第2話 始まりの日 前編
「レベル200を超えてはならない」
これはこの世界に生きる人にとっては常識だ。
1000年ほど前、レベル200を超えた人が突如として暴走をはじめ、いくつもの国で大きな被害がでたことがあった。
それに際してクロノス神からの神託が下されたのだ。
それ以来レベルが200を超えた者はいない。
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王国南西部に位置する街デルトに産まれたルドラは幼い頃から先頭において類稀な才能を発揮し、神童と呼ばれていた。
15歳で騎士団に入ると、数ヶ月で一部隊を率いるリーダーとなり、2年後には騎士団長に次ぐ立場になった。
ルドラは正義感が強く、仲間を大切にしており、魔物が出れば真っ先に飛び出して倒していた。
それを繰り返すことでルドラのレベルは二十歳に満たないうちに150を超えていた。
本人はギリギリまで戦い続けるつもりだったが、周りが必死に止めたことで現役を引退し、指揮に専念する騎士団長となった。
それから数ヶ月が経った頃だった。
デルトの街にドラゴンが現れたのは。
最初は指揮に徹していたがドラゴンは強く、自慢の部下たちも次々と倒れていき、そう遠くないうちに街まで侵入されるであろう状況だった。
住民の避難はまだ終わっていない。
このままいけばドラゴンによって多くの住民にも被害が及ぶだろう。
そんな状態を眺めることしかできない自分が悔しかった。
その時、ふと騎士団にに入った時のことを思い出した。
‥‥‥
‥‥
‥
ルドラが騎士団に入ったきっかけは、前任の騎士団長に助けられたからだ。
ルドラは10歳から冒険者を始めた。
神童と呼ばれただけあって、あっという間にランクを上げていった。
それで調子に乗っていたのだろう。
当時Cランクだったにもかかわらず、Bランク以上の制限のかけられた森へと侵入したのだ。
その森は強力な魔物が多く生息すると言われていたが、ルドラはそれらの魔物をものともせず、1時間でBランクの魔物を三体倒すことができた。
これで自分のランクが上げてもらえると思い上機嫌で帰っている途中、右腹に凄まじい衝撃を受けて吹き飛ばされた。
その衝撃の正体は気配を消して奇襲するタイプの魔物で、後から知ったがこの森の最強の魔物の一角だった。
ルドラはバトルセンスこそ神童と呼ばれるにふさわしいものがあったが、気配を感じ取ることなどは年相応の能力しか身につけておらず、その魔物の接近に気づかなかったのだ。
初めて感じる痛みや恐怖に混乱してしまい、その魔物から逃げることもできなかった。
そして戦闘でも思う通りに戦えず、徐々に追い詰められていった。
そこに現れたのが当時の騎士団長だった。
彼は傷を負いながらも魔物を撃退し、ルドラを背負って森から抜け出した。
そして、ルドラは初めて本気で叱られた。
ルドラは騎士団長のおかげで自分の行いを反省し、ギルドに勝手な行動を自己申告した。
幸いにも大した処分は受けなかったが、ルドラの心は大きく変わった。
その出来事がきっかけで、自分を犠牲にしてルドラのことを助けてくれた騎士団長のように、他人も守れる騎士になりたいと思ったのだ。
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当時のことを思い出してルドラは自嘲するように笑った。
当時の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか?
大切な部下や守るべき民が犠牲になっていくのに未だ動けないでいる今の自分は、あの時憧れた騎士の姿とかけ離れていた。
覚悟を決めたルドラはこっそり指令室を抜け出して戦場へと向かい、激闘の末、撃破することに成功した。
その日の夜遅く。
ドラゴンを撃退したルドラは1人で魔の荒野に向かっていた。
伝承に残っている通り、自分は間もなく暴走を始め、多くの人々を巻き込んでしまうだろう。
その中には自分が命をかけて守り抜いた民も含まれる。
それではルドラが戦った意味がない。
そして、ルドラの取った選択は、人類を脅かす魔物が蔓延る魔の荒野で少しでも多くの魔物を道連れにすることだった。
まだ誰も知る由もない。
このルドラの選択が世界を変えることを。
運命の出会いがまもなく訪れる。
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