3-豪華絢爛
「セリ、これ着てみて」
シュルトが、カナンと戯れているセリに声をかける。
その手には、子供用サイズのジャケット。
滑らかな翠色の生地に、結びでできた飾り紐が縦に並ぶ。
袖口には刺繍が施され、騎士服の形であるものの華やかさがあった。
セリの機嫌が急上昇した。
新品で豪華な自分の服など、初めての経験だ。その機会さえない環境だった。孤児院でも北の砦でも、間に合わせの服。大人の服を詰めた布。
大人になったら、自分の服を買う!と思うくらいには憧れだった。新しい服とは嬉しいものだ。
「ありがとう!」
明らかにセリのために準備してあった上着。嬉々として着て、カナンに見
せている。飾りの紐ボタンなど、ロードと揃うように民族的なデザインだった。
ちなみに、ロードには『セリと同じデザインよ?』ですぐに着せられた。
セリの喜びようが、年相応で微笑ましい。用意した甲斐があったというものだ。商人の手腕を発揮した。
やっと全員の準備が整い、揃って席について食事が運ばれるところだったが…
ここで席順に不満を言ったのは、ロードだ。
「セリから遠い。」
議長とキースが並び、
模擬戦での対戦相手同士が向かい合った形になる。
戦いの健闘を讃える食事会である。
“常に膝に乗せて居たい”
番への独占欲を発揮した発言だった。遠慮などないが…
「ここに座る」
そのセリが拒否した。普段なら届かない高さの椅子が、今回はクッションの入っている特別性。
個人差があるので小柄な獣人向けの椅子もある。
なんならドワーフも使っている代物。
久しぶりに1人しっかり座る機会を優先させた。
ロード、絶望である。
「ほら、座れ」
カナンに促され、抵抗もなく座った。セリに届かない、カナンも邪魔だった。
「たまにはわがまま聞いてやれよ、嫌われるぞ〜?」
人族と獣人では番に対する理解、本能も含め違いが出る。特に注意が必要とされる竜人。
次いで番への執着が強いとされるのは、狼獣人である。
そのカナンに嗜められたが、番からの拒否がショックで聴こえていないかもしれない。
その様子に、向かい合っていた男達は
驚く者と苦笑する者に別れた。
「いつも、ああなのか?」
つい漏れたのは、獅子の獣人。団長の実子でありセリの対戦相手の新兵。思わずと漏れたのは信じられないといった声色。
強者・竜人のイメージが崩れたのだろう。その怜悧な翠色の髪と黄色の目からロードは冷たい印象を持たれやすい。事実、不機嫌だと冷気を発生させる氷魔法の魔力が漏れる。最近の直接の被害者はカナンだ。
セリは、向かい合っている新兵に頷いて肯定した。
わかったようで何より。と偉そうな内心。
それから、並ぶ騎士服の存在感に、目を奪われ
その先の議長とキース様に行き着いた。
なんと煌びやかな空間か。
もともとが貴賓を迎える場所。
その通りに、この城でトップが揃っている。
豪華さに気負いなく馴染む2人は、眼福であった。
年頃の女性なら、黄色い声をあげるくらいの美貌なのだが。
セリは早いうちに、目を移してしまう。
食事が運ばれてきたからだ。
それにカナンが気づき、少し笑う。
“やはり子供だな”と。
美貌と権力、金もある2人より食べ物に目が行くあたりが。
不機嫌になると吹く、ロードからの冷気が来ないので嬉しくもある。
食事の良い香りが漂う。
前菜が配膳され、飲み物も揃った。
大人組は酒だが、セリと獅子の新兵は果実水だ。
議長が杯を持ち
闘いを褒め称え「乾杯」とグラスを上げた。
とりあえず、和やかに食事会が始められた。
堅苦しい形式ではないので、どんどん食事の皿が並べられるのだった。
その量に、全て食べられるか密かに気合いを入れるセリだった。
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