4-名乗り

綺麗に食材が盛られた皿

それを食べる前にとばかりに、議長から声が上がった。


「そういえば、名乗りあったか?」

議長の疑問から周りを見合った。


「名乗ってないっけ?

せっかくだし、僕から。キースでよいいよ。」


軽い。

正式な名を言ったのか疑問があるも、口にしない。

長くても覚えられる自信がないのもある。


「竜人の、ロードに。カナンの所属は?」


「今は、第二の情報部です。」


キースの問いに、含みを持たせてカナンが答えた気がした。


「セリ。ロードの番で、議長預かりの普通の子」


“普通ではないな”

との目線を受け、セリは首を傾げる。

その見た目と体格は、一般的と言えるが。その行動力と魔力操作は常人にはないものであり、兵士であっても稀だ。

12歳の普通の子供では通らない。


その子は、はやく食べてみたくて皿の方に気を取られている。

『お偉いさんより先に食べない』と教わった礼儀を実践していた。

この場合、お偉いさんの席にいる議長とキース様だ。


“待てる子”

隣のカナンとロードには、ソワソワしているのがまるわかりだが、おとなしく座っている。


次の挨拶とばかりに、礼儀正しく立ち上がったのはロードの前の席。

「団長を務める、アクレイオスだ。」

長めの髪が緩やかにカールする。

貴族の洗練された動きを見せ、キラっとした男性と言った風だ。


「第5の部隊長、ザイルだ。」


オッサンと言われていた、背が高いのでじっくり見たのは初。

機嫌が悪そうな顔だが、平常時からそうらしい。シンプルな挨拶は、長年兵士をしてきた雰囲気を醸し出していた。オッサンと言うほど壮年には見えないが、団長より年上に思う。


「第七所属、ライリーです。」

キチっと挨拶する様が、優等生のイメージのまま。

周りにいた兵士に、ライルと呼ばれていたが、愛称の方だろうか?



やっと、名前がわかったが特にこれから接点もないだろう。


ここまで名前を知らなかったのは、身内での模擬戦で名乗りなど必要なかったためだ。儀礼的な模擬戦では、しっかり名前を言うが。

身内の力を見せる機会となると、さっさと戦いたいという気持ちのが先で、端折られた。気質の問題もあったとおもう。

知ってるわ!おもがゆいので、笑ってしまう緊張感のなさは身内ゆえの弊害だ。


騎士は貴族がなり、兵士は平民だ。

『その両方が、民を守る。』


それぞれ領分があるものの、目的は同じく民の盾であり矛。

上下はあるものの編成され、統制がとれていた。


『極北の城』では若い兵士が多いため、問題も多そうだが。


騎士同士ならあるかもしれなかった名乗りが今、なされた。

(この席で騎士は、団長だけなのか?)


1人会って名乗りもされたが、セリは忘れている。

そこらへんは後でシュルトに聞いてみようと思い、考えるのを止めた。

組織編成って教えてもらえる部分だけ聞くことにする。


北の砦にいた事で、敵対している訳ではない。

被害者と判断され、探し人と接触をしているセリに、議長の不信はなかった。キースも同様に、調べ済みである。



そんなセリは、(親子で似るというものか。)


団長と新兵の容姿が似ているのを観察し

クロウと呼んでいた子を思い出すも、似ているかは分からなかった。


そして

食事に手をつけても良いようなので、食べた。


花のような鮮やかな皿の上。目にも楽しいが


「おいしい。」


大人は会話も進んでいた。

議長とキース様、団長とロードの声もたまに入る。

その内容より、大盛りのメインに注目する。


その肉量が増えてきたのに戦々恐々とした。

残したくないが、セリは小食だ。


ことっと置かれた皿を見る

特別少なめのようだ。

ほっとする


感謝した。

隣のカナンに聞きながら、食事を進める。


大人の話には、まだ加わっていなかった。

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