第31話 聖なる力、放ちます!
「破壊魔法、
奇襲。
俺は闘龍バトルドレイクに騎乗したまま、右手に魔法力を蓄えた。
一瞬にして発動容量を満たしたそれを使って、俺は目の前の勇者軍の先頭を立つガルマ目がけて破壊魔法を打ち込む。
奴はまだこちらに気付いてはいない。
横撃する形で、坂を急降下している俺たちとは裏腹に、ガルマは勇者軍を束ねてドルゴ村をまさに横断しようとしている最中だった。
俺の手から破壊の能力を持った蛇が射出される。
「む」
が、ガルマは冷静だった。
魔法の反応を感知したのか、奴はすぐさま俺たちの方へと向き直って障壁を展開したのだ。
勇者軍全体を包み込む、優しい光魔法の障壁は、俺が発した破壊蛇をいとも容易く霧散させていく。
「……ッ!!」
俺は闘龍の手綱を握って、ドルゴ村の門の前に立つ。
「ほぅ……。君は確か、『ディアード』の」
優男の奇妙な笑みが俺を刺す。
「っぎゃぁぁぁぁ!?」
「ど、どっから湧いてきたてめぇら!!」
「ガルマ様! 挟撃です! 師団長配下の私兵と『吸血姫』キャロル・ワムピュルスの軍勢が押し寄せて――っがぁぁぁ!?」
ガルマの後方から飛んでくる声。
俺の前に対峙したガルマは一切目線を外すことなく告げる。
「慌てるな。こっちはこっちで今面白いことになってるんだ。そっちは自分らで対処できるだろう。誇り高き勇者軍の本軍を担うほどの実力者揃い。クシオール王国の代表として、敗北は恥と心得よ」
『――ハッ!!』
ガルマ・ディオールの檄が飛ぶと共に、完全に押されていた勇者軍が息を吹き返す。
「……ッ!! 私はこっちで手一杯! あとはエリクちゃん、よろしくね!!」
勇者軍をガルマから引き離すように、キャロルはオーデルナイツの街を疾走する。
ドルゴ村の前に残ったのは、俺とガルマの二人だけとなった。
「まさか、君が
「にしては、全く驚いた素振りはみせないじゃないか」
俺の言葉に、ガルマは頷かなかった。
遥か彼方、オーデルナイツの町中から少し離れた場所で戦闘を繰り広げるキャロルとガルマの両部隊。
俺を一人で対処できる自信があるのか、ガルマは身の回りに兵を置かずにふっと笑みを浮かべる。
「聖剣――《レーヴァテイン》。久々に悪を屠れる良い機会だ。君もぼくに《レーヴァテイン》で殺されていくことを誇りに思うといい」
そう、澄ました顔でガルマは腰から剣を抜いた。
鞘から出るその刀身は、白く不気味に輝いている。
勇者軍からしてみれば、あの程度の光はむしろ温かくて心地の良い光だろう。
だが、俺たち魔族からしてみればおぞましいものでしかない。
その光が俺の目に入るだけでも頭がくらくらしていく。身体が、細胞が、魂までもが
「クシオール王国史上二人目の女勇者にして、かつて最凶最悪の魔王を屠ったとされるこの剣。魔王と相打ちしてまで倒したクシオールの英雄の剣を、上層部がぼくに渡したということは、
――一閃。
軽く振り下ろしただけの刀身から、聖なる波動が放たれる。
魔物の部類に属するバトルドレイクの毛並みが一気に逆立った。
「ぐっ……!?」
持っていた手綱を無理矢理引っ張るかのようにして方向転換を図ったのはバトルドレイク。
奴の一振りで、あの剣が、そしてあの剣を平気で使役できているガルマの力を見定められたのだろう。
「ここまで、助かった。後は任せてくれ」
俺はバトルドレイクの背から降りて正面を向く。
「大隊長クラスの首でも挙げれば、士気も上がる。君を戦果の口火とさせてもらおうかな――ッ!!」
直後、ガルマの聖剣に聖なる光の力が宿り始める――。
『エリクちゃん、これ持って行っとき』
ここに来る前、フラン師団長からは一本の直剣が俺に渡されていた。
『
しれっと渡されたそれは、魔王軍の中でもトップクラスの宝剣だ。
人材はくれなかった分、勇者に立ち向かえるくらいの力はくれたということだろうか。
「――悪いが、俺もそう易々とくたばるわけにはいかないんでねッ!!」
だからこそ――。
「うぉぉぉぉぉおおおおおッッ!!」
俺は
「魔族らしい不吉な刀だ。正義の名の下に、粛正させてもらおうかッッ!!」
ガルマが大胆にも大上段から聖剣を打ち付けてくる。
俺はその場から動かずに、ぐっと足腰に力を入れた。
「――ッッ!!」
「……ほぉ」
聖と魔の力がぶつかり合い、二人の剣のぶつかり合いから暴風が吹き荒れる。
魔族にとって天敵である聖の力は俺の作り出した魔剣にぶつかり反発し合っている。
剣に近い腕には白い光が降り注がれて蒸気さえも発する中で、聖剣を打ち付けたガルマは涼しい顔のままだった。
ガルマは打ち付けていた聖剣を離して、聖なる力を宿して構え始める。
俺とて、先の一撃で簡単にやられるわけにはいかない。
聖剣と魔剣が打ち合えば、お互いに込めている聖力と魔力は空中に霧散していく。それが先ほどの瞬間的な暴風だ。
これを、並大抵の奴が食らえば即死するだろう。何より、ドルゴ村にいる人たちにとっては、聖力も魔力も毒でしかない。
ここからは、俺と奴の体力勝負なのだ。
何度も何度も互いの剣を打ち付け合う。
それでも剣は少しも摩耗する様子はない。
俺の腕は、聖なる力に充てられてぶすぶすと焼け付くような痛みと共に消滅の蒸気が吹き上がる。
ガルマも、俺の魔力に充てられて吹き出る汗からは紫色の毒気が感じられていた。
両者の鍔迫り合いと豪風が続き、辺りの草花が聖力と魔力の散らし合いでしおれていた、その時だった。
「な、一体何が起きてるんだい……?」
迂闊にも、俺はドルゴ村から出てくる老年の村長の姿を見てしまった。
「待て、今来たら――!?」
「……甘いっ!」
ふと後ろを向いて村の方へ顔を向けたその時。腹に焼け付くような痛みを感じる。
同時に、意識が刈り取られるかのように視界がぐらりと揺らいだ――。
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