時間を潰した、知ってる事ばかりだ。
千尋は四冊の絵本を買った、マンションに戻ると千尋は絵本を広げ漢字を見つけるとふりがなをふっていた。座敷童子は小学生の低学年くらいだろうか? 見た目はそんな感じだった。
「座敷童子は漢字が読めないのか?」
「簡単な漢字は読めるけど念の為によ、でも古い古文書はすらすら読めるみたい」
「そうなのか」
俺は座り直しアイスコーヒーを飲んだ。
指輪が話し出す。
『鬼が帰って行ったわ』
『そうか』
『結界に触れて火傷して慌ててたわ』
『また来るだろうが放っておくよ』
『正体を知りたくないの? 強力な鬼よ』
『ああ、言わないでくれ』
『千尋が言ってたように呑気ね』
『悪意がないのはわかってるからな』
『それがわかってるなら黙っておくわ』
『楽しみは残しておきたいからな』
『楽しんでるの?』
『ああそうだ』
『わかったわ』
俺はアイスコーヒーを飲み干した。
「おかわりいる?」
絵本をラッピングし終えた千尋が聞く。
「頼むよ」
すぐに運んでくる。
「ねぇ、さっちゃんの事なんだけど、私は全ての怪異は見えるのにさっちゃんだけ見えなくなったのは理由があるの?」
「座敷童子は子供が何人かで遊んでいると、いつの間にか一人増えてる、でも誰もが誰かがわからないっていう妖怪だ」
「それは知ってるわ」
「そして座敷童子がいる家には幸運をもたらし栄える」
「それも有名よね」
「大人になるにつれ見えなくなるのは、座敷童子の意思で一緒に遊んだ子どもたちに見えなくようにする術を無意識にかけてるんだ、だから千尋にも見えなくなったんだ」
「そうだったのね、その術をあなたが解いてくれたのね」
「そうだ」
「ありがとう」
「気にするな」
「明日またさっちゃんのところに行ってもいい?」
「いいぞ、俺もおじいちゃんに術を見せて欲しいと言われてるしな」
そして次の日もおじいちゃんの家に上がり込んだ。
おじいちゃんが俺が木刀とかを持っているのを見て。
「ようやく術を見せてくれるのか」
と興味深く言った。
「ええ、約束してましたからね、ここで使うと家を壊しそうなので裏の雑木林に行きましょう」
「わかった」
千尋も。
「私とさっちゃんも付いて行くわ」
と言い、みんなで裏山に行った。
「何本か木を倒してもいいですか?」
「ああこの山もわしの土地だ構わんよ、しかし木刀が折れてしまうぞ」
「大丈夫です」
俺は跳躍し太い木を切り倒した、その後鬼や餓鬼を使役し木をなぎ倒したりした。別の式神も使い龍を作り出して見せたりした。
みんなが凄いと言う。
「わしはここまでの術は初めて見た、凄いものを見せてもらった、ありがとう」
と言い上機嫌になった。
みんなで屋敷に戻ると千尋は豪華なラッピングの絵本を座敷童子に渡した。座敷童子は嬉しそうに開けて四冊の絵本を取り出した。
「さっちゃんこれで暇つぶししてね」
「うん、ありがとう。おじいちゃんもおもちゃや飴をくれるから嬉しい」
俺はさっきからついてきている鬼の側に行き、肩に手を置いた。
「鬼よ隠れるのが下手だな、ずっと尾行してるのもわかってるんだぞ」
と言うとビクリとして固まった。
「ここで姿を見せるなよ、用事があるなら俺のマンションに来い」
俺は引き返しおじいちゃんと談笑した、千尋は座敷童子に絵本を一冊読み聞かせしている。
「君と千尋がわずかな金額で化け物退治をしているそうじゃないか」
「バレてました? お金のためじゃないんですがね」
「それも知っている、千尋を守ってやってくれ、君がいると大丈夫だとさっきわかった」
「千尋は守り抜きます、止めないんですか」
「止めはせんよ、これも因果じゃろう」
千尋は絵本を読み終えたようだ。俺は千尋の元へ行った。座敷童子が俺に話す。
「お兄ちゃん、鬼の匂いがしてる」
「大丈夫、連れて帰るから」
千尋も気付いてるみたいだ。
「優斗どうするの?」
「さっき鬼に俺たちのマンションに来るように話をした」
「そう、じゃあ帰りましょうか?」
「その方がいいな」
「座敷童子また来るよ」
「うん、気をつけてね」
俺たちはおじいちゃんに用事が出来たと言ってマンションに帰った。
「鬼は今日来るのかしら?」
「早ければ今日来るだろう」
アイスコーヒーを飲みながら一時間程経くつろいでいると、結界が破られた。
「千尋、結界が破られた来るぞ」
「わかった」
珍しく千尋は緊張しているようだ。
チャイムが鳴った。俺がドアを開ける。
中肉中背の二十代前半の男が立っている。
普通の服装だ。
「さっきはすいません、これ詫びの酒っす」
声も若く少し低い声だ、それに男前だ。俺は指輪に語りかけた。
『こいつが嘘を付いたら教えてくれ』
『わかったわ』
「鬼よとりあえず入れ」
リビングで座らせた、千尋がすぐにアイスコーヒーを三人分運んで来て座る。
「で俺に何か用事か? 茨木童子よ」
名前を呼ばれてびっくりしているようだ、千尋も驚いている。
「なんでわかったんです?」
「右腕の渡辺綱に切り落とされた傷を見たらわかるさ」
「流石はぐれ陰陽師だ、優斗の兄貴は詳しいっすね」
「腕はまだちゃんとくっついていないみたいだな」
「そうっす、よくわかりましたね。日常生活に支障はないっすが」
こつの話し方はイライラする。
