駅でピアノを弾いている少女【300字小説】

なぎらまさと

駅でピアノを弾いている少女

 仕事帰りに、少女が駅ピアノを弾いていたので立ち止まった。

 近くでは若い男女が会話をしている。

「帰り道に春ちゃんと会えてラッキーやったわ。そろそろ俺と付き合ってや、なぁなぁて」

 甘えたように嘆いているのが微笑ましい。

「春ちゃんも本当は俺のこと好きなんやろ? 素直になった方が楽やで」

 女の子はうーんと言いながらも楽しそうだ。

 そのうちふたりは去っていった。


 僕はピアノを弾き終わった少女に、いま弾いていた曲を尋ねた。

「全部ブルグミュラーの練習曲だよ。『帰り道』『あまいなげき』『すなおな心』」

 なんとさっきの男女の行動と一致している。

 まさか少女の特別な能力がふたりを導いたのか?

「それと最後に弾いたのが『別れ』」

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