エナン遣いは旅に出る。
迅な_シスターズ
#1旅立つエナン遣い
私は昔から魔女に憧れていた。
とにかくかっこよくて、あとかっこよくて……と、こんな風に語彙力を失うほどには好きで憧れていた。
ただ、"魔女(魔導士)"になるにはそう簡単ではなく、まずは魔法を学ぶために学校に4年間通い、そして試験を受けてその試験に合格してようやく準魔女(魔導士)となる。準魔女(魔法使い)とは、魔女(魔法使い)の1つ前の段階で、世間的にはまだ魔女ではない。
そうして、ようやく準魔女(魔導士)になったら次はら自分が使いたいと思う系統の属性の魔女(魔導士)のところへ行って弟子入りをしなければならない。その弟子入り期間は魔女(魔導士)によって様々で、短くて1ヶ月、長くて2年なんて魔女(魔導士)もいるそうだ。
……と、ここまでかっこつけましたが、要するに、"魔女(魔導士)"は凄い、ということが伝われば良いのです。
そしてそんな私も学校に入れる年、10歳!……をとうに通り越して14歳……。なぜ学校に入らなかった、いえ、正しくは入れなかった、ですね。その理由は、私の家にそんな余裕がなかったからです……。これはどうしようもないですね……。
なので、私の親が代わりに提案したのが"旅"でした。
旅で色々なことを学びなさいとのこと。……費用がそこまで掛からないのもあるそうですが。
つまり私に野宿しろってことですか!?年頃の乙女になんてことを!って思ったのですが、"可愛い子には旅をさせよ"という言葉が極東の国にはあるそうで。私はそれを訊いて納得してしまいました……。
あ、私は可愛くありませんから!
さて。そんなことを考えながら旅の準備をしていたらあっという間に終わってしまいました。まぁこれは安易に予想できていたことです。何故ならこの一家の中で旅に出るのはこれが初めてじゃないからです。
そう、私の姉が既に旅に出ています。なんなら魔女です。その名も"銀朱の魔女"です。カッコいいです。弟子入りしたいくらいですが、私が学びたいのは炎系統ではないのでしません。
それはさておき。
名残惜しいですが、そろそろ出発の時間です。この家とも、家族とも、しばしのお別れです。
と、私が別れを惜しみながら自分の部屋から出ようとすると、お母さんから声が掛かりました。
「忘れ物はない?」
「当然です!14歳ともあろう者が忘れ物なんて恥ずかしい」
しかし、私はそこで気付きました。重大な忘れ物に……!
お母さんに見つからないように回収しなければ……。
そう思ったのも束の間。なんと妹が最悪なタイミングでそれをもってきてしまったのです!
「リスねー。これ忘れてるよ〜。ぬいぐるみのリスリィ」
有難いというかなんというか……。
「あっ忘れてなんかないですよ。何故なら持っていきませんから」
ついつい見栄をはりたくなってしまいます。というかこの年でぬいぐるみって……。私は子供ですか!
「でもこのリスリィないと寝れないんでしょ?特に知らないところで寝たりするんだから」
ごもっともな意見です、私の妹ことムーナ。
「持っていくの?置いていくの?どっち?」
「……」
私は無言でそれをバッグに入れます。
「一応ですからねっ!」
「はいはい」
と、お母さんに軽く流されてしまいました……。
本当に一応ですよ?
「最後に忘れ物チェックしてあげるよ、リスねー」
流石私の妹です。気が利きます。
「はい!お願いしますね!」
「じゃ、いくよ〜。……衣服、下着類、地図、食料類、飲み物」
「ちょ、ちょっと早いですよ!」
ムーナのペースが思ったよりも早かったので止めました。私には追いつけません……。
むむむ。よく見るとムーナがメモ用紙を持ってるではありませんか。
「私がそのメモを使って一人で確認した方が効率が良さそうなので、そのメモを貸して下さい、ムーナ」
「えー。しょーがないなぁ」
私はムーナからメモ用紙を受け取ると、手早く忘れ物チェックを済ませました。……これで完璧ですね。
と、そこでムーナが私に問いかけて来ました。
「あれ?リスねー、魔女ハットは?」
……一番忘れてはいけない物を忘れてました。
「取ってきます!あと魔女ハットじゃなくてエナンです!」
私はそう言って急いで自室へ向かいました。……このエナン、というか大体の魔女ハットは、元のエナンよりつばが大きかったりしますけど。
私は、帽子掛けに掛かっているエナンを頭に被ります。
やはりこのエナンが一番ですね。落ち着きます。……っと。こんなことをしている場合ではありませんでした。玄関に戻らなければ。
今度は、来た道を引き返して玄関に戻ります。
そして、私が玄関に到着するや否やムーナが、やっぱりリスねーには大きいよぉと言ってきました。
「大丈夫です。これから出発する旅が終わって、帰ってくる頃にはきっとカッコいい魔女になって、このエナンもしっかり似合ってることですから」
私はそう返します。当然です。私はきっと立派でカッコいい魔女になって帰ってくることでしょう。……多分。
「アリステラ。そろそろ出発しなさい。あまり出発が遅いと、今日の内に他の国に着けないわよ」
「そうですね。そろそろ行くとしましょうか。……ムーナ、しばしのお別れです。私がいないからって、泣いたりしないで下さいね」
と、私は少し期待を込めて言ったのですが……。
「え?なんで泣くの?」
妹から返ってきたのは辛辣な答えでした……。
「私のこと心配してくれないんですか!?」
思わず聞き返してしまいました。
「そりゃ多少はするよ。でも泣いたからってリスねーが帰ってくるわけでもないし。水分の無駄遣いだよ」
「あらそうなんですか……」
私は呆けた返事をするしか出来ませんでした。
流石にびっくりです。ムーナが泣いてくれないなんて。
「ささ、行きなよ、リスねー」
「……そうですね。では行ってきます!ムーナ、お母さん!」
「リスねー、いってらっしゃい!」
「アリステラ、気を付けなさいよ!いつでも帰って来ても良いんだからね?」
「はい!」
私は、ムーナとお母さんに力強く答えました。
新たな旅の始まりです!
「あ。リスねー、ほうき!」
……私は無言でムーナからほうきを受け取ります。
気を取り直して……新たな旅の始まりです!
「幸先悪くない?おかーさん」
「しっ!」
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