7-部屋飲み

貴賓室、ロードとセリが利用する部屋に戻ってきた。


「ふぅ」とセリが息をつく。

知っている人でもお偉いさんとの食事は疲れたのか。


「お腹いっぱいで眠い。」

いいや、食べ過ぎだった。セリ用に皿の食事の量が調整してあっても

コース料理は豪華だった。


ダラリと身を預ける身体をロードが支え、カナンがポンポンと頭を撫でる。ロードに睨まれるまでが、セットだった。


「ホラッ、座って。」

シュルトが勝って知ったる部屋のキッチンで

“食べ過すぎにスッキリするジュース”

を出した。


シュワっとするそれが、喉を潤す。

ちょっと目が覚めた。



祝勝会のように、乾杯果実水を用意してくれた。

シュルトにお疲れ様とねぎらわれ。


興奮気味に模擬戦を振り返る。

「魔力を纏っても、力勝負は無理だった。」


「獣人に力勝負は、難しいなあ。」

「動けないよう、魔法を使うのが定石だな。」


「氷魔法で、足を狙う?」


セリは水魔法が熟練しているが、攻撃に使いづらい。

試しに氷魔法を出すと…


コツン


“アイスバードの涙”くらいの大きさだった。

「難しい。」


氷の魔法はやれる・やれないが分かれやすい魔法だ。


「これじゃあ、飲み物にも使えない。」

「俺も無理だぞ?」


ロードを見ると、すぐに魔法で手元のグラスを凍らせた。

バキパキッ

手まで覆いそうな放射状の氷の塊が出現した。


制御はできているので、手はグラスから離れた。

氷の置物が机の上に置かれる。


削れば使えるだろうか?


「酒に使えるくらいになるといいな!」


置き物のような氷の塊、小粒な氷が一個。

ロードのが先に、作れそうだなと思った。


「イイわね〜。冷凍食品を作り放題ネ!」


シュルトが商人らしい発想をした。


カナンとロードを褒めるセリ。

模擬戦の話になった。



「酔っ払って上機嫌な感じだった!」


揺らめく魔力の中

炎の揺めき


ただし酔ったような不安定さをそう評した。

「気が大きくなっている?みたいな」そう感じた感想だった。


「酔っ払い…。」

カナンは何か飲み込もうとしている。一応褒めている?が、素直に受け取れない。


伝わっていないと分かり、セリは飲み物を置く。

カナンの前に立ち

「すごかったよー」

わしゃわしゃと撫でて褒める。


子供扱いではない、最上級の親しみと褒めているのだが

カナンは赤面した。


(獣人にこれはない。恋人同士

いや子供だし違う!)

総動員して、落ち着きを繕う。綻びに尻尾が振られる。


この真っ直ぐな賛辞は慣れない。


間に割って入り、ロードがずいっと顔を近づける。


「頑張ってたよね?訓練場は壊さないように。」

今度はロードを褒める。


実際の模擬戦は、霜がおりて見えなかったが。

せっかくの秘密の地下を壊すのは忍びない。崩れてしまわないか心配だった。


「問題ない。」


ちょと間のある返事であったが、優秀な修復技術を持つ技術者が

ついでに点検、魔法の貼り直しを行うのが例年通りで…


『壊してしまった方が楽』とまで言われていた。


防刃もあり、無傷の勝利。


番にかっこいいところを見せたかったが

(軟弱な魔導具だった)


たとえ、頑強でも凍れば見えないと気づいているだろうか?


不意打ちに、キスを受ける。


頬へのキス

セリがロードへを贈った“勝利のお祝い”



何が起こったか?

秒で把握したロードが、セリを抱えて寝室に入りそうなのを、必至に止めたカナンは仕事を果たした。


シュルトも動き、セリを避難させて思う。

(ロードを止める役は必要だが、どうなるのカシラ?)


カナンの褒賞の件だ。

このポジションを気に入っているようだから、離れる選択はしないのではないかと予想していた。


そんな呑気な時間とは別に、イベントの後片付けに動いている面々もあった。


例年通りに終わり、落ち着いて来た頃

一枚の書類が届けられた情報部は、ざわついた。

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