アルテナの反逆

仮の英雄

一章 勇者編

第1話 プロローグ



「おい、聞いたか?勇者様が魔王を倒したみたいだぞ!」

「魔王は偉大なるクロノス神に仇なす者だ。神罰が降ったに違いない!」


彼らの心は魔王を倒した勇者に対する憧れと神への信仰心に満ちている。


「それにしても、アルテナの連中は魔王の討伐依頼を拒否したらしいぜ?」

「前の魔族領侵攻作戦もあいつらの邪魔のせいで頓挫したらしいぞ」


次にアルテナという組織とそのマスターであるルドラに対する不満が溢れる。

彼らからすれば、神敵である魔王の討伐を拒否するなど信じられない暴挙だ。


「だが、アルテナももう終わりだ。勇者様があのような連中をお許しになるはずがない!」

「そうだ!勇者様なら必ずやルドラをも倒してくださるだろう!」


——勇者様は我らの希望なのだから。


みんなが声を揃えて言うと笑い出す。

誰もが信じて疑わない。

勇者様は最強の存在であると。





同刻、アルテナ王都本部にて。


「クレア、勇者は無事に帰ってきたらしいな」

「そのようですね。王都ではまもなく凱旋パーティーが行われるようです」

「だってさ。どう思う?エルシア、いや、魔王様?」


ルドラが笑いながら声をかけた人物、エルシアは勇者によって倒されたとされている魔王であった。

なぜ、魔王がここにいるのかというと、


「ふん、あんなやつにわたしが負けるはずがないでしょう」


魔王エルシアは苛立った様子で吐き捨てるように言った。

それも当然だろう。

誇り高き魔族の王たる自分が勇者などという雑魚に敗れたことになっているのだから。


「まぁいいじゃないか。納得はしてくれたんだろ?」

「それとこれは別よ!どうせなら貴方みたいな強者に負けたことにしてほしかったわ」


ルドラが、勇者が魔王を倒したという設定をつくったのには訳がある。エルシアもそれを承知して話に乗ったのだが、それでもやはり我慢できないのだ。


「ルドラ、本当に大丈夫なんでしょうね!?」

「アリアか、大丈夫だ。俺を信じろ」

「ルドラのことは信じてるわよ!でも、不安なのは仕方ないでしょう?」


次に赤髪の美少女がルドラに迫る。

彼女はルドラを疑っているわけではない。

いや、彼女のみならず、アルテナに所属する者全員がルドラに絶大なる信頼を寄せているのだ。


「ルドラさんは俺らにとって恩人なんだ。どんな危険があろうと、ルドラさんが決めたんならついていくぜ」

「私もです。もし、あの時ルドラさんに会えなかったらと思うと今でもゾッとします。それに、ルドラさんへの恩返しもまだ終わってません」


口々にルドラへの信頼を語る仲間たちを見渡す。

誰もが力強い眼差しでルドラを見つめている。


「わかった。みんな、戦いの時はもうすぐ訪れる。この世界の平和のために必ず勝つぞ!」

『おぉ!!!!』


盛り上がる一同を満足気に見守ると一言呟く。


「お前の思い通りにはさせんぞ、クロノス」

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