30-挨拶
「久しぶり」
顔色の良い妻、カトレアに迎えられた。既に寝衣の姿で
とっくに面会時間は過ぎているが…そこは融通をきかせた。
「会ってくれて嬉しい。」
“気持ちを伝えるのも大事”そう教えてくれたのは彼女だった。
「ふふっ急がしいのは貴方の方でしょう?」
「…そうだな。」
違和感があったがベッドの側に、座った。
「お茶を出しましょうか。」
「ああ。いいな。」
夜に酒ではないものは久しぶりだ。出されたのは、紅茶でないらしい。
「珍しいな。」
「ハーブティです。私はミルクを入れて飲むのが気に入ってます。」
寝る前に飲んでいるようだ。香りに渋さも癖も少なく、飲むと甘味もあった。
「落ち着く味だ。」
「セリの知り合いの、商人から買ったの。」
「ああ、人間の商人が居たな。」
香りの良さとリラックス効果から人気のハーブティらしい。
最近の話を聞くと、兎獣人の子と交流があるらしい。
兎というと…騎士の男が思い出された。親戚の女の子が医療棟にいると聞いてたがその子だろうか?
仲良くなっていたようだ。
歩く姿もしっかりしている。体調も安定しているようだな。
「なかなか、会いに行けなかった。」
少し後悔している。
「眠っていると言われたり、体調が良くないとなかなか会えず、足が遠のいてしまった。」
呆れられたかと思い、顔を見やると驚いた顔のカトレアが居た。
「私は、貴方がきたら通してって…」
相違が浮かんだ。その夜は、夜が深まってからも話合いをした。
朝。
目が覚めたセリは、部屋が薄ぼんやりと明るくロードが寝ているのに気づく。珍しく自分より遅い目覚めロードを見たが…
(まだ朝早いのか)と気づいた。
いつもであれば、再度寝てしまうが今朝は借りた本が気になって起きる気になった。
そっと掛けられていた布団というものから出て、入り口に向かうところだった。
「んっ?」
腰にガッチリとロードの手が回っていた。
「まだ早いぞ」寝起きの眠そうな声に、宥めるようにロードの頭を撫でていった。
「寝てていいよ?」
1人起きて、読書しようと思っただけだ。
戻された。
ぎゅむっと密着した温かさは、平時なら眠気を誘うが今は本のが良い。
「起きるー」抵抗はした。ロードの手は寝かせつけにかかっている。
ソワソワとした気持ちに、本への渇望感。
「起きるのっ!」少々乱暴にしても、ロードはびくともしなかった。
不服に唸っていると、背中をぽんぽんされても抵抗した。
フゥと息つくと、ロードがセリを抱えて起き上がる。
「うわっ」突然の浮遊に驚き縮こまる。のそのそと移動し
本の元へ連れて行ってくれた。
「ありがと!」
早速手にして、うっすら明るい窓際で読み始めた。
ロードはその様子を見てから、身支度に行く。
まだ肌寒い朝に、何か温かいものをセリに飲ませようと
ミルクを温め、花の蜜を入れることにした。
「アラ?まだ寝衣ね。」
「起きてから、ずっと読んでる。」
「食べてない?」
「ミルクを飲んだだけだ。」
シュルトとロードに声にも、夢中になっているセリは気にも止めない。
「キリがついたら休憩させて、ブっつ続けは身体に悪いワ。」
経験談というより、そういった傾向にある者への対処に慣れていそうだ。
セリの興味を惹き、身支度させるのに成功した。
朝食を出しながら、本の内容を聞く。
「数は採れるから、売るのには向かない薬草ネ」
商人ならではの事情に、
いつの間にかいたカナンは、使用感の話。
「味がマシな薬草があるからそっちを使うわ。」
獣人は特に匂いは気になる部分らしい。
ロードとも話しているだけ大丈夫だろう。
本にだけ意識が向けば、構って欲しいと邪魔をする。そんなことをすれば嫌われるのに。
セリみたいに集中するタイプは、存分にやらせいておいて無理しない程度に介入するのが良い。ロードも覚えるだろう。
2人の仲違いは回避した。悪化した時を想像すると…少し冷や汗をかいたのは、シュルトの中で隠しておこうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます