第14話 策士キャロルの、出番です!
冒険者ギルド『ガードナー』の片隅にて作戦会議をするパーティーが二つ。
「まずは自己紹介からかな。『シャッツ』のパーティーリーダー、クセルだ。こっちの太ったのがオルマン、筋肉質の奴がアイラドだ。みんな剣士やってるからパーティーのバランスはお世辞にも良いとは言えないかな」
細身の男のリーダー、クセルは「あはは」と困ったような笑みを浮かべた。
「……シャロル」
「――っておいお前それだけかよ!? えっと、俺は……ファルク……だ。俺は特殊な魔法が少々使えるくらいの……魔術師、こいつが少し治癒を使えるくらいだ」
咄嗟に偽名を使う辺り、用心深い。
俺、完全にちょっとテンパったぞ……!
「なるほど、まさにぼくたちのパーティーに足りない要素を持ってるんだね、2人は。ますます誘っておいて良かったよ」
一応の営業スマイルを浮かべる俺だが、まさかキャロルがここまで内弁慶の奴だとは思ってなかった……!
いや、確かに入隊直後のこいつは取っつきにくかったのは確かだが――。
そんなキャロルは椅子の上で身体を丸めて、俺の服袖をぎゅっと握っている。
「じゃあ、簡単に今回の共同戦線の説明をさせてもらおうかな」
そう言ってリーダーのクセルがこの区域の地図を開いた。
南には勇者領クシオール王国の土地が広がり、北には魔王軍領が広がる。
地図の北最果てには魔王軍領における絶対的象徴である魔王城が、領全体を見渡すほどの巨大さを占める。
そこから各土地に小さな魔王城支部を設置して即時連絡を取れるように城間の綿密な交通網を敷いている。
勇者領と魔王軍領のちょうど境目に位置するオーデルナイツには、新たに設置された巨大ギルド『ガードナー』。
ほんの数年前に出来たこのギルドのせいでこ最近は一気に互いの均衡も崩れ去ってしまっている。
本来、『オーデルナイツ』には互いに巨大建築物は作らないことを暗黙の了解としていた1000年の
1000年もの長い間闘争を繰り返していると、自然と互いに不都合なことは互いに黙殺することが多くなってきていた。
いわゆる、戦争のマンネリ化とも言える。
それでも勇者、魔王軍間の闘争によって生活が成り立つようになった者も多い。
突如戦争を止めてしまうと路頭に迷う者が極端に多くなってしまう問題もある。
だからこそ、1000年もの間紛争が続いていたのだ。
魔王軍側が突出しすぎても、勇者側が突出しすぎてもその絶妙なバランスは大きく揺らいでしまう。
そんな不文律を無視したのがこの『ガードナー』の存在だ。
勇者側の攻勢が激化し、魔王軍もその対応に追われた。
戦闘もますます過激さを増してオーデルナイツを大きく巻き込むことも増えてしまった。
ここに来ての勇者側の一気攻勢で魔王軍側は一時大きく兵の数を損失したものの、各所に配置した強力な魔物で侵入を凌ぎ、その間の統率系統の回復によってその数を取り戻しつつある。
――が、今度は緊急的に各所に配置した魔物が野良化、自然繁殖して勇者領やオーデルナイツを蝕んでいる始末だ。
勇者側は、俺たちとの闘争の他に野良化して制御できない魔物の討伐問題も噴出したのだった。
まぁ……そりゃそうなるよな。
そんな思案を続ける俺に、クセルはオーデルナイツを少し出た第一の城を指さした。
魔王軍領における、対勇者に特化した最前線の城だ。
「今回、ガードナーからは第2次大規模攻勢の計画が浮かび上がってるんだ。3年前は魔王軍領最前線の支部、ガルファ城に阻まれたけどね……。今はあの時とは戦力も段違いに違う。決戦の日に備えて、中央からは名の売れた勇者がやってくるしね」
決意を込めたクセルの表情。だが、後ろの二人の顔は暗い。
「……前の大規模攻勢に、皆は参加したの?」
ふと、今まで背中を丸めていたキャロルが呟いた。
キャロルは、先の大規模攻勢で大きく名を上げた内の1人だった。
吸血鬼という珍しい種族なことに加えて卓越した回復能力。
勇者と闘うために戦場を駆け回るというよりは、ひたすらに後方で怪我人を治癒してまわっていた姿は記憶に新しい。
当時、闘わずして皆の記憶に残って2段階昇格を果たしたキャロルは、まさに魔王軍領防衛の要だったとも言えよう。
俺はといえば、あの時はまだガルロックの元で下っ端の下っ端として戦場を駆けずり回っていたな。
ガルロックの持つケルちゃん、ベロちゃんになぜか追いかけ回されたのは今でも解せん。
あれは裏でガルロックが何か吹き込んでたんじゃないかと思うほどに。
「ぼくたちは今回が初めてだよ。でも、ぼくたちは本戦には参加しない。ぼくたちの役割は前哨戦での活躍って感じかな?」
「……前哨戦?」
「あぁ。魔王軍支部城の周りをうろつく魔物を討伐しておく部隊のことだよ。先にぼくたちであらかた倒しておけば、次にあっちの軍が魔物を配置できるのにはおおよそ3週間の時間がかかる。いつものような小競り合いと見せかけて、2週間後の本戦で一気に蹴りをつける。その第一陣を賜ったのが、ぼくたち『シャッツ』ってことさ」
「それに、私たちも……参加できるの?」
ずい、と顔を煌めかせたキャロルに、クセルは笑った。
「あぁ。本来は前哨戦でも、C級以上のパーティーしか参加出来ないんだけどね。ぼくがガードナーに推薦すれば、君たちでも充分参加出来るよ」
「あ、ありがとう! 頑張ろ! ね、ファルク!」
先ほどと打って変わって嬉しそうな無邪気笑顔を浮かべるキャロル。
「あ、あぁ……はは……」
一応見た目は美少女のコイツにこんなこと言われてみろ。今の見た目と言動なら多分惚れる。
現に、クセル、アイラド、オルマンもデレデレのように頬を紅く染めている。
「話が早くて助かるな。魔術師と治癒……ファルクと、シャロル。これからちょっとの間だろうけど、よろしく頼むよ」
キャロルは、屈託のない笑顔を浮かべた。
当然、その裏の顔をこの『シャッツ』は知る由もないのだろうが。
というか俺今日、休暇日だったよな……?
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