第4話 勇者
「勇者様ー!」
「キャー!!勇者様!魔王討伐おめでとうございます!!」
「ゆーしゃさま!かっこいい!」
魔王を討伐して帰ってきた俺に向けられるのは尊敬の眼差し。これは非常に心地が良かった。
幼い頃に母に読んでもらった本『聖騎士物語』の主人公、聖騎士アスタ。
彼のような神に仕える正義の騎士になりたいとずっと思っていた。
聖騎士アスタは反逆者を倒した後もクロノス神に仕え、正義を生涯貫き通した。
だから俺も勇者として、魔王を討伐したからといって調子に乗ることはない。
俺の目指すべきは正義なのだから。
城に入ると王様自ら出迎えてくれる。
「勇者カインよ、よくぞ魔王を倒してくれた。国を代表して礼を言わせてもらう」
「いえ、皆さんのご協力があってこその勝利です」
そう言ってから勇者の表情が曇る。
「アルテナの連中はなぜ、魔王の討伐を拒否したのでしょうか?彼らほどの実力があるなら、正義のために使うべきなのに!」
「やつらの考えていることはわからぬ。が、やつらなりの考えはあるのも確かじゃろう」
国王は特に表情を変えることもなく淡々と言い放つ。
それでも勇者は納得がいかないようで、なおもアルテナに対する不満を語った。
「俺は力は正しく使うべきだと思う。アルテナの連中は力を自分のためだけに使っている。それは正しいとは思えない」
「‥‥‥」
熱弁を振るう勇者に国王は何も答えなかった。
そして、翌日。
凱旋パーティーで王都中を回ったあと、演説をしている時だった。
「勇者様!是非、アルテナを倒してください!」
そんな声が聞こえてきたのだ。
そして、その声を境に至るところからアルテナに対する不満などが溢れ出してくる。
これで勇者の心は決まった。
「安心しろ!この俺がアルテナを潰してみせようではないか!」
そう言うと大歓声が響き渡る。
これだけの民が望んでいるのだ。
アルテナという「悪」を滅ぼすことは勇者に相応しい正義の行いだと確信する。
熱狂的な歓声をあげる観客に手を振り、演説を終える。
「正義の邪魔をするものは滅ぼさなければならない」
彼のその呟きは誰にも聞かれることはなかった。
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