「若者言葉は止めろ、普通に話せ」
「わかりました、すいません」
「お前は酒呑童子の一番の家来だったろ」
「そうです」
「お前は昔、悪事の限りを尽くしてただろ? 最近はしてないのか」
「はい、普通に山の廃寺で寝泊まりしてるだけです」
「改心したのか?」
「また腕を切り落とされるのは嫌ですから」
「人間社会に順応してるみたいだな」
「ある程度は、人間の友達というか知り合いも出来ましたし」
「そうか、二度と悪事を働かないなら腕をちゃんとくっつけてやろう」
「しません、腕を治して下さい」
「お前は鬼だから少し痛むが我慢しろよ」
「わかりました」
俺は腕に五芒星を描き術をかけた。
「痛いです」
「もう終わった、どうだ?」
「あっ、ちゃんと思い通り動く、ありがとうございます」
俺は疑問に思っていた事を聞く。
「で、どうして俺をつけていたんだ」
「凄い陰陽師がいると聞いて見てました」
「そうか、お前から見てどうだった」
「凄かったです、がしゃどくろのような巨大な化け物も簡単にやっつけてましたし」
「あれで五割の力だ」
「えっ、半分の力であんな戦いをしたんですか」
「寺が壊れると駄目だからな」
「流石です」
そろそろ本題を聞いてもいい頃だ。
「で、俺に会いに来た本当の理由を話せ」
「はい、酒呑童子の親分がいくら待っても蘇って来ないので何とかならないか相談にきました」
「酒呑童子は源頼光に首をはねられ死んだんじゃないのか?」
「そうですが……」
「ああ、化け物の類は死んでもまた土から蘇るんだったな」
「よくご存知で」
「酒呑童子の首は平等院の宝蔵にある、とり返したら蘇るんじゃないか」
「ええ、俺も何度か京に行き宝蔵に忍び込もうとしたんですが、警察と言うのを呼ばれて大変だったんです」
手は尽くしたというところか。
「悪いが俺がそうやっても警察に捕まる」
「そうですか」
茨木童子が肩を落とす。
「お前は大丈夫そうだが日本三悪妖怪の酒呑童子が蘇ったらまた暴れるんじゃないか? そうなったらまた争いが始まるぞ」
「そこは俺が説得させます。それに俺みたいに妖力がほとんど残ってないし」
「そうか」
「俺たちは普通に酒を酌み交わしながら暮らしたいだけなんです、昔もそうだったし」
「わかった、解決策がないか調べておいてやる、どれくらい時間がかかるかはわからんから期待はするなよ」
「優斗の兄貴お願いします」
「その兄貴っていうの何とかならんのか?」
「俺たちはどれくらい生きたとか年齢は関係ないんです、妖力が強い方が上なんです、だから兄貴です」
「わかったよ」
「茨木童子よ、聞くが俺に力を貸してはくれないか?」
「どういう事です? 俺の妖力はまだ復活してませんよ」
「わかっている、お前を使役した時だけ妖力を満タンにしてやるがどうだ?」
「わかりました、これからは兄貴を主として仕えます、いつでも呼んで下さい」
ようやく茨木童子は安堵の笑みを見せた。
「茨木童子よお前テレパシーは使えるか?」
「神通力って奴ですか? 少しなら」
「わかった」
「ところでそっちの姉さんもかなりの霊力がありそうですが兄貴の嫁さんですか?」
「まだ嫁ではない」
「恋人って奴ですか」
「そうだ」
「それと兄貴達から閻王のおっさんと牛頭馬頭の野郎の匂いがしてますがどういう事ですか?」
「ああ、ちょっとした知り合いってとこだ」
「へー、そりゃ凄いや。兄貴達の体の中の宝具は閻王のおっさんの宝じゃないですか?」
「わかるのか?
「俺くらいになるとわかりますよ、仏の力です、こりゃ俺が全力で戦っても勝てないや」
「そろそろ話はいいだろう」
「兄貴、兄貴が化け物退治する時付いて行ってもいいですか?」
「いいぞ、俺に仕えるんだろ?」
「そうです、今日は帰ります。腕ありがとうございます助かりました」
「お前歩いて山から来たのか?」
「はい、妖力がほとんど残ってないので飛ぶことも出来ないんですよ」
「少し回復させてやろう」
俺が術をかけてやった。
「力が漲ってきました助かります、じゃあ失礼します」
玄関を出ると飛び上がって山に帰って行った。
「疲れたな」
「私は少し怖かったわ、妖力増やしても大丈夫なの?」
「たった二割だ、心配する必要はない」
「私達に嘘を付いて利用する事はないの?」
「それも大丈夫だ、指輪に嘘を付いたら教えるように頼んでいたからな」
「だったら安心ね、それにしてもあんな伝説の茨木童子を配下にするなんて、それに目の前にしても堂々としてたし。私はあなたを見くびっていたのかもしれないわ、霊能力も私の数倍以上の力を持ってるのね」
否定も肯定もしなかった。
「俺たちは運命の二人だろ、どっちが欠けても駄目と言うことだ。心配ならゆっぴーに聞けばいい」
「わかったわ、茨木童子から貰ったお酒、毒とか入ってないでしょうね?」
「俺には霊力の宿った酒に感じるが」
千尋はラベルも貼ってない酒瓶の蓋を開けた、霊力が酒の匂いと共に溢れ出してくる。
「本当だわ、大切に保管しておきましょ」
俺は窓を開け空を眺め、じいさんに報告した。『よくやった』そんな声が聞こえた気がした。
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