鬼の末期

鬼は欲張りだった。

東に宝があれば奪いに行った。

西に美女がいればさらいに行った。


鬼は強かった。

いかな名刀もへし折る体を持っていた。

山を持ち上げる力があった。


鬼は飢えていた。

大樽に入った酒を飲みほしても酔わなかった。

千の皿を空にしても腹をすかせた。


鬼はわからなかった。

花を愛でる気持ちを。

別れを悲しむ気持ちを。


鬼はただ生きていた。

死んでいないだけだった。


ある日、どういうわけか鬼は死んだ。

死ぬとき、鬼は言った。

「ああ、やっと終われる」


鬼は笑って寂しく死んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る